ヴィリジアン 第6章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『ヴィリジアン』を連載しています。
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「幻覚を、見せられた」
「どんな?」
「すごく、怖い」
 鮮明な映像が脳裏をかすめる。グレンは手で顔を覆った。絶叫しそうになったそのとき、肩に手がかかった。
「よほど怖かったのだな」
 優しく声をかけられて、グレンは現実に戻る。
「先ほどの夢にも出てきたのではないか?」
 グレンは戻ってきそうな残像を意識の奥に追いやりながら頷いた。
「助けてやりたいが、こればかりは。記憶を封じるしか方法がない」
「それは困る。それに幻覚は僕が潜在的に恐れていたことが投影されただけだから、幻覚の記憶を封じてもそのイメージはなくならない」
「そうだな。<追跡者>の力で恐ろしい幻覚を見たという情報は、記憶から抹消しない方がいい。次会ったときにどのような攻撃パターンがあるか覚えておいた方が有利だ」
 それに、<追跡者>はその幻覚を現実にすると言った。忘れてしまってはそれを阻止しようと試みることさえできない。
「幻覚の内容は話さないのだな」
 どきっとする。
「いや。いつものお前なら自分からそこまで話すような気がしてな」
「思い出したくないんだ」
 事実だ。少しでも思い出せば、そのイメージが大きく膨らみ、リアルな感覚になる。だが、それ以上に幻覚の内容を他者に話すことはできなかった。自分がヴァンパイアであることを他者に知られるわけにはいかなかった。
「そうだな。少し魔力を分けておこう。回復の助けになるだろう」
 ウィンターはグレンの手を握った。優しい光がふんわりと現れ、二人の手を覆う。
「ありがとう、ウィンター」
 やっと安心した顔になってグレンは言った。
「歩けるようになったら麓に戻ろう」
「うん」
 グレンは目を閉じた。何だかいろいろなところが疲れているような気がした。

 夜、全ての公務が終わって自室に戻ると、客がいた。
「ご機嫌いかが、陛下?」
 セレストは暗闇にぼうっと浮かび上がった少女の姿を見つけ、そちらに歩いて行った。
「最近またよく頭痛がする」
 少女はくすっと笑った。
「それはいけないね」
 少女はセレストの額に人差し指を当てる。少女の金色の瞳が輝き、指からは不気味な光が放たれる。セレストは目を閉じた。
 光が消えると、セレストは聞いた。
「で、どうだった?」
「駄目みたい。やっぱり要塞を落とすには壁から壊していかないと」
「そうか」
「<002>は例えばグレンの部下なら何か知っているんじゃないかって言うんだけど」
 セレストは少し考え込むような素振りを見せた。
「最近グレンは単独行動が多いと聞いている。だが、確かに何か話を聞いている可能性はあるな」
「面白そうだし、とりあえずやってもらおうかな。ねえ、グレンの部下のことはあの人に聞けば分かるよね?」
 無邪気な笑顔で少女は聞く。
「そうだな。直接聞いてみればいい」
 少女は一礼して消える。セレストは何事もなかったかのように燭台に灯を点した。

次回更新予定日:2016/03/26

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ウィンターは続けた。
「テルウィングが開発したヴァンパイアは全部で5体だ。<001>は試験段階で失敗。<002追跡者>は最初に開発に成功した男性の容姿をしたヴァンパイアで、機動力が特徴だ。<003告知者>はセレストと接触した少女の容姿のヴァンパイアだ。以前話したとおり、離れた場所からの干渉が可能だ。<004>は開発中に暴走し、開発が断念された。そして、<005執行者>。<002>と同じく男性の容姿をしていて、機動力こそ劣るものの、力が桁違いだ。これまでの開発で培った最新の技術を詰め込んだ最強のヴァンパイアと言ってもいいだろう。つまり」
 ウィンターは険しい目でグレンを見る。
「3体の上級ヴァンパイアが現存するということだ」
 3体。あの強さのヴァンパイアが3体も。
「テルウィングも現段階で<005>を人目に晒すような行動は取らないと思う。お前が遭遇したのは、おそらく<002>だ」
 機動力のいう点では納得だ。あの速度はやはり尋常ではない。
「戦ったのか? <002>と」
「うん」
 グレンは下を向いた。
「最初はね、攻撃をはねのけて応戦したよ。でも、結局力負けして」
「やはり人間離れした実力の持ち主だな、お前は」
 グレンは少し動揺して顔を上げる。
「普通の人なら上級ヴァンパイアの攻撃をはねのけるなんてとても無理だ。ヴァンパイアの魔力に圧倒されて体を動かすことさえままならない」
 それはまさにグレンが初めて上級ヴァンパイアに遭遇したときの状況そのものだ。
「一撃も加えられなかったけどね」
 引きつった表情でグレンは言う。すると、ウィンターはにっこり笑った。
「とにかく殺さずに去ってくれて良かった」
「ウィンターが来てくれなくてこのまま放置されていたら、死んでいたと思うけど」
「そうだな。もうこのままでも自然に息絶えると考えたのか、他にやることがあったのか」
 少し考えていたが、ふと何かに気がついたようにウィンターは口を開いた。
「グレン、魔力が全然戻っていないな」
「え?」
 そういえば、ヴァンパイアと対話して意識がなくなって、そのときから奪われた魔力がほとんど回復していない。いつもなら自然回復する。しかも、グレンはその高い治癒力の効果で、他の人よりも回復が早いはずなのに。
「精神的なダメージを喰らってないか?」
 グレンはびくっとした。確かに精神的なダメージを喰らうと、魔力が回復しにくくなる。

次回更新予定日:2016/03/19

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「ウィンター」
 グレンの体がどさっとウィンターの方に倒れてくる。慌てて両腕で受け止めるが、体が小刻みに震えている。
「グレン?」
 見たことのない反応にどう対処して良いのか分からず、ただ戸惑う。
「悪い夢でも見たのか?」
 だとしても、この反応は尋常ではない。グレンは生気のない声で答えた。
「う、うん……」
 そして、小さく呟いた。
「夢、夢だよね」
 言い聞かせるように確認すると、少し冷静になった。グレンは体を起こす。
「魔獣は?」
「倒したのではないのか?」
 ウィンターは驚いて聞き返す。
「いや、僕は」
 そこでグレンは口をつぐんだ。ウィンターは続きを待ったが、その後には沈黙しかなかった。仕方なくウィンターは自分の成果を公表した。
「念のため倒せていない可能性も考えて付近を捜索した。見当たらないから倒したものだと」
「そう」
 グレンは唇を噛み締めた。だが、すぐに口元を緩めて、時折見せる朗らかな笑顔になる。
「暖かいね」
 二人の横には火が焚かれている。ここは意識がなくなった場所、上級ヴァンパイアと対峙した岩棚だ。うっすらと霧がかかり、ひんやりとしていた。ウィンターが焚いてくれたのだろう。
「こんなところに何時間も倒れていたら、ただでは済まない」
「そうだね。ありがとう。いつも助けてもらってばっかり」
「いや。こちらも油断していた。ワイバーン型の魔獣と聞いていたから、すぐに片づけて帰ってくるとばかり思っていた。まさかこんなところで倒れているなんて」
 グレンは押し黙った。そして、しばしの沈黙の後、無表情に呟いた。
「上級ヴァンパイアに、会った」
「何?」
 ウィンターは驚いて言った。
「上級ヴァンパイア? どんな?」
「男性の容姿をしたヴァンパイア」
「だとしたら、<002追跡者>もしくは<005執行者>」

次回更新予定日:2016/03/12

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「これでも答えぬか。なら、これでどうだ?」
 不快音の強度が許容範囲を超えてくる。頭の激痛は耐えられないくらいになり、グレンは頭を抱えて体をよじってのたうち回った。
 話さない。絶対に。ヴィリジアンのありかも。ウィンターやクレサック、シャロンのことも。
「何?」
 どこかでガラスの割れるような音がして、何かが砕けた。
「そんな、ばかな」
 宙に浮いていたグレンの体が跳ね飛ばされ、岩盤に打ちつけられて倒れた。
「呪縛を、断ち切ったというのか? 私の魔力の方が上なのに。なぜだ」
「魔力じゃないよ。呪縛を断ち切ったのは」
 どこからか声がする。姿はどこにもない。
「<003>か?」
「そう。グレンの答えまいという強い意志が、あなたの魔力に勝ったの」
「意志? 幻覚で相当の精神的ダメージを喰らわせたはずだ」
「そんなに簡単にはいかないよ。<004>が何度もやって駄目だったんだから」
 そう言う少女はどこか楽しそうだった。この結果を面白がっているようにしか見えない。
「まあ良い。目的の半分以上は果たしたしな。あいつらが疑っていたとおり、このグレンという男、いろいろなことを知りすぎている」
「追跡でもしてみる?」
「もっと面白い方法を思いついた。
 ヴァンパイアは口笛を吹いた。大きな鳥型の魔獣が飛んできた。
「ご苦労だった。別の場所に移動しよう」
 そう言うと、ヴァンパイアは魔獣とともに姿を消した。
「楽しみにしているよ、<002>」
 少女は水晶玉の前で微笑んだ。
 水晶玉には岩棚で意識を失って倒れているグレンの姿が映っていた。

 自分の絶叫で目が覚めた。
「グレン。しっかりしろ、グレン」
 激しく息を切らしているグレンは、隣にいるウィンターの姿に気づかない。目が覚めた勢いで上半身をすぐに起こしたが、そのまま苦しくて前のめりになった。そこから体を起こせない。
「グレン?」
 少し呼吸が整うまで待って再度声をかえてみる。すると、グレンはゆっくりと顔をその方向に向けた。

次回更新予定日:2016/03/05

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頭が割れるように痛い。何かがまたグレンの意識の中に侵入してくる。
 ぱっと辺りの景色が変わった。空間が歪んでいる。ただひたすら歪んでいる。そして、赤い。狂気の赤。それを見ているだけでおかしくなりそうだ。どこにも地面はない。だが、グレンは見えない面の上に確かに立っていた。
「何、これ……」
 見たことのない風景に何とも言えない不安がよぎる。
「どうだ、居心地は?」
 ヴァンパイアの声が空間全体に響き渡る。まるで声の波形に反応するように頭がガンガン痛む。
「いくつか聞きたいことがある。答えてもらおう」
 甲高い不快音が耳に突き刺さる。グレンは激痛に耐えられず膝をついた。
「最初の質問だ。我々は、何者だ?」
 何を言っているのか、一瞬そう思ったが、グレンがどう対応しようか考えるよりも先に唇が勝手に動き出した。
「あなたはヴァンパイア。テルウィングの生物兵器。ムーンホルンを滅ぼすために国王陛下を操りゲートの封印を解きこの地に送られた」
「そうだ。そのとおりだ。よく知っているな」
 グレンははっと右手で口を押さえた。
 今、何を喋った?
「無駄だ。今、お前の意識は操られている。先ほどのようにな」
「そんな」
 何とかしてこの状況から脱しなければ。しかし、思考を巡らせるよりも前に次の質問が来る。
「ヴィリジアンとは、どういう剣だ?」
「ヴィリジアンは」
 またしても口の方が先に動き出した。
「ヴィリジアンはエリーの洞窟に封印されていた魔剣。ヴィリジアンの瞳を持つ者を使い手とし、ヴァンパイア化した人間を浄化し、元に戻す力を持つ」
「ほう。本当に何でも知っているのだな」
 息が乱れていた。鼓動も速くなっている。頭が真っ白になりそうだ。
「では、聞こう。ヴィリジアンは今、どこにある?」
 先ほどの不快音が再び脳裏を貫く。だが、答えるわけにはいかない。ヴィリジアンは最後の希望。それがヴァンパイアの手に渡ってしまったら。グレンは歯を食い縛った。
「答えぬか。見事な魔力耐性。では、何でも知っているお前に問おう。それらの知識をお前に与えたのは何者だ?」
 不快音が強くなる。グレンは呻き声を上げた。

次回更新予定日:2016/02/27

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