魔珠 第13章 光の柱(2) ヌビスの子2 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
Admin / Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「それでは、聞かせてもらいましょうか」
 アラバスは頷いた。ずっと壁際に立っていた兵士と魔術師たちも集まってきた。
「五歳のときでした。ヌビスの実験に呼び出されました。何をされたのかは分かりません。記憶が飛んでいるのです。とても怖かったということ以外何も覚えていないのです」
 実験から戻ってきたアラバスは震えが止まらず、やっとのことで寝かしつけても割れんばかりの叫び声を上げて跳び起きた。噂を聞いていた母は身の危険を感じ、アラバスを連れて逃げることを決意する。
 後宮に迎えられる前マーラル軍の魔術師だった母は、その経験を活かして城からの脱出に成功する。母は故郷の村に戻り、アラバスは母や祖父母、親戚や村の人たちと新しい生活を始めることになった。
 始めは実験のときの恐怖と精神的なショックから口も聞かず、引きこもりがちだったアラバスだったが、村が安全な場所であることが分かると、次第に家族や村の子どもたちとも自然に接することができるようになっていった。
 ところが、一年ほど経ったある日、隣町に出かけた村人たちから、マーラル軍の兵士が城から逃亡した王子を探していると聞かされる。祖父母や村人たちは二人を匿う方法を話し合い始めたが、母は、
「この村の人たちにご迷惑をおかけするわけにはいきません」
 と言って村を出ていった。
 二人は人があまり住んでいない北へ北へと向かった。最果ての村の村外れに居を構え、新天地での生活に少し慣れてきた頃、故郷の村の話を耳にする。
「大火災で廃墟になったらしい。夜中で逃げ遅れたのかねえ。誰も助からなかったらしい」
 噂を聞いて二人は故郷の村に戻った。
 村は噂で聞いたとおり、見るも無惨な廃墟と化していた。
「おじいちゃん……おばあちゃん……」
 そのあとも泣きながら友人や知り合いの名前を呼んだのをアラバスは思えている。
 あの光景だけは、絶対に忘れない。
「行きましょう」
 近くに咲いていた花を花束にしてたむけ、二人は最果ての村に戻った。
「僕のせいで……みんな……」
 そう言ったアラバスに母は首を振った。
「違う。あなたは何も悪くない。悪いのは村に火を放った兵士たち。いえ、そうするように命じた国王陛下なのよ。あなたは何も悪くない」
 しかし、二年後、母は病に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
「心労もあったのかもしれないね。時々村があんなことになったのは自分のせいだって泣いていた」
 そんな噂も耳にした。

次回更新予定日:2021/01/02

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
PR
この記事にコメントする
Name :
Title :
Mail :
URL :
Color :   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Comment :
Password :
HOME | 307  306  305  304  303  302  301  300  299  298  297 

忍者ブログ [PR]