魔珠 第2章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
Admin / Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「それじゃあ答えてもらおうかな」
 にっこりとメノウが微笑む。
「誰の命令で僕を尾行したのかな?」
 そのとき、尾行者が腰に手をやった。首を押さえていたスイがそれに気づき、尾行者の右腕をねじ曲げた。尾行者が痛みで悲鳴を上げたとき、腰にやっていた手から小瓶が落ちた。スイは背中に膝蹴りを入れながら白いハンカチを取り出し、尾行者の口元に当てた。尾行者は目を閉じ、ぐったりとなった。スイはため息をついた。
「手間がかかる奴だ」
「寝てるの?」
 完全に意識を失っている尾行者の顔を見ながらメノウが訊いた。
「尾行しながら、ハンカチに睡眠薬を染み込ませておいた。暴れるのではないかと思って」
「用意周到だね、スイは」
 スイはそっと尾行者を横たわらせて、先ほど落ちた小瓶を拾った。見覚えのある小瓶だ。蓋を開けると、特有の匂いがした。
「どう思う?」
 メノウに渡すと、メノウも瓶を鼻にあまり近づけないで匂いをかいだ。
「毒薬だね」
 スイは頷いた。
「こんなものを持って尾行して、失敗したら情報を漏らさないように自ら命を絶つ。こんなことをするのは」
「マーラル軍で間違いないね」
 メノウは立ち上がった。くすっと口元から笑いがこぼれる。
「ありがとね、スイ。君が気づいてくれていなかったら、大切な情報源を失うところだった」
「いや。間に合って良かった」
 スイも気配を感じて立ち上がる。
「いっぱいしゃべってもらうからね」
 意識のない尾行者にメノウが笑いかける。
「後はお任せしても良いだろうか」
 わざと聞こえるように少し声を張り上げると、背後の木から二体の影が落ちた。
「気づいておいででしたか?」
 黒装束の男が二人、スイの両脇を通って尾行者の左右に立つ。魔珠の里の忍びの者だ。この先の集落で待機していて、メノウと打ち合わせていた時間を見計らって林に潜み、動きを見張っていたに違いない。
「後は我々でやります。スイ殿はお帰りになって結構です」
「メノウ、お前はどうする?」
「このまま山を越えてパウンディア側のいちばん近い町に行くよ。協力してくれてありがとう、スイ」
 メノウがスイの手を握ると、いつものいたずらっぽい笑顔で片目をつぶってみせた。
「情報、楽しみに待っててね」

次回更新予定日:2018/12/22

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
PR
アレアの町に着いた。まだメノウたちは到着していない。先に宿を取り、準備をして部屋にこもる。メノウたちが来たら、なるべく部屋から出ないようにしたい。
 一時間半ほどして日が暮れ始めると、メノウが宿屋に到着した。部屋の鍵を受け取ると、そのまま荷物だけ置いてすぐに宿屋から出ていった。町を散策するつもりなのだろう。スイとしても宿屋にいられるよりは尾行の目が外に向いてくれた方がやりやすい。
 メノウは七時頃にまた部屋に戻ったが、散策の途中で買い足した食料を置いてまた外に出た。夕食に行ったのだろう。今晩はもうこの宿に泊まると決まっているのだから、その必要もなさそうなものだが、尾行もまだメノウを追うつもりのようで、宿屋に入っていない。
 三十分ほどして、尾行が宿屋に姿を現した。ここで初めて宿を取り、部屋に入った。二階の階段にいちばん近い部屋だ。階段の横は足音がしてうるさい。一般の宿泊客には人気のない部屋だが、階段は一箇所で、必ずここが通り道になるので、メノウを監視するにはベストポジションだ。
 メノウは九時頃帰ってきた。酒場にでも行って話の合う客を見つけたのだろう。その後、一時間ほどして消灯した。

 寒い朝だった。やはりアレアはクラークよりも暖かくなるのが遅い。
 メノウは宿屋の一階で軽い朝食を取ると、素速く荷物をまとめ、マントを羽織って出ていった。尾行もすぐ後を追う。
 少し間を空けてスイも出発する。尾行を見失わないぎりぎりの距離を歩く。
 この日も旅人がよく出発する時間に宿を出たので、町を出るときは少しは他の旅人もいた。スフィア山脈はまだ雪が溶けた直後で、人通りがそれほど多くない。商人たちが頻繁に行き来し始めるのはもう半月ほど先だ。
 ゆっくりと山道を登っていく。だんだん道が細くなり、傾斜のある場所が増えていく。一時間ほど歩くと、小さな村があって、そこで他の旅人の姿がなくなった。村が最終目的地だったか、もしくは休憩を取るのだろう。メノウはそのままさらに細くなった山道を歩き始めた。しばらくすると、道は針葉樹林に入った。
 見通しは悪いが、尾行する側にとっては好都合である。尾行は少し距離を取って、針葉樹の間に身を隠すように歩きながらメノウをつけた。スイはもう最初から山道から逸れ、針葉樹の間を通り抜けながら、メノウを観察した。
 メノウが不意に脇道に逸れる。この先には小さな集落があった。尾行も脇道に入る。すると、急にメノウが林の方に入っていった。尾行も林に入って見失わないように距離を詰める。
 メノウが走り出す。尾行も後を追って走ったが、メノウはすばしっこく木と木の間を複雑な曲線を描きながら駆け抜けていく。
 気づかれたか。
 このままでは見失う。尾行がそう思ったとき、背後で枝の折れる大きな音がした。振り返ろうとしたが、それよりも先に凄まじい力で首が締めつけられた。目を開けると、銀色の短剣が真っ直ぐこちらを向いている。短剣を握っているのは今まで追いかけていたメノウだ。

次回更新予定日:2018/12/15

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
午前八時過ぎ。メノウはいちばん旅人が出発する時間帯に北門の馬屋から出てきた。横には栗色の毛並みの良い馬を従わせていた。
「いい馬を選んでもらったな」
 スイがぽんぽん叩くと、馬が顔をなすりつけてきた。
「人懐っこい子だね」
 メノウが笑った。
「朝早くから送りに来てくれてありがとね」
 メノウが馬に跨がった。メノウが馬に乗ったのを見上げて確認しながら、スイの目は右手にある馬屋で馬の品定めをしたり、手綱を引っ張って歩いている人を三人ほど捕らえていた。三人ともこの少し肌寒い時期に旅人が愛用する茶色のフード付きマントをすっぽりとかぶっている。そのうちの一人が馬屋の事務所の建物に入ったタイミングを見計らって、スイは言った。
「気をつけて」
 スイはしばらく北西の街道に向かったメノウの姿を追っていたが、姿が見えなくなる前に背を向け、来た道を早足で歩き出した。程なく後方から馬の足音が聞こえてきた。
 順調に尾行されているようだ。
 スイはその足で私邸に戻り、いつも着ている黒いローブを着替えた。最後にやはり旅人御用達の茶色のフード付きマントを羽織った。
「留守を頼む」
 すると、シェリスが扉を開けながら、にこやかに微笑む。
「はい。いってらっしゃいませ、スイ様」
 スイは念のため、いつもより注意して周囲をうかがいながら馬屋まで歩いていった。尾行する者こそ監視されていないか注意を払うべきだと父に叩き込まれている。
「おや、スイ様もお出かけで?」
 顔なじみの馬屋の主人と会話を交わしながら、スイは用紙に記入を済ませた。北門の馬屋は両親の住む屋敷に行くときに利用させてもらっているので、顔も覚えられている。
「この馬にしよう」
 姿を現したとき、いちばん最初にちらっとこちらを見て目が合った馬がいた。神経質な正確なのかと思って観察していたが、その後はずっと平然としている。足もしっかりしている。
 馬屋の主人がタグを確認し、番号を用紙に書いた。手続き完了だ。
 スイも北門から出て、もうとっくに姿は見えなくなっていたが、メノウ、そして尾行が通ったはずの街道を途中まで進んだ。そこからイシスへの街道に入ると、少し速度を上げた。

次回更新予定日:2018/12/08

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
「で、具体的にどうするんだ?」
 聞かれてスイは地図を広げた。
「国内で捕らえようと思う」
「うん。それがいい。何かあったらこちらで何とかできる」
 意図が正確に伝わっていると確認して、スイは頷いた。
「明日出発して、三日目にスフィア山脈の森林地帯で捕らえる」
「スフィア山脈までのルートは?」
「メノウはパヴェで一泊してアレアから登山。私はイシスからアレアに向かう」
 イシスはパヴェより少し北東の位置にある町だ。距離的にはパヴェよりもあるが、イシスには別の街道が通っていて、それなりに土地勘のあり、馬の扱いが得意なすいなら日が暮れるまでに到着することはできるだろう。イシスからアレアまでも街道というほど整備されてはいないものの、馬が一頭難なく通れる程度の道は続いている。
「了解」
 キリトがスイの指先から視線を外して立ち上がる。
「あまり長居しているようだったら迎えに行くからな。無茶はするなよ」
「分かってる。ありがとう」
 価値のある作戦ではあるが、無茶をして生け捕りにしなくても尾行を追い払うだけでもそれなりの成果はある。
 スイは肩の力を抜いて笑顔を返した。

 正午過ぎにスイは私邸に戻った。
「どうだった?」
 待っていたメノウが訊きに来た。
「了承してもらえた。予定どおり行こう」
「分かった。まず確実に追いかけてきてもらうには馬を予約しに行かないとね」
 メノウは追っ手を生け捕りにする気満々だ。
 クラークは王都なので、当然行き来する旅人も多い。馬屋は北門、西門、南門の三箇所にあり、敷地も広く、馬の数も多い。予約をしなくても借りられる馬がない、ということはないが、気に入った馬をあらかじめ選んでキープしてもらうこともできるのと、手続きを先に済ませておけばすぐに出発できるということで、予約をする人も少なくない。メノウの行動自体はそう目立つ行動でもない。
「午後行くよ」
 勢いに押され気味のスイは苦笑するしかなかった。
「仕方ないな。ちゃんと尾行されているか見ておくことにしよう」
「よろしくね」
 そのとき、シェリスがいつでも昼食にできると伝えに来た。二人とも早起きして空腹だったので、すぐに用意してもらうことにした。

次回更新予定日:2018/12/01

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
「お前のお守りをしてやるほど暇ではない」
「普通に断るな」
 さらりと流したスイに、キリトは突っかかった。
 そんなキリトでも執務室を使うことはある。個別で極秘情報などを聞くときにはやはり個室というのは便利なのだ。
 スイが頷いたのを見て、キリトは立ち上がった。
「ちょっとスイと執務室で話している。何かあったら、ノックしてくれ」
 キリトの後を歩きながら、途中、本棚から地図を引き抜いた。地図を抱えたまま執務室に入ると、キリトがドアを閉めて鍵をかけた。
「なんだ。メノウ君から面白い情報でも仕入れたかね?」
 少し茶化したように聞きながら、キリトは座り心地の良いソファにどんと倒れ込んだ。スイも続くように何も言わずに静かに座った。口を開いたのは、その後だ。
「どうやらメノウが二ヶ月前から尾行されているようなんだ」
「尾行?」
 キリトが身を乗り出した。口元に笑いを浮かべている。何か面白いことを期待している顔だ。
「魔珠の里の者を尾行するなんてそんな猛者いるのかね?」
 わざとらしい訊き方だ。スイは苦笑した。
「どこの誰かまでは突き止めていない」
 だが、二ヶ月前に港で不審な動きをする人物に気づいて記憶しておいたこと、そして今もその人物が尾行を続けていることをキリトに話した。
「いやあ、無謀だな。そんなのばれたら組織ごとつぶされちゃうよ。それとも」
 キリトも昨日のメノウに負けない悪い顔になった。
「つぶされない自信がある組織なのかなあ?」
 面倒なので、スイはつき合うのをやめた。
「メノウがそいつを生け捕りにして情報を引き出したいと言っている」
「で、協力しろと?」
 相変わらず楽しそうに笑っている。予想はしていたとおり、キリトがこの作戦に反対することはなさそうだ。
「メノウは何としてでも証拠を手に入れて、マーラルの魔術兵器開発を阻止したいと考えている。情報の一部はこちらにも提供してもらえるらしい」
「悪くない話だな」
 隣国の魔術兵器の開発はリザレスにとっても脅威だ。証拠をつかめば、外交のカードに使うことも、やりろうによってはもくろみを阻止することだって可能かもしれない。いずれにしても不安定な情勢のマーラルの情報は、どんなものでも持っておくだけで価値がある。それに尾行を捕らえることによって魔珠の里に貸しを作ることにもなる。

次回更新予定日:2018/11/24

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
HOME | 1  2 

忍者ブログ [PR]