ヴィリジアン 第1章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『ヴィリジアン』を連載しています。
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それからだった。グレンがソードの血なしには生きられなくなったのは。
「ソード、僕は一生こうして生きていくしかないのかな」
「必要ならば、いつでも側についていてやる。だから、お前はお前らしく生きろ。いいな、グレン」
 ソードにそう言われると安心する。普段はあまり口数は多くないが、二人でいるときは優しい言葉をたくさんかけてもらえているような気がする。きっとグレンの不安はヴァンパイアに吸血されたことのあるソードにしか分からない。他の誰かが代わりになることはできない。

「ちょっと来い、グレン」
 グレンの部屋のある廊下の角を曲がると、腕を組んで壁にもたれかかっていたエストルが急に起き上がって乱暴にグレンの腕をつかんだ。先ほどからここでグレンを待っていたらしい。
「何するんだよ、エストル」
 動揺してグレンが切り返す。しかし、エストルは何も言わずにグレンの手を引いたまま自室に連れ込んで扉をばたんと閉める。
「またソードの部屋にいたのか?」
「……」
 エストルはグレンがソードと二人だけでいることを快く思っていない。そのことは分かっている。
「あまりあいつには気を許すな」
 この言葉を聞いたのはこれが初めてではない。
「あいつは……信用できない」
 どうして。ソードが冷酷な性格だからか。眉一つ動かさずにヴァンパイア討伐に行くような人だからか。
「ソードは……優しい人だよ」
 言っても無駄だということも分かっている。ソードがあのように優しく振る舞ってくれるのは自分の前だけだ。
 エストルは最初からソードに対して不信感を抱いていたらしい。というのも、ソードというのは国王がパイヤンという町に行ったときに自ら連れてきて王騎士にした者で、素性がよく分からないからだ。性格の変わり果ててしまった国王が自ら選んだ冷酷な王騎士。エストルはそんなソードをずっと警戒している。
「グレン、分かってくれ。お前のことが……心配なんだ」
 普段あまり感情を表に出さないエストルからそう言われると、さすがにグレンも口答えできない。だが、ソードは絶対に必要な人なのだ。
「君の言ったことは覚えておくよ」
 差し障りない言葉でグレンは逃げる。
「ああ。どこかに覚えておいてくれ」
 エストルは扉を開けてグレンを解放する。自室に向かうその背中をじっと見送る。

次回更新予定日:2015/07/18

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「えっ?」
 驚きで言葉が出なくなる。
「誰にも、気づかれなかった。何ともなかったから」
「そんなことも、あるの?」
 ヴァンパイアに吸血されたら、死ぬかヴァンパイアになるかのいずれかと思っていた。ヴァンパイアになる人が圧倒的に多い。
「時と場合によるのかもしれない。どのクラスのヴァンパイアに噛まれたかとか、あとは噛まれた人間の個体差とかも関係するのかもしれない」
 よく分からないことだらけだ。だが、確かにどのような人が即死し、どのような人がヴァンパイアにあるのかは分からなくても、時と場合によって結果が分かれるということは事実だ。
「グレン。もし何か体に異変を感じたらまずは私に相談してくれないか? お前も、噛まれたことはよく考えてから話した方がいいと思う」
「うん。そうだね。そうする。ありがとう、ソード」
 しばらく休んで体力が戻ると、二人は町を離れた。
 その帰り道の森を歩いている途中だった。
「ソード」
「どうかしたか、グレン?」
「……吸いたい」
「何?」
「吸いたい」
 ソードが足を止めて、グレンの緑色の瞳を見つめる。その瞳は虚ろだった。
「そうか」
 事態を理解するのに時間はそうかからなかった。
 ソードは顔を少し上げてグレンに言った。
「吸え」
「えっ?」
 驚きでグレンは我に返る。
「私なら吸われても大丈夫だから」
「うん」
 結局欲求に勝てず、グレンは迷わずソードの首筋に唇を寄せた。
「うっ」
 ソードのかすかな呻き声も聞こえないくらい夢中になって血をすすった。とても心地よい。何だか落ち着く。だが、すすり終わると、急に虚無感と恐怖感が襲ってきて涙が溢れてきた。
「ソード……どうしよう……」
 胸に顔を埋めて泣くグレンをソードはそっと抱きしめた。
「いいか。吸いたくなったらいくらでも私が吸わせてやる。だから、絶対に他の人にその牙をむくな」
 顔を埋めたまま、グレンはうなずいた。

次回更新予定日:2015/07/11

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「グレン。気がついたか?」
 緑色の瞳を開くと、知っている顔がぼうっと映る。
「グレン、私が分かるか?」
 まだ思考回路がうまく働いていない。
「あ、僕……」
 生きている。しかも意識もある。ヴァンパイアに血を吸われたはずなのに。
 ソードが何も言わずにじっと顔を見つめながらグレンの手を取る。いつもは涼しい眼差しが心配そうにグレンを見ている。
「……ソード?」
「良かった。分かるのだな」
「ヴァンパイアは?」
 不意に思い出してソードに聞く。
「逃げられた。大技を喰らわせて追い返すだけで精一杯だった」
「追い返した? ヴァンパイアを?」
 やはりソードの実力は王騎士の中でも飛び抜けている。あのヴァンパイアを追い返したなんて。全く歯が立たなかったのに。
「その……何ともないのか?」
 ソードがグレンに尋ねる。
「たぶん。今のところは何ともないみたい」
「そうか……」
「でも、ヴァンパイアに噛まれて何ともないなんてことあるのかな」
「それは……」
 ソードはちょっと考えて決心したように口を開く。
「グレン」
「何?」
「これから話すことは、他の誰にも言わないで欲しい」
「言わないで、って……」
「いや、言っても支障はないのかもしれないが……ちょっと話してもいいものかどうかずっと迷っていることなんだ。だから、私が話すと決めるまで、他の人には話さないと約束してくれないか?」
「……分かった」
 釈然としないものを感じながらもグレンは約束する。ソードはうなずいて話を切り出した。
「私も……小さい頃……ヴァンパイアに吸血されたことがあるのだ」

次回更新予定日:2015/07/04

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以前、上級ヴァンパイアが現れたと聞き、ソードと二人で討伐に行った。
 町から少し離れた場所にある墓地は、昔戦争でこの町が壊滅状態になったとき、その犠牲となった人たちが多く眠る場所だった。そこでゾンビが大量に発生したため、二人は墓地を封鎖し、結界を張り、その鎮静化を図った。
「向こうの方でも発生しているのかな」
 グレンは広い墓地を敵を斬りながら見渡した。夜なので暗くてよく分からないが、まだかなり遠くまで敷地が続いている感じだ。
「ソード、ここが片づいたら二手に分かれよう」
「分かった」
 二人はとっとと辺りにいたゾンビを闇に返すと、それぞれ反対に向かって走り出した。
 グレンの考えたとおり、墓地は先まで続いていて、さらに小道の向こうにまた敷地が見えた。結界を広めに張っておいて正解だったと思った。
 その小道を走っているときだった。きらりと闇の中に狂気に満ちた黄金の瞳が光る。
「あ、あなたは……?」
 グレンは人影より少し先の方まで走って止まる。すると、月明かりがその正体をあぶり出す。
「ほう。これはまた上等な人間が来たものだ」
 ヴァンパイア。しかも今まで会ったヴァンパイアと外見も気配も違う。圧倒的な魔力をグレンは感じる。ただ腕を組んで宙に浮いているだけなのに。
「上級ヴァンパイア?」
「フフ。まあそう呼ばれているらしいな。確かにその辺のヴァンパイアとは違うがな」
 近くにいるだけでも押しつぶされそうな気。一人ではかなわないのではないだろうか。
「私に何か用か?」
 余裕のある笑いでグレンを見る。
 勝ち目はあるのか。グレンは考える。なくても逃げられそうにない。少なくともソードが向こうを片づけてこちらに来るまでは何とかしなければならない。
「あなたを……倒す!」
 言い放つなり、グレンは斬りかかっていった。ヴァンパイアはその黒いマントを翻しながら素速く交わす。交わすというよりも消えて瞬間移動しているような感じだ。
「は、速い」
 グレンがつぶやくと、ヴァンパイアは口元を吊り上げた。
「そんなものか。それでは私を倒すことはできんぞ」
 ものすごい勢いでヴァンパイアは閃光を放った。グレンはとっさに避けたつもりだったが、避け切れていなかった。速すぎる。何もかもが想像を絶する。桁違いという言葉がふさわしいか。
「く……っ」
 全身の力が急に入らなくなって、その場にくずおれる。手にしていた剣が金属音を立てて大地に放り出される。
「全く張り合いがないな」
 ヴァンパイアが手をすっと下から上に上げていくと、グレンの体が宙に浮き上がった。力が入らないので、頭はうなだれている。
「良い獲物だ。美しく魔力の強い青年。最も私に力を与えてくれる獲物」
 嬉しそうに微笑すると、ヴァンパイアはグレンの首筋に牙を食い込ませた。
「んっ!」
 痛み以上に恐怖で目を閉じる。このままヴァンパイアになってしまうのか、それとも死んでしまうのか。意識は消えてしまうのだろうか。血を吸われ、頭がぼうっとしてくる。
「ああ……」
 絶望の溜息が唇からこぼれる。
「グレン!」
 遠くで聞き覚えのある声がしたような気がした。ソードか。
「貴様……」
 目の前でソードがヴァンパイアに斬りかかる映像がかすむ。
 グレンはそのまま意識を失った。

次回更新予定日:2015/06/27

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「さあ、久しぶりの再会に乾杯しましょ」
 二人を席に座らせると、手際よくグラスに酒を注ぎ、自分も席に着いた。
「乾杯」
 グレンが言うと、ソードは無言のままグラスを掲げた。
「いい酒だ」
 一口飲んでやっとソードが口を開く。
「そうでしょ」
 ソフィアが嬉しそうに微笑む。
「あの」
 グレンはテーブルに一旦グラスを置いてソードの方を見る。
「さっきはありがとう」
「構わない」
 すると、ソフィアが溜息をついた。
「グレン、あなたの気持ちはよく分かるけど、あまり陛下に楯突くとソードだってかばい立てできないわ」
「エストルにもそう言われた」
 ソードはヴァンパイア討伐を命じられても、眉一つ動かさずに引き受ける。完全に仕事だと割り切っているらしい。感情と理性の棲み分けがよくできているというか、理性が強靱なのだとグレンは思う。グレンも最初はあまり考えずに任務をこなしていた。だが、ある出来事で認識が変わった。それからはヴァンパイアをただの魔物だと考えられなくなっていた。
「いずれにしても、このままだとヴァンパイア化する村が増えるだけね。早く親玉を捕らえないと」
「そういえば最近情報が入らないね」
 上級ヴァンパイアと思われる目撃情報がこれまではちらほら入ってきていたのだが、ここ数ヶ月途絶えている。活動が鈍っているのだろうか。どこかに潜んでいるのだろうか。
「まあいいわ。堅い話はこのくらいにして、せっかくだからお酒を楽しみましょう」

 結局三人で食事もしてまた話し込んでいたら結構な時間になってしまった。
「ソード」
 ソードの部屋の前でグレンも立ち止まる。
「まだ飲み足りないのか?」
 うなずく代わりにグレンはソードを緑色の瞳でじっと見つめた。
「分かった。つき合おう」
 ソードが招き入れると、グレンは中に入った。扉が閉まるなり、グレンはソードの首筋に食いつく。首筋に刺さった牙から血の紅が細く滴れ落ちる。ソードは小さな呻き声上げただけで、グレンの体を支えながら静かにその行為が終わるのを待った。
「ごめんなさい。我慢……できなくて」
 顔を起こすと、グレンは慣れた手つきで傷口に手を当てる。暖かな光が溢れ、傷口は跡形もなく消えた。
「満足したか?」
「……うん」

次回更新予定日:2015/06/20

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