ヴィリジアン 第13章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『ヴィリジアン』を連載しています。
Admin / Write
エストルはいつもどおり背筋をぴんと伸ばして話を始めた。もともと長身だが、他の誰よりも背が高く見える。
「まずパイヤンの状況だが、不確定な情報として冒険者たちからの証言がある。パイヤンに近づくに連れて魔物の数が増えていくような気がするという情報と、パイヤンの方角から魔物がやってくるのを目撃したという複数の情報だ。それを受けて、ソードが調査に派遣されたが、パイヤンには異常がなかったとの報告だった。ただし、周知のとおり、ソードはテルウィング側の人間だ。報告は信用できない。そこで、一度、我々自身の目でパイヤンの状況を確認したいと思う」
 一同納得してうなずく。
「そのために調査隊をパイヤンに派遣したいと思う。ただし、先日話したようにテルウィング側がパイヤンに拠点を移して活動を継続している可能性が高い。その場合、調査だけでは済まない。敵陣営に突入する形になる」
 テルウィングはおそらくゲートを抱えるパイヤンを新しい拠点として今までどおり、ヴァンパイア討伐を実行し、ムーンホルンを支配しようとしている。そのためにセレストとともに姿を消した。グレンにはもうすでに調査に行くという認識はなかった。パイヤンには突撃する気でいる。
「それを踏まえた上で言う。ソフィア、グレン、ウィンター、リン、ルイ。この五名にパイヤンの調査をお願いしたい。そして」
 エストルの目がいつも以上に真剣になった。
「私も調査に同行させてもらいたい」
 エストルは辺りを見回し、反応を見たが、誰も意見する者はいなかった。しばし沈黙が続いた後、ソフィアが左右の様子をうかがって口を開く。
「陛下が城に不在となった今、宰相であるエストル様も城を空けてしまうというのはどうなのでしょうか?」
 異を唱えるつもりはなかった。最初から答えは分かりきっている。だが、一度全員で確認を取っておいた方が良いと思い、ソフィアがあえて問う。エストルは答えた。
「陛下がおられないからこそ、私がこの目でパイヤンの状況を見て迅速に判断を下していきたいと思う」
「城のことは私にお任せください」
 エストルの言葉を聞いてクレサックが申し出た。
「ありがたい。お前になら安心して任せられる。異論はないか?」
 すると、ウィンターが皮肉っぽく言った。
「ないな。宰相殿ほどの腕があれば、充分な戦力になる」
 こちらもすっかり突っ込む気満々である。グレンは苦笑した。
「では、クレッチとデュランには私たちとクレサックとの間の伝令をやってもらおう」
「今までどおりですね」
 こちらも皮肉っぽくデュランが言う。
「シャロンにはヴァンパイアの浄化にあたってもらいたい。少しでもヴァンパイアの数を減らしていこう」
「はい」
 いつもの明るいはきはきした声でシャロンが返事する。
「クレサックや城の者たちに私の仕事の引き継ぎをしたいので、丸一日もらいたい。出発は明後日にしようと思う。クレッチとデュランはこれまでどおり途中でヴァンパイア化した町などの情報を積極的に集めてクレサックに伝えて欲しい。シャロンはクレサックと相談して動いてもらおう。以上だ。質問は?」
 特に口を開く者はいなかった。
「では、解散だ。各自よく備えておくように。クレサック、私と一緒に来てくれないか?」
 先にきびきびとした動作で書類をまとめ、部屋を出る。出発前にしておかなければならないことがエストルには山ほどある。少しでも時間が欲しい。クレサックも後ろからついていく。
 残りの者はしばらく話をしていたが、何となくきりがついたところで、ばらばらと席を立ち始めた。
「グレン、体調悪くなかったら少し手合わせの相手してよ」
 ソフィアに声をかけられてグレンはうなずく。
「私もご一緒させてもらっていいかな?」
 ウィンターが加わると、シャロンもついてくる。
 結局、四人で訓練場に向かった。

次回更新予定日:2017/09/30

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク
PR
「もういいのか?」
 エストルが聞くと、グレンは笑顔で答えた。
「うん。ヴィリジアンがちゃんと力を発揮できることが分かったし。どっちが相手しようか?」
 すると、エストルが少し意地の悪い笑いを浮かべる。
「ウィンターは少し休ませてやろう。グレン、ちょっとだけ相手してくれ」
「すまないな。少し休んだらすぐ替わる」
 素直に腰を下ろして、ウィンターは剣を置く。
「魔法も使っていいぞ」
 剣を構えるとエストルは不敵な笑みを浮かべた。
「今日はエストルもやる気だね。じゃあ、怪我をしない程度にね」
 グレンも剣を構えてエストルの攻撃を待った。

 指定された時間に近づいたので、グレンは会議室に向かった。
「おはよう」
 すぐ後ろからソフィアが入ってきて参加者が全員揃った。グレン、ソフィア、エストル、ウィンター、クレサック、シャロン、クレッチ、デュラン、リン、ルイの十人である。
「おはよう。席に着いてくれ」
 エストルが声をかけると、立っていた者も空いていた席に座った。エストルは今日も早朝から手合わせをしたので、表情がいつもよりも生き生きとしている。ウィンターは若干だが、まだ疲れが見える。
「連日の会議になって申し訳ない。まず、本題に入る前に、二つほど朗報を伝えたい」
 朗報と聞いて皆が一斉に顔を上げた。
「一つは、ヴィリジアンが二つに増えたということだ。グレンにヴィリジアンの魔力を抽出して結晶化してもらった。結晶はグレンの剣に埋め込んだ。これで我々が使えるヴィリジアンの剣が二本になり、グレンとシャロンがそれぞれ一本ずつ手にすることになる」
 参加者たちの表情がぱっと明るくなった。それを見てエストルも少し口元がほころんだが、ほんの一息余韻を楽しむ間を入れただけで、次を続ける。
「もう一つは、一度ヴィリジアンの力で浄化された人は吸血されても再度ヴァンパイア化しない可能性が高いということだ」
 エストルは先ほどグレンに吸血されたときのことを参加者たちに話した。
「いずれの情報もヴァンパイアの殲滅には有利な情報ですね」
 クレサックが嬉しそうに言う。
「そうだな」
 さらりと笑顔で返し、エストルは本題に入る。
「先日も話していたパイヤン調査派遣について相談したい」

次回更新予定日:2017/09/23

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク
「興味深いな。私もヴィリジアンの具合、見せてもらおう」
「ちょっと待ってね」
 グレンは鞘から剣を抜いて握ると、光で覆った。
「危ないから出せる力の量を制限するね」
「なめられたものだな」
 苦笑いしながらも防御を強化する魔法を全身にかける。上級ヴァンパイアの血を取り入れたグレンとヴィリジアンの魔力が繰り出す攻撃だ。普通に受けたらただでは済まない。
「今日はウィンターも昨日以上に練習になると思うよ」
「これは派手にやらかす気だな」
 やれやれとため息をついてエストルは結界を張る。グレンとウィンターは訓練場の中央から左右に分かれてゆっくりと歩いていった。
「いつでもいいぞ」
 ウィンターが剣を構えると、グレンもヴィリジアンの結晶に語りかけた。
「行くよ、ヴィリジアン」
 ヴィリジアンの調子を確かめるための手合わせなので、早速グレンは地を蹴ると、宙に舞い上がり、ヴィリジアンで空を斬り、閃光を飛ばした。淡い緑色の美しい閃光だった。すさまじいスピードで飛んできた閃光をウィンターは剣で全力で弾こうとしたが、威力がありすぎて逆に突き飛ばされた。結界に大きな音を立ててぶつかると、体が地に放り出された。
「なんて力だ」
 だが、すぐさま容赦なく次の攻撃が飛んでくる。ウィンターは取りあえず上半身を起こして、あわててシールドを張る。間一髪のところで間に合い、グレンの攻撃は爆音を立てて跳ね返り、グレンの後ろの結界に当たってもう一度爆音を響かせ、破裂して消滅した。
「いいよ、ヴィリジアン」
 満足げに言うと、グレンはウィンターの渾身の一撃をヴィリジアンの魔力を帯びた剣で跳ね返した。剣の動きがあまりにも軽く素速く、ウィンターはあっけにとられた。ウィンターの攻撃も結界にぶつかり、爆音とともに破裂して消滅した。
「うん。うまく機能できているみたいだね」
 一度剣を下ろし、グレンはエストルの方に戻ってきた。ウィンターもそれを見て一歩踏み出すが、もう少し足下がふらつき始めていることに気づいた。
「結構効いているな」
 まだ二撃しか喰らっていないのにこの様だ。しかもヴィリジアンの魔力を制御した上で、だ。

「もっと腕を磨かないと、上級ヴァンパイアにはとても太刀打ちできないということだな」
「後でまたやろう」
 にこやかに微笑むグレンは恐ろしいことに全く息を切らせていない。

次回更新予定日:2017/09/16

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク
「行くぞ、グレン」
「うん」
 グレンの剣を右手で持って、いらないかもしれないと思ったが、グレンに肩を貸してみた。グレンは素直にエストルにもたれかかった。そんなに体重がかかっている感じはしなかったが、やはり支えはあった方が楽だったようだ。
 仮眠室は隣の部屋だった。エストルはその辺も計算して部屋を借りたに違いない。
 壁に生まれ変わったグレンの剣を立てかけ、エストルはベッドにグレンを寝かせる。
「片づけをしてくる」
「ありがとう。ごめんね。何から何までやらせちゃって」
「それはこちらの台詞だ」
 そう言い残すと、エストルは部屋を出ていった。
 グレンは目を閉じて疲れ果てた体を休めることにした。

 翌朝、体調はすっかり元通りになっていた。
 昨日はよく休ませてもらった。しばらく仮眠室で休ませてもらった後、エストルと少し話をして自室に戻った。自室でもゆっくりした。夕方になってから、ウィンターとシャロンがグレンの様子を見に来た。
「将軍、お疲れ様です。ありがたく使わせていただきます」
 シャロンはウィンターから魔術研究所でのいきさつを聞き、ヴィリジアンを返してもらったことを伝えて礼を言った。そのまま少し話をして夕食を一緒にした。エストルは忙しかったのか、顔を見せなかった。
 グレンは身支度をして剣を手に取った。
「おはよう、調子はどう?」
 剣に話しかけると、ヴィリジアンの結晶が反応して輝く。グレンはにっこり笑って剣を持って訓練場に向かった。

 訓練場に来ると、昨日と同じようにエストルとウィンターがいた。昨日と違い、土のグラウンドと壁に囲まれた殺風景な場所だったが、今日も美しい青空が広がっている。
「もう大丈夫なのか?」
 エストルが聞くと、グレンは笑顔で答えた。
「うん。昨日ゆっくり休ませてもらったから」
「それは良かった」
 ヴィリジアンの輝きが目に入ってエストルはにやりと笑う。
「今日はやる気だな」
「うん。ヴィリジアンが僕の剣でうまく力を発揮できるか見てみたいと思って」
「そうだな。相手させてもらおう」
 ウィンターが言った。すると、エストルが目を輝かせる。

次回更新予定日:2017/09/09

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク
「これは好都合だな。何度も同じ町に浄化しに行く必要はないということだ」
 ヴァンパイアの数が増えないようにするという面から見ると、非常にはかどる。
「そして、私も何度も斬られなくても良いということだな」
 エストルが言うと、グレンは思い出したように肩を落とした。
「ごめん、エストル。我慢、していたんだけど……昨日、吸わせてもらったばっかりなのに……」
 こんなことはなかった。一度吸血すれば、何日も持った。
 エストルはグレンの前にかがみ込んで、肩に手を載せた。
「一度に大量の魔力を使ったり、ヴァンパイアの体なのにヴィリジアンの力の器になったりしたのが原因だろう。吸血というのは、魔力を補うことも目的なのだろう?」
 すると、ウィンターもうなずいた。
「特に、ヴァンパイアの体にヴィリジアンの力を一時的にとはいえ、ため込んだというのは負担が大きかったと思う。いくらヴィリジアンの魔力が大きいとはいっても、グレンほどの術士があんなに苦痛を感じることはないはずだ」
「そう、なんだ」
 吸血して魔力が少し回復したグレンは立ち上がった。まだ体がふらついている。エストルが何も言わずに壁に立てかけてあったグレンの剣を台の上に持ってくる。
「ありがとう、エストル」
 剣を受け取ると、できたてのヴィリジアンの結晶を手に取って剣の柄の上に置いた。
「これが僕の剣だよ。気に入ってくれるかな?」
 そう言いながら、グレンは手をかざす。青白い光を当てると、ヴィリジアンの結晶から強く大きな緑色の光が八方に飛んだ。そのまばゆさに一瞬目がくらんだが、光が消えると、ヴィリジアンの結晶はグレンの剣にしっかり埋め込まれていた。
「居心地は悪くなさそうだね」
 剣の一部となったヴィリジアンの結晶を観察して、グレンは微笑む。
「これからもよろしくね、ヴィリジアン」
 ヴィリジアンがグレンの言葉に反応するようにきらりと光った。エストルがグレンの肩に手を置く。
「グレン、少し仮眠室で休ませてもらえ。まだ足下がふらついているぞ」
「うん。分かった」
 エストルはグレンの返事を聞いて、グレンの剣を手に取った。ついで、ヴィリジアンの柄に手を伸ばすと、ウィンターがその手を制した。
「ヴィリジアンはシャロンのところに持っていこう。私から話をしておく」
「では、お願いしよう」
 エストルはヴィリジアンから手を放し、ウィンターに譲った。

次回更新予定日:2017/09/02

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク
HOME | 1  2  3 

忍者ブログ [PR]