魔珠 第12章 最終交渉(6) 魔術師ヌビス5 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
Admin / Write
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

「ならば、これはどうだ」
 流星のように攻撃が降ってくる。ヌビスが完璧な美を求めて計算し尽くし、描き出した映像。息を呑むくらい美しい光景だ。これがただの光景であるなら。だが、現実は違った。スイは大きく舞うように一振りして剣に魔力を吸収させていく。そのままくるりと回って振り切れなかった攻撃を交わしたつもりだったが、一撃だけ左上腕部をかすめ、傷口から血がにじみ出た。
「美しい。やはり美しい。お前には血の赤が似合う。私の研究を阻む者は皆、傷つき壊れればいい。そして、魔術の発展の糧となれ」
 魔術にのめり込み、究めることだけを追求した結果、狂気に取り憑かれてしまった魔術師。スイは恐怖に飲み込まれそうになって慌てて首を振る。
 大丈夫。青竜が、里の人たちが、コウが、そしてメノウがついている。リザレスの人たちも。後ろにいるキリトも。
 そう言い聞かせて恐怖を振り払おうとした瞬間だった。一筋の光が目にも留まらぬ速さで一直線にスイを狙ってきた。スイは慌てて剣を振るい、光を弾こうとした。
 そんな。
 力がかかったのはほんの一瞬だった。分からないほどに。だが、その一瞬の力で剣が弾かれた。剣が大きな放物線を描き、取りに行かなければならない距離に落ちた。凄まじい力だった。剣を持っていた右手が軽く痺れている。
 早く取りに行かなくては。
 足を一歩踏み出した途端、右胸に激しい痛みを感じてその場にくずおれる。
「スイ!」
 キリトが両手をぴたりと見えない壁につけて叫ぶ。青竜を奪われた今、スイに刻まれた呪いを防ぐすべはない。
「これが魔術の力だ。これほどの力を剣で受け止めたことはないだろう。魔力なくしては絶対になせない技。素晴らしいと思わないかね」
 意識が現実に留まっていたのはここまでだった。初めてこの苦痛を刻まれたときの記憶がフラッシュバックして後は意識が朦朧としてきた。胸の激痛さえも分からなくなるほどに。
 キリトはスイの名前を喉が嗄れそうなほど大声で何度も叫びながら、結界を叩いた。
 俺は、俺は何もできないのか。
 拳を握り締め、もどかしさをぶつけるように力任せに壁を叩く。
 拳が壁をすり抜けた。
 全身の力を拳に込めていたキリトは、身体ごと結界の内側に吸い込まれた。バランスを崩しかけて慌てて前に出す足に重心をかけた。
 結界を、無効化した?

次回更新予定日:2020/11/21

ランキングに参加中です。よろしかったらポチッとお願いします。
にほんブログ村 小説ブログ ファンタジー小説へ
にほんブログ村
PR
この記事にコメントする
Name :
Title :
Mail :
URL :
Color :   Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Comment :
Password :
HOME | 301  300  299  298  297  296  295  294  293  292  291 

忍者ブログ [PR]