ヴィリジアン 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『ヴィリジアン』を連載しています。
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廊下を一気に駆け抜け、その勢いで集会室の扉を開けた。
「陛下の御前で荒々しい真似はやめて」
 集会室のいちばん奥の教壇にセレストは座っていた。周りよりも高いところに造られているので、少し距離はあったが、よく見える。そして、その隣には少女、〈告知者〉が立っていた。ロソー城で対峙したときと同じように。
「二度目だな。また空間転移で逃げるか?」
 エストルが〈告知者〉をキッとにらむ。冷静なエストルにしては結構な感情表現だ。すると、〈告知者〉はそれをあざ笑い、一蹴した。
「もう逃げないよ。私たちは守らなくちゃいけないから」
「守る」
 グレンが半ば怒りに似た感情をむき出しにして、剣を構えた。
「そう。陛下に、守ってもらうの」
〈告知者〉の言葉とともにセレストは光に包まれた。青かったその瞳が赤に染まる。
「陛下?」
「エストル、下がって」
 ただならぬ敵意がセレストの中で煮えたぎっているのに危険を感じ、グレンはすぐにエストルに注意を促した。エストルは素直に従った。
 敵はヴァンパイアだ。
 グレンは目の前に立っているセレストを交わして〈告知者〉を狙った。しかし、振り下ろした剣は〈告知者〉に危害を加えることはなかった。代わりにグレンの剣は、間に入ったセレストの肩すれすれのところで止まっていた。
 そんなばかな。
 セレストは確かに先ほど〈告知者〉に強化魔法をかけられた。それでもこんなに素速く動けるはずがない。
「瞬間移動、させたのか?」
 あと一瞬剣を止めるのが遅れたら、セレストの肩を斬っていた。動揺している。セレストを自分の手で傷つけていたかもしれないと思うと、緊張で過呼吸になり、変な汗が出てくる。それを見て鈴の音のような声で〈告知者〉が笑う。
「陛下は私も守ってくれる。陛下を倒さない限り私は倒せない」
 いかに素速く動いても瞬間移動する人よりも先に動くのは無理だ。瞬間移動など空間を操る魔術は消費する魔力が多いので、術者を消耗させて速度を落としたり魔力を使い果たさせることも可能だが、上級ヴァンパイアなら元々持っている魔力が多いので、魔力を削っていくのに少し時間が必要になる。それに瞬間移動は術をかけられた方の体にも負担がかかる。何の訓練も受けていない普通の人間であるセレストの体に障るようなことはなるべく避けたい。ならば。
「こうだ!」
 グレンは素速く〈告知者〉の背後に回って剣を振り上げる。
「無駄だよ」

次回更新予定日:2018/02/24

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「これ倒してもまた補充されるパターンですよね」
〈告知者〉を倒さない限りは、リンの言うとおりだ。
「集会室に行かないように私たちが足止めするから、先に行って」
「うん。分かった」
 ソフィアに言い残して、グレンはエストルの方を向いた。
「行こう」
「また後で会おう」
 ウィンターもそう言って、扉の前に立ち、剣を振るう。
 グレンはうなずいて扉を開いた。ウィンターが魔獣を追い払ってくれている間にエストルと素速く廊下に出て扉を閉める。
 長い廊下が眼前に広がる。
 ここを抜ければ集会室だ。
「グレン」
 エストルに声をかけられ、グレンは振り向く。すると、エストルは真っ直ぐ集会室の扉の方を力のある目でにらんでいた。
「私は必要であれば自らをなげうっても陛下をお助けしたい」
 その言葉を聞いてグレンはエストルに負けない強い決意をその表情ににじませた。
「僕は何があっても必ず陛下とエストルを守るよ。君が自らをなげうつとしたら、それは僕が斃れてからだ」
 グレンは優しい顔になって微笑んだ。
「国王や宰相を守るのは、王騎士の仕事だから。それに」
 エストルの目をじっと見つめたままグレンは続けた。
「君は大切な友達だから。守りたいんだ。君も、君の大切な人も」
「ならば」
 エストルはにやりと意地の悪い笑いを浮かべた。
「お前自身の身も守ってくれ。私の大切な友人なのだからな」
「うん。分かってる」
 まだここで終わってはいけない。ここでセレストを救出できても上級ヴァンパイアたちを全滅させることができても、ムーンホルン各地にヴァンパイア化したままの人たちがさまよっている。ヴィリジアンの使い手としてまだなすべきことがある。
「よし、行こう」
 目の前に見える扉に向かって二人は走り出した。

次回更新予定日:2018/02/17

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リンは全員大広間の方に行ったことを確認すると、広範囲に攻撃魔法を放ち、一気に外の魔獣を全滅させた。すぐに剣を握りしめ、大広間に突入する。
 ウィンターはバッサバッサと敵をなぎ倒し、前進していく。眼前に善戦するエストルの姿を見て、敵を斬りながら苦笑いを浮かべる。
「素晴らしい動きだな。実戦慣れした戦士のようだ」
 すると、エストルも大きく剣を振って答えた。
「実戦経験は皆無だ。ただイメージしていた感じとだいたい一致している」
「大した想像力だ」
「宰相はこのように現場に来ることはほとんどないからな。現場から来た者たちの報告を聞き、正確なイメージをすることは大切なんだ」
 近くにいた最後の魔獣を斬りながら、エストルは言った。
「これも全部グレンのおかげだ」
 二人はグレンの方を見た。グレンは大広間から廊下につながる扉の前でやはり最後のヴァンパイアに剣を振るっていた。
「グレンは天才だったから、士官学校にいた頃から実に多様な技や魔術をものにしていた。お目にかかったことのない技もよく飛び出した」
 エストルは奥の扉の方に向かって歩き出した。
「実技でトップの成績を修めるには、そんなグレンの次の動きをイメージする力が不可欠だった。それでもこちらの技術が追いつかなくて、結局勝てなかったが」
「どうかしたの、エストル?」
 エストルの気配に気づいて、グレンがヴィリジアンを持ったまま振り返る。
「いや、お前には感謝している」
 怪訝そうな顔をされるのではないかと思ったが、グレンはにっこり笑って返した。
「僕もだよ、エストル」
 ほほえましい光景を見て、ウィンターは口元を緩める。
 ソフィアたちの方を見ると、ちょうど魔物たちを片づけ終わったところだった。
「進みますか?」
 ソフィアが向こうの方から大きな声で聞いてくる。
 そのときだった。上から大量の魔獣が降ってきたのだ。
「どこから湧いてきたんだ!」
 天井に異常があるわけではない。
「空間転移か」
 それしかない。〈告知者〉の仕業だ。
「無視して先に進んでも良さそうだけど、これが集会室になだれ込んだりすると厄介ね」
 ソフィアが言うと、ルイが剣を構えた。
「それに浄化した神官たちが倒れています。危害を加えさせるわけにはいきません」

次回更新予定日:2018/02/10

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神殿の大きな扉の前に立つ。堂々として威厳のある扉だ。何か圧力のようなものを感じる。
「扉を開けたとたん、魔物があふれ出てくるかもね」
 ソフィアがぽつりと言った。
「外に出てしまった魔物は減速しなくても広い空間を使って戦えばいいから、先に中に残っている魔物に一回で呪文をかけてしまいたいところね」
「扉を開けたらまず私が魔力で敵を吹っ飛ばして入口付近を空けます」
「じゃあ、減速の呪文は僕がかけるんだね」
 扉の真ん前に立ったリンのすぐ後ろにルイがすっと場所を取る。リンの方が魔法に威力があるので、自然にこういった役割分担になる。息のぴったりな二人はそこに一緒に立っているだけで安心だ。
「呪文をかけたら、いったん外に退避します」
「それでいきましょう」
「では、私たちで扉を開こう」
 エストルとウィンターが扉の左右のノブを握る。
「開けるぞ」
 グレンとソフィアは剣を握りしめた。
 行くよ、ヴィリジアン。
 グレンが心の中で声をかける。
 エストルとウィンターがうなずき合って、重い扉を一気に開く。
「喰らえ!」
 間髪入れずにリンの魔法が飛び、入口付近に控えていた魔物たちが吹っ飛び、少し空隙ができた。そこにすぐに入ったルイが減速の呪文を唱える。すぐに飛んで後ろに下がると、ソフィアが予想したように魔物たちが外にあふれてきた。素速くソフィアが先に出てきた魔獣たちを仕留める。
 外に出てきたのは魔獣が多いようだ。しかも大半は鳥型の飛ぶ魔獣で、すぐにどこなに飛んでいってしまった。行く手を阻まない魔獣は、町の外の冒険者たちに任せることにする。目的はあくまでも大広間の突破だ。
 グレンは外に出てきたヴァンパイアを二、三人斬りつけると、もう大広間に入って次の標的を探し始めた。大広間での魔物の比率も魔獣の方が圧倒的に多い。ヴァンパイアは全員服装からして神官だった人のようだ。
 丁寧に正確に素速く仕留める。魔獣がすぐ横にいる場合はまとめて斬りつける。魔獣は消滅し、ヴァンパイアはその場に倒れる。
 外にヴァンパイアがいなくなったのを確認すると、リンが外にいるメンバーに声をかけた。
「中に入ってください」
「分かったわ」
 ソフィアが答えると、他のメンバーも中に入った。

次回更新予定日:2018/02/03

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「やはり集会室に陛下と〈告知者〉とともにいる可能性が高いな。最初に戦うことになるのは、ソードになりそうだな」
 エストルの言葉にグレンとソフィアが険しい表情をする。ソードがどれほど強いのかは同じ王騎士の仲間だった二人がいちばんよく知っている。しばらく全員黙ってそれぞれ心の整理をする。
「ねえ、ソフィア」
 いちばん最初に口を開いたのはグレンだった。
「ヴァンパイアは全員僕に任せてもらえないかな」
 つまりグレン以外に襲いかかってくるヴァンパイアは全て斬らずに避けろということだ。エストルの予想するように限られた広さの空間で大量のヴァンパイアと魔獣が入り交じった状態で魔獣だけを倒しながら、追ってくるヴァンパイアから身をかわし続けるというのは、なかなかの至難の業だ。だが、ヴァンパイアが神官だったら、浄化して意識が戻ったとき、有益な情報を聞くことができる可能性も高い。そして、何よりもそれだけ犠牲が少なくなる。
「リン、減速の呪文は効くかしら?」
 ソフィアが後ろに控えていたリンに問いかける。
「極端に速度を落とすことはできませんが、多少なら」
「では、よろしく頼むわ」
 振り返って微笑むと、その笑顔のままソフィアはグレンの方を向いた。
「魔獣は私たちに任せて」
「ありがとう、ソフィア」
「魔獣狩りか」
 少年のようなきらきらした目でエストルがつぶやく。口元には微笑を浮かべている。
「なんでエストル宰相になったんだろう」
「ああ。気の毒だとだけ言っておこう」
 グレンとウィンターがこそこそと声を潜めて話していると、後ろからソフィアが手加減せずに背中をどんっと叩く。
「二人とも、準備はいい?」
「うん。行こう」
 前のめりになった姿勢を立て直してグレンは答えた。

次回更新予定日:2018/01/27

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