ヴィリジアン 第9章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『ヴィリジアン』を連載しています。
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「クレッチ、デュラン」
 よく通る声で呼ばれて二人は振り返る。
「待たせたわね」
 ソフィアだった。リンとルイを従えて、いつものしゃきっとした姿勢で立っていた。
「話は聞いたわ。どう?」
 結界を破壊しようと魔力を送り続けていた兵士たちの様子を見ながらソフィアは尋ねた。
「駄目です。びくともしません」
 クレッチが答えた。
「力を貸して」
 クレッチとデュランは頷いて五人横一列に並んだ。結界に魔力を送っていた兵士たちは、五人に譲るようにその場所から離れた。
「行くわよ」
 五人で一斉に魔力を送った。だが、結界は全く乱れず、ただ三人で魔力を送ったときよりも大きな爆発が起こって、五人が四方八方に飛ばされただけだった。
「どうすればいいの」
 ソフィアは倒れた姿勢のまま見えない結界をにらみつけた。そのまま状況を冷静に分析してみる。
「もう結界が張られてから何時間も経っているのよね」
 他の四人も否定しなかった。
「もし、例えば相手の狙いが陛下に危害を加えることだとしたら、すぐに用を済ませて結界を解くと思うの。結界が何時間も解けていないということは、多分陛下と何か交渉しているか、あるいは何かの目的を果たすため一時的に陛下の身柄を拘束しているか、いずれにしてもこの結界がある間は陛下に危害が加わることはないんじゃないかしら」
「確かに」
「このびくともしない結界に魔力をつぎ込むよりも温存しておいて結界がなくなったときにすぐに突入して、何かあったら使えるように準備しておいた方がいいような気がする」
「賛成ですね」
 クレッチは言った。狙いはセレストではない。エストルの記憶だ。エストルの記憶から情報を引き出すことが敵の狙いだ。それがまだ引き出せていないというのだろうか。それとも引き出した上でエストルの動きを封じているのだろうか。
「だったら、準備にかかりましょう。城内に今いる兵士だけで数は充分ね。それ以外は、これまでどおり城の周辺を警備するよう指示して」
「了解です」
 四人は手分けしてソフィアの指示を伝えに行った。

次回更新予定日:2016/11/19

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「そのようだな。誤算だった」
「ソード」
 グレンは剣を突きつけたまま強い口調でソードに迫った。
「僕と一緒に戦って。ヴァンパイアから、この世界を救うために」
 ソードは押し黙った。だが、次の瞬間笑いが込み上げてきて耐えられなくなり、大声で狂ったように笑い出した。およそソードらしからぬ行動だった。グレンは少しひるんだように一歩のけぞった。
「私はお前の敵だ。信頼を裏切られたことをせいぜい苦しむが良い」
 ぐさりと心をえぐられて動けなくなった。そこへ強い突風が吹いてきて、黒い影が落ちた。とっさに身を守るように手をかざす。突風と影が去り、見上げると、そこにはワイバーン型の魔獣がいた。おそらくモーレで目撃されていたものだ。その背にはソードが乗っていた。
「ソード!」
 グレンは叫んだ。涙が、にじんできた。
「ソード……どうして」
 地面にくずおれて泣き出すと、また痛みが戻ってきた。ヴィリジアンの代わりに受けた痛み。
「グレン将軍」
 シャロンが肩に手を載せる。グレンは涙をふいて振り返った。シャロンはもう片方の手を地面について自分の体を支えていた。先ほどまでうつ伏せになっていて分からなかったが、後ろ側だけでなく、前にも前進びっしりと傷がある。グレンは残っている魔力で応急処置程度ではあったが、治癒をした。
「ありがとう」
 シャロンが笑った。まだ痛みはあるが、体も心も緊張がほぐれて軽くなった感じがする。
「一度リネルに戻ろう」
 グレンが言うと、シャロンは首を横に振った。
「グレン将軍は城に戻って」
「でも」
「嫌な予感がするの」
 こういう事態になったということは。考えられることはただ一つ。誰かがヴィリジアンやシャロンのことをヴァンパイアに明かしたのだ。それができるのはおそらく。
「私は一人で帰る。帰って伯父様に報告する。だから、早く」
「分かった」
 グレンは素速く全身に応急処置を施し、ヴィリジアンを握りしめた。
「シャロン、ヴィリジアンは?」
「将軍が持っていて。きっと力を貸してくれる」
「じゃあ、代わりに僕の剣を」
「分かった。ありがたく使わせてもらうね。次、会ったときに返す」
 グレンはうなずいて駆け出した。よどんだ空気を肌で感じながら。

次回更新予定日:2016/11/12

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グレンは「敵」という言葉にはっとなる。ソードの、敵。
「そんなの、嫌だ」
 ずっと見守ってくれていたのに。ずっと信頼していたのに。
「選べ。共に城に戻るというのなら、喜んで受け入れる。だが、ヴィリジアンを力尽くで奪うと言うのなら」
 ソードはヴィリジアンを目の前に掲げた。瞳が妖しく輝く。
「覚えているか? ヴィリジアンは破壊してもよいと言われている」
「駄目。やめて!」
 ソードは宙に舞い、ヴィリジアンに魔力を込め始めた。唯一の希望が砕け散ってしまう。グレンは慌ててソードを追おうとしたが、体がぴたりと静止した。何かの力がグレンの動きを邪魔している。
「グレン将軍!」
 背後でシャロンが叫んだ。そのとき、ヴィリジアンの青緑色の石が強い光を放った。グレンの瞳がそれに反応するように輝く。すると、グレンは強い魔力を持った青緑色の光に包まれた。突然、激痛が全身に襲いかかる。
「なんだ、これは」
 ソードは驚いて剣に注ぎ込む魔力を強める。それに呼応するかのようにグレンの叫び声が大きくなる。
「ヴィリジアンが自分の身を守るために、グレンの体を盾にしているのか?」
 どう考えてもそうとしか思えない。ヴィリジアンに注ぎ込んだ魔力がどんどんグレンに流れ込んでいっている。そうでなければ、もうとっくにヴィリジアンは粉々に砕け散っているはず。そして、グレンはヴィリジアンの身代わりになってソードの破の魔力を全身で受けながらも耐えている。
「破壊は叶わぬか」
 ソードは魔力を注ぐのをやめた。魔力から解放されたグレンはばったりと倒れた。
「ならば、陛下にお届けするのみ」
 ソードはくるりと背を向けて歩き出した。しかし、グレンはその後ろ姿に手を伸ばした。
「待て……ソード」
 グレンの瞳が緑色に光る。ヴィリジアンの石が同調してきらめき、剣が柔らかい光で包み込まれる。一瞬でその光は膨張し、ソードの前で爆発した。ソードの体は吹き飛ばされた。グレンは大地を蹴りながら起き上がって、ソードの手から離れたヴィリジアンに飛びつく。体中に痛みが走ったが、痛覚を封じながらグレンは倒れているソードに歩み寄った。ソードの鼻先にヴィリジアンを突きつける。
「そうか。ヴィリジアンは使い手と一心同体になれるようだな」
 ソードが嘲笑するように言うと、グレンは険しい顔のまま答えた。
「ヴィリジアンが受けた魔力を僕に伝えることができるのなら、僕の魔力をヴィリジアンに伝えることもできるはず」

次回更新予定日:2016/11/05

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「待って」
 すると、男はぴたりと歩みを止めて振り返った。
「グレンか」
 ソードだった。左手にいつもとは違う剣が握られていた。
「ヴィリジアンが、見つかった」
 グレンは驚きで言葉を失った。もう一度ソードの握っている剣を見た。青緑色の宝石が輝いている。
「この町のヴァンパイアは私が一掃しておいた。すぐに城に戻って陛下にヴィリジアンを……」
 すると、倒れていたシャロンがグレンの足首をつかんだ。
「ヴィリジアンを、ソードに渡しては……」
 グレンは振り向いた。屈んでシャロンの手を優しく握り、そっと地に下ろした。そして、ゆっくりと立ち上がると、震える声で聞いた。
「ソード、君はアウグスティンに行っていたはず。どうしてここにいるの?」
 すると、ソードは余裕のある口調で淡々と答えた。
「ヴィリジアンがここにあると聞いた。だから、探しに来た」
 ソードは表情一つ変えずにそのまま続けた。
「ヴィリジアンの捜索とその確保は陛下からのご命令。さあ、城に戻ろう」
「待って」
 ソードが差し伸べた手をグレンは取らなかった。
「その剣を、シャロンに返して」
「陛下の命に背く気か?」
「ヴィリジアンはヴァンパイア化した人間を元に戻す力を持った剣。だけど、剣にはまった石と同じヴィリジアンの色の瞳を持った人にしか使えない。シャロンでないと使えないんだ」
 すると、ソードが不敵な笑みをこぼした。
「分かっている。そんなことは」
「ソード?」
 グレンはぞっとして聞き返す。なぜソードがここにいるのか。なぜここにヴィリジアンがあることを知っているのか。そして、なぜヴィリジアンの力を知っているのか。どうしても認めたくなくて否定してきたことをここで突きつけられ、認めざるを得なくなる。
「ソード、なんで知っているの……何もかも」
「陛下の忠実なる下僕だからだ」
 動じることなくソードは答える。そして、グレンに問う。
「お前は陛下の騎士か、それとも、我々の敵か?」

次回更新予定日:2016/10/29

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「分かった」
 ルイも同じように体を支えるように立ち上がり、少しちぐはぐな姿勢で大広間の方に向かった。
 クレッチとデュランは大きくうなずき合って兵舎に向かった。
「考えることは同じだな」
 クレッチの部屋に着くと、いたずらっぽくデュランが笑う。
「外のヴァンパイアは陽動だったんだと思う。狙いは最初からエストル様だったんだ」
 クレッチが言いながら、部屋の床に魔法陣を浮かび上がらせた。エストルの私室に直接アクセスするための魔法陣だ。その中に足を踏み入れた途端、吹き飛ばされた。
「駄目か」
「俺の部屋からはどうだろう」
 こちらが失敗した以上、成功するとは思えなかったが、やれることはやってみるしかなかった。
 デュランの部屋でも魔法陣を展開し、その中に入ろうとしたが、やはり同じように弾き飛ばされた。
「万事休すだな」
「魔力を少しずつ送ることによって綻びが生じるかもしれない。城に戻ってみんなで結界に攻撃を加えてみよう」
 二人は城に戻って周りにいた兵士たちに指示を出した。

 そろそろスアに到着するはずだ。グレンは一歩一歩踏み出しながら考えた。
 シャロンが来てくれていたらいいのに。
 ヴァンパイア討伐などしたくない。人間だったはずのヴァンパイアを殺したくない。シャロンが一足先に来て町が元に戻っていてくれたらいいのに、グレンはそう願わずにはいられなかった。だが、空の色は重たい。空気がよどんでいる。
 町が見えてきた。活気というものが感じられない。何かが動いている気配がない。人はおろか、ヴァンパイアの気配さえない。
「変な、感じ」
 グレンは嫌な予感がして駆け出した。
 町の入口まで来ると、そこから大きな通りが真っ直ぐに延びていた。この町のメインストリートといったところか。少し先に二つの人影を確認した。一つは通りの真ん中にある。少しずつ離れていっているような気がする。向こう側に向かって歩いていっているのだろう。そして、もう一つは通りの真ん中に倒れているようだった。動かない。グレンは速度を落とさずにそちら目がけて走っていった。
「シャロン?」
 倒れているのがシャロンだと分かって、グレンは走り寄った。だが、すぐ先の後ろ姿にはっとする。見覚えのある後ろ姿。

次回更新予定日:2016/10/22

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