ヴィリジアン 第10章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『ヴィリジアン』を連載しています。
Admin / Write
「それでソードのことをあんなに信用していたんだな」
「信用は……全面的にしていたわけじゃないと思う。けど、頼れる人が、ソードしかいなかったから」
 グレンは寂しそうな顔をした。
「上級ヴァンパイアに吸血されたけど、命も意識も残った。しかも人では絶対に得られないような力を手に入れた。桁外れの強さを手に入れた。でも、生血を吸わないといけない体になった。多分体を維持するために必要なんだと思う。そんな僕にソードは自分の血を吸わせてくれたんだ」
 それはグレンを信用させるため、ソードがヴァンパイアに加担していないように見せかけるための行動だったのだろうと今は思う。グレンは騙して利用できるなら、利用する価値が充分ある人物だった。また、ヴィリジアンの瞳を持つ者として手元に置いておかなければ危険でもあった。
「それにしても、無茶をしてくれる」
 エストルは苦笑した。
「上級ヴァンパイアの血を吸うとは」
「エストルが教えてくれるまでヴィリジアンを使うなんて考え浮かばなかったよ。それに、怖くなかったの?」
「何が?」
「ヴィリジアンで回復できるにしても一度はヴァンパイアになるんだよ」
「あの状況でそんなこと考えていられるか」
 グレンが苦しんでいるのに何もしないで見ていられるわけがない。
「必要ならばいくらでも私の血を吸えばいい。これからも」
 エストルもこの力がまだ必要だということを理解してくれている。本当は認めたくないだろうけど。
「何回でもヴィリジアンに斬られてやる」
 不敵な笑みで言ってのける。
「ありがとう、エストル」
 グレンは穏やかに微笑んだ。
「僕もいつかヴィリジアンの力で人間に戻ろうとは思っている。ヴァンパイアの力が、必要なくなったら」
 エストルもうなずいた。その日をつかみ取ってみせる。この手で。
「ところで」
 グレンはずっと疑問に思っていたことを口にした。
「どうして上級ヴァンパイアはエストルがヴィリジアンやウィンターたちのこと知ってるってわかったんだろう」
「それは」
 エストルは一息入れて答えた。
「クレッチの記憶をのぞいたからだ」
「なんで、クレッチ?」
 クレッチはグレンの部下だ。なぜそんなことを知っているのか。訳が分からなくなってグレンは聞く。
「グレン、お前に一つ謝らなければならないことがある。お前に黙って我々はクレッチとデュランにヴァンパイアの情報収集と、クレサックとの情報交換の役割を頼んでいたんだ」
「全然、気がつかなかった」
「私の部屋と、兵舎のクレッチとデュランの部屋に直接魔法陣を置いて行き来してもらっていたからな。無理もない」
 エストルは少し笑った。
「すまないな。お前が一人で行動をすることが多いのをいいことに」
 それを聞いてグレンは苦笑した。だが、確かにクレッチとデュランは適任だった。二人ともクレサックが信頼してグレンの直属としてくれた部下だった。実力も申し分ない。
「会議にはクレサックたちも来る。それまでとりあえず休め。出席するかどうかは時間になってから考えればいい。席を外そうか?」
 エストルは立ち上がろうとしたが、グレンはエストルの手を握って引き留めた。
「ううん。良かったら、横にいて。昔の話でも何でもいい。エストルともって話がしたい」
 今このときを逃すと、しばらくゆっくり二人で話ができないような気がした。それにお互い話さないでいたことを全てさらけ出してしまった今、何のわだかまりもなく話ができる。その時間を楽しみたいとグレンは心から思った。

次回更新予定日:2017/02/04

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク
PR
「時間があるうちに休んでおくといい」
 そう言ってエストルはグレンに肩を貸した。グレンを背負うと、ベッドまで運び、寝かせた。
「ありがとう、エストル」
 寝かせてもらうと、呼吸が落ち着いてきた。エストルはベッドの横に椅子を持ってきて座った。
「何もできないが、せめて側にいさせてくれ」
「いいの? こんなときに僕についてくれていて」
「事態を部隊長たちに説明するために招集をかけた。まだ会議までに時間がある」
「僕も、出席するのかな?」
「体調次第だな。無理はしなくていい」
 言われてグレンは肩の力を抜いた。
「それに、その前にお前と二人だけで話がしたかった」
 エストルが言った。
「そうだね。お互い、隠していたことがたくさんあったから」
 二人とも憤りや苛立ちは湧かなかった。話すタイミングが来たら話すつもりだった。それまでは話さない方が良かった。エストルがウィンターたちに与していたことをもっと早い段階で知っていたとしてそれを隠し通し、何も知らない振りを演じ続けることができたとは思えなかった。すでに多くを抱え込みすぎている。これ以上は無理だった。また、逆に、ヴィリジアンを手にする前の段階でグレンがヴァンパイアであることを伝えても、それはエストルを困惑させるだけだっただろう。今、グレンを人間に戻す手段を手にしているからこそ、冷静でいられるのである。
「まさかお前がヴァンパイア化していたとは思わなかった」
「そう、だよね」
 やはりヴァンパイアになっていたことを告白するのは心苦しかった。
「いつ吸血された? やはり初めて上級ヴァンパイアに遭遇したときか?」
 グレンはうなずいた。
「あの上級ヴァンパイア。〈002 追跡者〉。そういえば、〈追跡者〉は、上級ヴァンパイアのこと、マスターヴァンパイアって言っていたね」
「上級ヴァンパイアがテルウィングの生物兵器だということは、お前も知っているな。テルウィングでは最初に人間の手で開発したヴァンパイア、つまり上級ヴァンパイアのことをマスターヴァンパイアと呼んでいる」
 エストルは言った。やはりエストルは全て知っているのだ。
「そのとき、ソードが見ていて、自分も小さい頃噛まれてヴァンパイアになったことを打ち明けた上でヴァンパイアになった僕の面倒を見てくれたんだ。話を聞いたり、吸血させてくれたり」

次回更新予定日:2017/01/28

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク
「グレン将軍?」
 デュランの体が反射的に動いたが、エストルの目を見ていたクレッチがそれを制した。
「エストル様、グレンは……」
 グレンの後ろ姿を心配そうに見送っていたソフィアは、エストルの方に向き直って聞いた。
「少し休ませてやってくれ。本来なら立っていることもままならない状態なんだ」
 努めて冷静に答える。
「後ほど部隊長も集めて説明をするが、先に少し状況を話しておこう。聞いてくれるか?」
 ソフィア、リン、ルイ、クレッチ、デュランの五人はうなずいた。
「隣の応接室に行こう」
 六人は応接室に向かった。ここでエストルから真実を聞かされることになる。

 グレンは部屋に入ると、乱暴にドアを閉めた。我慢していたようにドアに寄りかかると、歯を食い縛ったが、結局耐えきれず声を上げて体を折る。先ほど遮断した苦痛の感覚が限界になり、解放されたのだ。グレンは胸を押さえて息を整えようとした。しかし、乱れた呼吸はグレンの言うことを聞いてくれなかった。この苦痛が去るまで待つしかない。上級ヴァンパイアの血をこの体が完全に受け入れるのを待つしかない。
 強大な力を手に入れた、その代償。
 グレンは一人、苦痛と闘った。

 どのくらいの時間が経っただろうか。とりあえず苦痛は収まったようだ。再発する可能性はあるが、グレンはひとまず壁にもたれかかったまま座り込んだ。体力を消耗したのか、疲労が大きかった。
 ドアの向こうから声がした。
「入るぞ」
 答えを待たずにエストルが入ってきた。ドアを閉めて、その横に座り込んでいたグレンの前に屈み込む。
「大丈夫か、グレン」
 呼吸がまだ整っていなかった。大丈夫だと答えようとしたが、声が出なかった。エストルは注意深くグレンを観察した。拒絶反応はもうないようだった。
「収まったようだな。水でも飲むか?」
 エストルはテーブルの上に置いてあったグラスに水を注いだ。グレンは差し出されたグラスを受け取ると、一気に飲み干した。まだ胸は大きく上下しているが、飲む前と比べて格段に呼吸の間隔が延びた。
「少しは楽になったか?」
 エストルが顔をのぞき込むと、グレンも弱々しい笑いを浮かべた。

次回更新予定日:2017/01/21

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク
「陛下!」
 王騎士グレン。そして、その一歩後ろには宰相エストルが控えていた。エストルはセレストの横に少女がいるのを見て少し意外だったようだが、すぐに状況を理解し、ゆっくりと前に出た。
「陛下、その少女を我々に委ねていただきたいのですが」
「断る」
 即答だった。エストルの予想どおりだった。
「では、陛下を拘束させていただきます」
 エストルの言葉を聞いて、待っていたようにグレンが動き出そうとすると、少女がにやりと笑った。
「それは困るなあ」
 少女とセレストは一瞬にして消えた。阻止する時間もなかったが、阻止しようとも思わなかった。
「どこかに瞬間移動したみたいだね。良かったのかな?」
 グレンがエストルに聞いた。
「おそらく上級ヴァンパイアたちは今までどおり作戦を続けるつもりだと思う。私やお前、そしてソフィアを失ったが、拠点を変えてソードとヴァンパイア討伐を進め、ムーンホルンを壊滅させるつもりだろう」
 エストルは溜息をついた。
「あいつらはまだ陛下を利用するつもりだ。だが、利用されている間は、危害を加えられることはない。ここで無理やり操られている陛下を拘束して相手がどう出るかで頭を悩ませるよりもこの方がやりやすい」
「そうだよね。僕もそう思った」
 エストルも同じように考えていたと分かってグレンは安心した。そのとき、間隔の狭い足音が近づいてくるのに気づいた。
「エストル様!」
 ソフィアたちだった。今やっと結界が解けたということだろうか。ということは、結界を張っていたのは、〈追跡者〉ではなく、〈告知者〉だったということになる。
「ご無事でしたか。陛下は?」
 エストルが答えようとすると、グレンが先に口を開いた。
「エストル様、一度部屋に戻らせていただいてもよろしいでしょうか?」
 平静を装っていたが、エストルはすぐにグレンの異変に気づいた。
「分かった」
「後でまた来ます」
 グレンはそのまま謁見室を出て廊下を走っていった。

次回更新予定日:2017/01/14
 
ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク

「上級、ヴァンパイアが……」
〈追跡者〉は跡形もなく消滅した。あんなに強かった上級ヴァンパイアがヴィリジアンにコアを傷つけられただけでその存在さえ絶たれた。
 まだ実感が湧かなかった。しばらくこの場所に留まってこの状況をはっきりと認識したかった。だが、まだやるべきことが残っていた。グレンはエストルの方に歩いていった。
「陛下を探しに行こう」
 グレンはエストルの前に屈み込んでいたずらっぽく尋ねる。
「走れる?」
 しかし、エストルは真剣な表情で返した。
「お前こそそんな体で大丈夫なのか」
「分からない。でも、行かなくちゃ」
 グレンはエストルの体を治癒した。〈追跡者〉による魔術の影響でぐったりしていた体がかなり楽になった。
「お前の体も魔法で治せればいいのだが」
「残念だけど、拒絶反応自体は治せるような性質のものじゃないから。どうするかは後で考える」
 毅然と言い放つと、グレンはエストルの手を取った。
「行こう」
 エストルは力強くうなずき、勢いよく床を蹴ってグレンの後から走っていった。

 セレストは謁見室の玉座にいつもどおり座っていた。横には少女が一人、控えていた。
「〈追跡者〉の気配が消えたよ」
〈告知者〉だった。
「どういうことだ?」
 セレストは眉をひそめる。
「消滅したっていうこと」
「〈追跡者〉を失ったということか?」
「そうだよ。ソードも、〈追跡者〉も、ヴィリジアンの確保に失敗したってことだね。もうすぐここに来るよ」
〈告知者〉はグレンたちの行動を予測していた。
「どうする?」
 セレストは少女に尋ねた。
「二人の出方を見てから決めようかな」
「任せた」
 セレストはそう言って肩の力を抜こうとした。そのとき、扉がばたんと開いた。

次回更新予定日:2017/01/07

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村 創作ファンタジーリンク

HOME | 1  2  3 

忍者ブログ [PR]