魔珠 第12章 最終交渉(7) 魔術師ヌビス6 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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なぜかを考えるよりも先にキリトはスイに駆け寄った。意識があるのかないのか額に汗をにじませ、苦しそうに息をしていた。右胸の刻印が真っ黒なローブの上からでも分かるくらい強い光を放っている。
 キリトが胸に手を当てると、少しだけ光が弱まった。
「お前、なぜ……まさか」
 ヌビスが動揺する。顔が青ざめている。結界の向こうから見ていた室内にいた兵士や魔術師たちも初めて見る顔だ。
「そんな。ありえない」
 そうか、そういうことか、と呟きながらキリトが意識を集中させると、スイの胸の光がみるみるうちに吸い取られていった。
「やめろ!」
 狂ったように叫びながらヌビスは魔法をキリト目がけて放つ。だが、キリトはもうからくりを完全に理解していた。スイの胸に当てていた右手を開いて前にかざすと、ヌビスの攻撃を素手で受け止め、握りつぶした。攻撃は跡形もなく消えた。
「お前か。スイを呪術から解放したのはお前か。私の邪魔をしたのはお前か!」
 そのとき、スイが目をうっすらと開いた。口元には弱々しいが安心しきったような笑顔を浮かべていた。
「キリト」
 心地よい魔力。
 スイはキリトの手首を握った。呪術の力が弱くなり、意識がしっかりしてきてスイはやっと気づく。
「どうやって結界を?」
 ヌビスの魔力で張り巡らされた強力な結界。向こうから何度も叩いても反応しなかったはずだ。
「お前が倒れて助けなきゃって強く思った。そうしたら、結界の中に引きずり込まれて」
「私の魔力を相殺したからだ」
 ヌビスが苦々しげに言った。
「キリト・クラウス。お前の魔力は私の魔力と相反する魔力。通常、相反する魔力を持つ者と遭遇することはない。同一の時代、同一の場所に存在する確率は極めて少なく、ゼロに等しいのだ」
 ヌビスは自嘲するように笑った。
「お前に会った瞬間から嫌な魔力だとは思ったが、まさか相反する力だったとはな。だが、これはこれで貴重なものが見られたという考え方もできなくはない」
 そう感じることで心に余裕ができてきた。ヌビスはいつもの冷徹な魔術師の表情に戻っていた。
「この出会いは私にとって大変有意義であった。面倒な状況にはなったが、これをどう解決するかを考えるのもまた一興。さあ、私を楽しませてみよ」

次回更新予定日:2020/11/28

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