魔珠 第12章 最終交渉(4) 魔術師ヌビス3 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「私にはできる。魔術兵器は私にこそふさわしい。よって」
 ヌビスは立ち上がった。凄まじい威圧感が場を支配する。
「マーラルはリザレスの領土、領民、魔珠を始めとするあらゆる資源、そして魔術兵器を手にするため進軍を継続する」
 キリトはやれやれといった顔をした。
「交渉決裂ですね」
「そうだ。覚悟はできているだろうな」
 嬉しそうにヌビスは言った。
「こやつの首をリザレスの船に投げてやれ。それを合図に攻撃を開始する」
 悲しいほどに予想どおりだ。キリトは苦笑した。壁際に立っていた二人の兵士が歩み寄ってくる。背後で両手首を拘束される。ひときわ体の大きな方の兵士が斧を持ってキリトの前に立った。
「あまり怖そうな顔をしないな」
 ヌビスは忌々しく思った。
「陛下のおっしゃったように覚悟はしていたので。ここまで交渉役の仕事です」
「つまらぬ男だ。首が落ちる瞬間くらいは私を楽しませてみよ」
 ヌビスは返り血を浴びないように後ろに下がった。目で合図をすると、すぐに斧が振り下ろされた。
 だが、次の瞬間、誰もキリトを見ていなかった。
 斧が真っ二つに割れ、刃の方がヌビスの顔をかすめ、魔術師たちがいた側とは反対側の壁に突き刺さったのだ。
「陛下!」
「手を出すな」
 慌てた護衛たちをヌビスが制する。ヌビスの首元には青く輝く剣の先が突きつけられていた。
「またお前か」
 ゆるりと言ったヌビスの口元には薄ら笑いが浮かんでいた。それが突然跡形もなく消え失せ、目がかっと見開かれた。
「何をしに来た」
 静かだが怒りに満ちた眼差し。その先にはいましがたキリトの態度を見ていてふと思い浮かんだ人物その人が立っていた。剣をヌビスに向ける男は紛れもなく研修に来たとき呪いを施したにも関わらず罠にかかった魔珠売人を解放し魔術兵器を持ち去るのを助けた男。
 スイだった。
「奇襲とはな。こんな粗末な方法で私の首が取れるとでも思ったか」
「外務室長を助けなければあるいは」
「ひどいなあ、おい」
 キリトが横でぼやいている。

次回更新予定日:2020/11/07

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