魔珠 第1章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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舞踏会の翌日は休日だった。スイは平日であろうと休日であろうと毎朝六時頃に起きて剣を持って中庭に行き、一汗かくまで剣を振るう。小さい頃からの習慣なので、何となくこれを飛ばすと、調子が出ない。
 エミリとの手合わせの約束をしたので、今日は軽めに済ませた。
 朝食を取り、少しのんびり読書などをして九時前に家を出た。
 クラウス邸に着くと、キリトとエミリが待っていた。
「やっぱりローブかよ」
「当然だ。何か不満でもあるのか?」
 からかいに来るキリトをさらりと交わす。
 早速中庭に招かれ、エミリと手合わせする。
「行きますよ」
 勢いよくエミリがかかってくる。交わすという選択肢もありだったが、いちおう上達したか見るという面目でやっているので、最初の一撃は受け止めてみることにした。
「なるほど。上達しているな」
 前にセイラム邸で練習につき合ったときとは比べものにならないほど攻撃が重い。力の使い方が格段にうまくなっている。スイは嬉しそうな顔でエミリの剣を払った。エミリはひらりと宙返りして元の位置に戻った。褒められたのが嬉しかったのだろう。一瞬、笑顔を浮かべたが、すぐにきりっとした表情に戻って素速く距離を詰めてくる。スイも今回は待たずに自分から出ていった。剣と剣が交差し、金属音が響き渡る。エミリがすっと力を抜いて次の攻撃に移ろうとした隙を突いて、スイが猛スピードで仕掛けてくる。エミリは舞うように攻撃を交わしながら、反撃の機会をうかがった。
 今だと思って真っ直ぐ剣を振るうと、スイもエミリと同じような軌跡で身を交わす。セイラムから習った同じ型で二人が繰り広げる手合わせは、外から見ていると芸術的といってもいいくらい美しく、キリトの口から感嘆の声がこぼれた。
 セイラムの型は、無駄がない上、余裕がある動きで、体を動かしているだけで心地よい。そんなセイラムの型に慣れ親しんだ者同士で行う手合わせには、軽快なリズムのようなものができてくる。
 この感じ。
 スイは昨夜のダンスを思い出す。他の人とでは感じられない心地よさ。自然にぴったりと合う息。
「もらった!」
 集中力が少し途切れているのをエミリが鋭く察知し、透かさず強烈な攻撃を仕掛けてきた。
 スイは反射的に大きな振りでエミリの攻撃をはねのけた。ひときわ鋭い金属音が鳴り響き、エミリが姿勢を大きく崩す。次の瞬間、スイの剣先はエミリの喉元を指していた。エミリが有利な時間帯もあったように見えたが、これで勝負ありだ。
「まだまだか」
 スイが剣を引っ込めると、エミリは静かに立ち上がった。スイはにっこりと笑った。
「でも、上達している。気を抜いたらやられそうだ」
「本当ですか? 良かった」
 お褒めの言葉をもらったエミリは本当に嬉しそうだ。
「ところで、エミリ」
 スイは気になっていたことをぶつけてみた。
「ダンスは父に教えてもらったのか?」
「はい。先生と奥様にも。先生にはよく練習相手になっていただきました」
「道理で踊りやすいわけだ」
 スイもダンスはセイラムに教わった。練習相手は母のクレアにしてもらった。真似して何度も練習した動作は体に染みついている。
「また相手してくださいね」
「ダンスか?」
「手合わせに決まっているじゃないですか」
 思ったとおりの答えが返ってきて、スイは苦笑した。
「たまにはダンスの相手もさせてくれ。体が思ったとおりに動かせて気持ちがいいんだ」
「では、ダンスの方もぜひ」
 二人で話していると、ずっと手合わせを芝生に座って見ていたキリトが剣を持って立ち上がった。
「エミリ、いくら何でもあんなに上達してないだろう。スイ、お前、デスクワークばっかりで体なまってるんじゃないのか?」
 キリトは不敵な笑みを浮かべた。
「俺が確かめてやる。来い」
 やれやれといった顔をしてスイも剣を構えた。小気味いい金属音が鳴り響く。

次回更新予定日:2018/10/20

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「博士」
 少し驚いた顔でスイは男を見た。
 博士と呼ばれた男の名はレヴィリン。四十歳にして王立魔術研究所の所長である。研究所では魔術の研究の他、魔珠からの魔力供給などの研究も行われている。所長になったのは三十五のときだが、その前から研究所内の魔珠の管理を任されていた。そのため、レヴィリンとはセイラムの代からのつき合いになる。
「ダンスのことは素人だが、お二人の踊る姿は実に美しい」
「お褒めにあずかり光栄です」
 スイが笑顔で返した。
 やんわりとした口調で話すが、レヴィリンの眼光はいつも鋭い。相当の切れ者であることは経歴など聞かなくても分かる。それくらい鋭い目つきをしている。
「珍しいですね。このような場所で会うなんて」
 じっと見つめている視線を逸らすように自分から話題を振ってみる。
「たまたま時間が空いたのでね。息抜きにちょっと顔を出してみたのだよ」
「そうでしたか」
「お邪魔したね。あまり知った顔がいないもので。では」
「ありがとうございます。博士も少し羽を伸ばしていってください」
 レヴィリンが去っていった。スイはほっど胸を撫で下ろす。あまりあの目は得意ではない。
 安堵の息をつくと、隣にエミリがいたことを思い出した。エミリはスイをじっと見上げている。
「ああ。魔術研究所の所長のレヴィリン博士だ」
 エミリが知りたいと思っていたことをすぐに察して、問われる前に答える。
「あの方が」
 エミリは何となくレヴィリンの顔を記憶した。セイラムの教えを受けると、気になる人物に出くわすとやんわりと記憶しようとする癖が自然に身につく。
「士官学校に特別講義にいらっしゃることもあるから、また顔を見る機会はあると思うよ」
 多忙らしく、年に数回だが、スイも講義を聴いたことがある。
「それにしても驚いた。こんなにうまく踊れるなんて思わなかった」
 エミリに踊りながら考えていたことを明かすと、得意げに返された。
「運動神経がいいのだけが取り柄です」
 スイが苦笑していると、アリサが近づいてきた。
「悔しいわね。おいしいところ全部持っていかれちゃった感じ」
 早速二人をからかう。
「さ、挽回狙うわよ、ハウル」
 切り替えの早いアリサはハウルの手を引っ張ってダンスフロアに向かった。
「君も一曲どう?」
 イオが優しく訊くと、アイリも嬉しそうに頷いてアリサたちの後を追った。

次回更新予定日:2018/10/13

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「スイ様、エスコートはいいので、明日の朝、お時間あったら、剣の腕少しは上達したか見ていただけませんか?」
「ドレスを着たレディが言うことか?」
 透かさずスイに剣の手合わせを頼むエミリにキリトが呆れる。
「別にいいだろう。この衣装で手合わせするわけでもないし」
 スイは冷静に仲裁に入ったつもりだったが、キリトに切り返される。
「お前はローブ着て手合わせするんだろうけどな」
「当然だ。他に何を着てくると言うんだ」
 平然と言い放つスイを見て、アリサたちがくすくす笑う。
「せっかくだから、スイにダンスの相手してもらって、姉さんたちを困らせてこいよ。優雅な立ち振る舞いのスイ様にリードしてもらえば、お前でも少しはレディっぽく見えるぞ」
「失礼ね。でも、そんな暴挙をお姉様たちが許してくださるかしら?」
 エミリは皮肉たっぷりに言って姉たちの方を見た。
「ええ。こんなチャンスなかなかないから相手してもらうといいわ。ご婦人方には『これは弟が私たちを陥れるために仕組んだ陰謀だ』って言っておくから」
 本当にさらっとそう言って洗いざらい話してしまうのがアリサだ。アリサにかかると、嫉妬される前に巧みな話術で話を広め、先に危うい素材も笑い話に変えてしまう。
「では、スイ様、お願いしていいですか? 見てなさいよ、お兄様。さっきの発言、絶対に撤回してもらうんだから」
 先ほどバカにされたのを根に持ったらしい。負けず嫌いなところもキリトとそっくりだ。スイは苦笑したかったが、ここは穏やかなよそ行きの笑顔を浮かべて右手を差し出す。エミリは何のためらいもなく、慣れたようにすっと自分の手を載せる。
 演奏されていた曲が終わったのを見計らって、スイはエミリをダンスフロアに連れて行く。先ほど以上に視線がこちらに集まってくるのが分かった。
 曲がスタートすると、スイはエミリの目を見てステップを踏み始めた。エミリは舞踏会になど滅多に来ないのに、余裕の表情で流れるように優雅にステップを踏み、ターンする。スイは最初エミリと息を合わせようと注意を払っていたが、その必要はないくらい息がぴったりだ。エミリとなら何も考えなくても踊れそうな気さえした。動作の一つ一つが心地よい。ダンスのうまいと言われる人とも何度か踊ったことはあるが、こんなに踊ることが楽しくて心地よいと感じたのは初めてだ。
 踊っている人が一人また一人と足を止める。いつの間にか踊っているのはスイとエミリだけになった。誰もが二人の優雅に舞う姿に釘付けだ。
 曲が終わって、二人が互いに礼をすると、大きな拍手が起こった。それが自分たちに向けられたものだと分かると、二人は誰もが見とれるような美しい姿勢で礼を返した。
「いやあ見事ですな」
 ゆっくりと拍手をしながら、近づいてくる男がいた。

次回更新予定日:2018/10/06

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エミリはキリトの妹だ。士官学校に行きたいと言って、スイの父親セイラムの元で学問と剣術を勉強した。女性で士官学校に進学する者は珍しかったが、二人の姉がすでに社交界デビューし、名家に嫁いでいたため、父親には反対されなかった。
「これは一杯食わされたな。エスコートするご婦人ってエミリだったのか」
「私じゃだめなんですか?」
 エミリが食いかかってくる。基本的にキリトの家、クラウス家のの人たちはこういう性格の遺伝子が組み込まれているらしい。アイリだけがこの遺伝子の被害者にならずに済んだに違いない。
「いや。珍しいから。こういう場所で会うのは」
「セイラム先生に言われているんです。こういう社交の場も勉強になることがたくさんあるから、たまには顔出してみるといいって」
 セイラムの私邸は郊外にあるため、弟子は住み込みの者が多い。エミリも住み込みだった。さらに、今年になってからは士官学校に合格して王都に戻ったが、寮生活だ。もともと社交界でやっていく気などないはずなので、おそらく一度か二度しかこのような場所で会ったことはない。クラウス家やセイラムの私邸でなら何度も会ったことがあるが。
「どうせならお兄様じゃなくてスイ様にエスコートしていただけば良かった」
 エミリが何食わぬ顔で言うと、アリサが真顔で返す。
「冗談じゃないわ。あなたはたまにしか顔出さないからいいけど、独身の妹が貴婦人たちが気になる独身男性ナンバーワンのスイ様にエスコートされてごらんなさい。一ヶ月くらいはご婦人方の冷たい視線に耐えて生きていかないといけなくなるわ。今、こうやってお話しさせていただいているだけでも視線が痛いのに」
 スイは幼い頃から、常に周囲に気を配るように訓練されている。剣術の稽古のとき、セイラムは四方八方から攻撃をしかけてきた。その攻撃に対応しようと努力した結果、視野も他の人と比べて格段に広くなった。正面を向いたままでも、かなり真後ろに近い位置の人の動きを把握できる。士官学校時代、剣術実技の授業中にキリトから「お前、目、背中についてるんじゃねえのか」と言われたことも一度や二度ではない。だから、話をしながらも先ほどから会場にいた人たちの注目がいつも以上にこちらに集まっているのが気になってはいた。
「それに贅沢言わないの。キリトだって貴婦人たちが結婚したい独身男性ナンバーワンなんだから」
「気になる」と「結婚したい」の差が何だかよく分からないが、おそらくキリトの外務室長というはっきりした地位と明るく取っつきやすい性格が結婚したくなるポイントなのだろう。

次回更新予定日:2018/09/29

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舞踏会会場に到着すると、すでに多くの人がグラスを片手に歓談していた。入ったとたん、視線が一斉に集まってきたのを感じた。スイがいつもと違って一人であると気づくなり、声をかけようと何人かの女性が口を開きかけたが、それを遮るようによく通る声が響いた。
「あら、スイ」
 少し離れた場所からだった。振り返ると、美しい女性が小さなテーブルの横でグラスを持ったまま笑顔で手を振っている。
「アリサさん。アイリさんも」
 スイは見知った顔を見つけてそちらに向かった。
「スイ君。元気にしてたか?」
「ハウルさん、イオさん。お元気そうで」
 アリサとアイリはキリトの姉だ。長女のアリサは明るくて社交的で、キリトとよく性格が似ていると思う。次女のアイリはおとなしい女性だ。いつも姉か夫の横で人の話を聞いている。ハウルはアリサの夫で、宰相の頭脳である政務室に勤めている。イオはアイリの夫で、士官学校の教官をしている。キリトの姉はいずれも生まれた家の名にふさわしい、名家の将来有望な男性に見初められ、結婚した。
「今日はキリトと一緒に来なかったのね。喧嘩でもしたの?」
 アリサのキリトに負けず劣らずの遠慮ない物の言い方にスイは苦笑する。いつものことだが。
「いえ。エスコートするご婦人がいると言って振られまして」
「まあお気の毒」
 容赦ない言葉の応酬に周りの者たちも苦笑する。
 そのとき、会場でざわめきがあった。スイたちも気になって扉の方を見ると、華やかな衣装を身にまとった若い美男美女が立っていた。会場中の注目が集まっている。当然だ。社交界で貴婦人たちの注目の的の一人であるキリトが見たことのない可憐な少女を連れているのだから。
「エミリ」
 驚きのあまりスイが声を上げる。
「お久しぶりです、スイ様」
 気品溢れる笑顔でその少女――エミリが返す。気品は溢れているが、その笑顔はどこかやんちゃだ。

次回更新予定日:2018/09/22

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