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スイは少し警戒して一度置いていた剣に手を当てた。キリトも表情が険しくなる。しかし、魔術師は二人の予想していたような言葉を口にしなかった。
「私が……私が殺すはずだったのに」
その場にいた者は皆、驚きのあまり動けなくなった。言葉を発することさえできなかった。ただ若い魔術師だけが唇を噛んで涙を流していた。
「勝手に死ぬなんて」
はっとキリトが何かに気づいて魔術師の横に屈む。そっと顔をのぞき込んでキリトは訊ねた。
「君、名前は?」
すると、魔術師はすっと立ち上がってフードを取った。
「アラバス。ヌビスの子です」
端正な顔立ちの青年だった。やはりそうだったか、とキリトはゆっくり立ち上がる。
「ジャン、お前、何を言って……」
「私は、アラバスです」
戸惑う同僚たちに魔術師は強い調子で繰り返した。そして、ひと息つきながら肩の力を抜き、頭を下げた。
「今まで黙っていて申し訳ありませんでした。ただ、復讐を遂げるために正体を隠してヌビスに近づくしかなかったのです」
「復讐するつもりでここに?」
「はい」
キリトはスイの方に振り向いた。
「スイ、俺はもう少しアラバスさんに詳しい話を聞きたい。お前がレヴィリンに術のことを伝えてくれないか」
「一人で敵陣に残って大丈夫なのか?」
心配するスイにアラバスが毅然と言い放つ。
「私たちは同じ危機に直面する一人の人間です。マーラルにも魔珠があります。魔術兵器の試作品のようなものだっていくつか残っています。兵器としては使えませんが、充分な魔珠のエネルギーを蓄えています。この危機を乗り越えなければ、マーラルにも多くの犠牲が出ます」
アラバスはなおも続けた。
「今、これから私の話を聞いてもらってここにいる人たち、そして全員は無理でしょうが海域にいる兵士や魔術師たちに納得してもらえたら、私が王位を継ぎます。私たちにもできることがあったら、協力させてください」
「信用しましょう」
言い残してスイは部屋を出た。
次回更新予定日:2020/12/26
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「私が……私が殺すはずだったのに」
その場にいた者は皆、驚きのあまり動けなくなった。言葉を発することさえできなかった。ただ若い魔術師だけが唇を噛んで涙を流していた。
「勝手に死ぬなんて」
はっとキリトが何かに気づいて魔術師の横に屈む。そっと顔をのぞき込んでキリトは訊ねた。
「君、名前は?」
すると、魔術師はすっと立ち上がってフードを取った。
「アラバス。ヌビスの子です」
端正な顔立ちの青年だった。やはりそうだったか、とキリトはゆっくり立ち上がる。
「ジャン、お前、何を言って……」
「私は、アラバスです」
戸惑う同僚たちに魔術師は強い調子で繰り返した。そして、ひと息つきながら肩の力を抜き、頭を下げた。
「今まで黙っていて申し訳ありませんでした。ただ、復讐を遂げるために正体を隠してヌビスに近づくしかなかったのです」
「復讐するつもりでここに?」
「はい」
キリトはスイの方に振り向いた。
「スイ、俺はもう少しアラバスさんに詳しい話を聞きたい。お前がレヴィリンに術のことを伝えてくれないか」
「一人で敵陣に残って大丈夫なのか?」
心配するスイにアラバスが毅然と言い放つ。
「私たちは同じ危機に直面する一人の人間です。マーラルにも魔珠があります。魔術兵器の試作品のようなものだっていくつか残っています。兵器としては使えませんが、充分な魔珠のエネルギーを蓄えています。この危機を乗り越えなければ、マーラルにも多くの犠牲が出ます」
アラバスはなおも続けた。
「今、これから私の話を聞いてもらってここにいる人たち、そして全員は無理でしょうが海域にいる兵士や魔術師たちに納得してもらえたら、私が王位を継ぎます。私たちにもできることがあったら、協力させてください」
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言い残してスイは部屋を出た。
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