ヴィリジアン 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『ヴィリジアン』を連載しています。
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「ご一緒させてもらっても構わないかな?」
「いいよね?」
 グレンは振り返ってソフィアに聞く。
「もちろんよ」
「では、失礼させてもらうよ」
 グレンはウィンターに空いていた椅子を勧めた。その足でグラスを一つ取ってきてウィンターの前に置くと、そこにも酒を注いだ。
「ありがとう」
 ウィンターに微笑んで、グレンは自分の席に着こうとした。
「ソフィア?」
 涙ぐんでいる。グレンは一瞬驚いたが、すぐにその理由に思い至った。
「ごめんなさい。なんか急に思い出しちゃって」
「そうだね」
 グレンは優しくうなずいて席に着いた。
「城に揃うと、ソードと三人でよくこうして飲んだね」
「そう。ソードあまり話はしなかったけど、お酒は好きだった」
 口元には穏やかな笑みを浮かべていたが、涙が止まらなかった。
「そうか」
 ソフィアの涙を見てウィンターは寂しそうに笑った。
「私は、ソードのこと、何も知らないんだな」
「ごめんなさい。悲しいの、私だけじゃないのに。でも、大切な仲間だったの」
「ソードは王騎士として君たちと過ごせて、幸せだったと思う。きっと君たちといるときが唯一心安まる時間だったのだと思う。良かったら、もっと聞かせてくれないか? ここに来てからのソードのこと」
 ウィンターはグレンとソフィアが語る思い出の一語一語に耳を傾けた。
「遅くなっちゃったわね。私はそろそろ失礼するわ」
 どれほどの時間が経っただろうか。話が尽きると、ソフィアが席を立った。
「おやすみなさい」
 グレンがソフィアを送ってドアを開けると、そこには少し驚いたような表情のエストルが立っていた。急に目の前でドアが開くとは思っていなかったのだろう。
「エストル様」
 ソフィアも一瞬驚いたようだったが、すぐににっこり笑って挨拶を交わし、部屋を出ていった。
「ウィンターも来ていたのだな。ちょうどいい」
 エストルは慣れた動作で空いている席に座った。グレンが慌ててソフィアのグラスを下げ、代わりにエストルの前に新しいグラスを置いて酒を注ぐ。

次回更新予定日:2018/06/23

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幸い小型の鳥型の魔獣が数匹襲ってきただけで、道中あまり危険なこともなかった。
 霧は消え、雲の隙間から光が差していた。
 橋のど真ん中に石版が鎮座していた。刻まれているのは古代文字だろうか。その向こうは円形の舞台のようになっていた。青い光を放っている。そこが先端で、周りにはもう海しか見えない。
「これが……ゲート」
 初めてゲートを見たグレンがつぶやく。これが唯一ムーンホルンとテルウィングとをつなぐ装置だ。
「ウィンター、まだ帰らないな?」
 セレストが念のため確認する。
「はい。ロソーに戻ってもう一度皆さんと今後のことを相談させていただきたいので」
「では、そのような機会を設けよう。封印をする」
 セレストが石版に手を置く。石版が装置と同じ青い光を帯びた。装置の光が消え、水色の結界に装置が覆われる。
「以降、私の許可を得た者のみが通行できるようになる。また、通行が認められていない者でも、結界越しに話をすることができる」
「では、以前のように見張りの者を二人つけましょう」
 いちばん後方にいた二人の神官が結界の前に立つ。剣を携帯している。
「ひとまずこれで魔獣が来なくなりますね」
 エストルが少しほっとしたような表情になる。
「では、一晩休ませてもらってロソーに戻りましょう」
「お好きな客室を使ってください。まだばたばたしておりますが、必要なことがあれば、遠慮なくお申しつけください」
 グレンもほっと息をついた。エストルと神官長の会話を聞いてやっと張り詰めていた緊張の糸がほどける。こうして立っていられるのはヴィリジアンの魔力のおかげで、もう自身の魔力はとっくに底をついている。早く充分な休息を取らなければならない。

 ロソーに戻った夜、グレンは部屋にソフィアを招いて酒を飲みながら話をしていた。
「そうだったの。ソード、そんな大切な妹さんを失って」
 ソードの最期、エルのこと。聞いてもらいたい話はいくらでもあった。
 ソフィアが重いため息をつくと、ドアをノックする音が聞こえた。
「グレン、いるか? ウィンターだ」
 グレンはゆっくりと立ち上がってドアの方に向かった。ドアを開けると、ウィンターが穏やかな笑顔を浮かべて立っていた。
「時間が空いていたら、話し相手になってもらえないか?」
「今、ソフィアも来ているんだ」

次回更新予定日:2018/06/16

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グレンはソードの胸から剣を抜いた。これまでソードの口から紡ぎ出された数々の言葉たちが一気に記憶にあふれ出し、グレンは涙した。
「ソード……僕は、君に何度も助けられたのに、君の悲しみを、どうすることもできなくて……」
 恐ろしい。他者の者を我が物にしたいという支配欲が戦争を引き起こし、その戦争に勝利するためヴァンパイアが生み出された。そのヴァンパイアによって人は狩られていった。その牙から逃れた者たちにも不幸な記憶、そして恐怖と憎しみだけを残していった。
 ソードもそのうちの一人。ただ失ったものに対する執着が誰よりも強かった。そして、それを成就させるだけの力があった。
 それがソードを縛りつけた。
 グレンはソードの横にかがみ、その左手を優しく握った。その手にはもう力はなかった。グレンはそっと手を元の位置に戻して立ち上がると、ウィンターの方にゆっくり歩いていった。
「なんて、声をかけてやれば、良かったのだろう」
 呆然とするウィンターの胸にそっと手を当てて、初めてその言葉にひそむウィンターの複雑な胸中が分かったような気がした。謝ることもできず、許すこともできず。グレンは優しい表情をした。
「ウィンターも、あまり自分を責めないで」
 静かに魔力をウィンターの傷ついた体に注ぎ込む。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
 ウィンターは回復してもらった体をゆっくりと起こし、まだ少しおぼつかない足でソードの方に歩いていった。そして、顔をのぞき込む。
「ソード……」
 やはりかけてやる言葉が続かない。ウィンターはじっと息絶えた弟の顔を見ていた。しばらくして、やっと口を開く。
「何か、安心したような顔をしているように見える。気のせいだろうか」
「きっと、苦しかったんだよ。ソードも」
 グレンはにっこり微笑んだ。
「ソード、優しい人だから」
 そう言われて初めて涙がこぼれる。
 足音が聞こえてグレンは振り向いた。霧の合間から人の影が見えた。
「陛下、エストル様!」
 案内役を務めていた神官長が一歩下がった。すると、後ろにいたセレストが二人に声をかけた。
「お前がグレンか。エストルが士官学校にいたとき、お前の話は何度か聞いた。聡明で剣術にも魔術にも長けるとは聞いていたが、王騎士になっていたとは」
 グレンは美しい動作でセレストの前にすぐさまひざまずいた。ほめられたのが少し照れくさくて少し赤くなった顔をうやうやしく下げる。
「初めまして、陛下。王騎士のグレンです」
「そして、そちらがテルウィングから来たというウィンターか?」
「はい」
 グレンの後ろにウィンターもひざまずく。
「ソード」
 エストルはソードの顔を見つめた。様々な思いが込み上げてきたが、何も言わなかった。
「ゲートに、向かわれるのですか?」
 ウィンターがセレストに尋ねた。
「そうだ。取りあえず魔獣がこれ以上侵入してこないように、私が許可した者以外は通行できないように封印しようと考えている」
 すると、グレンの全身が緑色の光を帯びた。ヴィリジアンの魔力で瞬時に回復を終えると、グレンは立ち上がった。
「陛下、この先魔獣が現れるかもしれません。護衛いたします」
「エストルだけでも充分かもしれませんけどね」
 エストルは苦笑いを浮かべていたが、否定はしなかった。
「後で迎えに来るよ」
 グレンはソードに言い残して先頭に立った。
「行きましょう」

次回更新予定日:2018/06/09

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残っている力はわずか。もう一か八かでたたみかけるしかない。
 ソードは残っている魔力を全て手のひらに集中させた。
「来るよ、ヴィリジアン」
 グレンも静かに目を閉じ、意識を集中した。カッと目を見開くと、ヴィリジアンの瞳が輝いた。それに呼応するように剣の刃がくっきりとした緑色の光をまとう。
 ソードは残っていた魔力を一気に解放した。緑色の光が吹き飛ばされ、勢いをつけたソードの攻撃はそのまま一直線にグレン目がけて突進してきた。グレンはキッと鋭い目つきで攻撃を見つめ、強く素速く剣を振った。腕が折れそうな衝撃を感じながらも、ソードの攻撃を一瞬で振り払った。この一瞬に力を集中させなければ、押し切れないと思った。
「なんて、力だ……」
 力は足りていなかったかもしれない。ソードも覚悟はしていた。だが、グレンの先ほどの攻撃を蹴散らしたのだ。こんなに一瞬で振り切られるとは思っていなかった。そして、次の瞬間だった。
「あ……」
 素速すぎて動きが見えなかった。だが、確かに、ソードの胸に、緑色に輝くグレンの剣が刺さっていた。
 エルを失ったそのときから狂い始めた二人の時間。一方は、ヴァンパイアが来る前の何の変哲もない世界を取り戻すことによってその罪を償おうとした。そして、もう一方は、大切な存在をあらゆるものから守るだけの力を手にすることによってその罪を償おうとした。
 だが、その大切な存在は、守るべき存在は。
「ソード」
 グレンは穏やかな表情でソードを真っ直ぐに見つめた。
「エルさんは、もうこの世界のどこにもいない」
 すると、ソードは弱々しい、だが優しい笑みを浮かべた。
「違う。エルは、私の心の中に、記憶の中に確かにいる。だから」
 優しさに満ちた笑いが嘲笑に変わる。
「ただ生き残りたくて。心の中の、記憶の中のエルだけでも守りたくて、誰にも負けない強い力を求めた。私も消えてしまえば、エルは本当にいなくなってしまうから」
「ソード……」
「本当はどこかで気づいていた。強い力を手にすることで、逆に自分の身がより大きな危険にさらされる可能性も高くなるのだと。だが、引き返すには遅かった。もう強くなれるところまで強くなるしかなかった」
 涙が一粒、ソードの瞳からこぼれ落ちる。
「すまない、エル。これが私の力の、限界だ」
 緑色の光が消えるのと同時にソードは目を閉じた。魔力が完全に尽き、カーマナイトの核がヴィリジアンに侵食されるのを抑えることができなくなったのだろう。

次回更新予定日:2018/06/02

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「やめろ、ソード」
 声を振り絞ってウィンターが制する。だが、ソードは構わず先を続けた。
「引き分けとしても、双方が息絶えるまで続ける。引き分けと呼べるものがあるとしたら、それは相討ちの場合のみだ」
「ソード……」
 何を目指しているのか。なぜここまでして強さを証明しなければならないのか。ソードにしか分からない。ソードの歪んでしまった心にしか分からないソードだけの信念。
「それに」
 ソードの手がふわりと赤い光に包まれる。
「まだ全部使い果たしたわけではない」
 ウィンターは目を見開いた。終わりだ。もうグレンの体からは全く魔力が感じられない。力を振り絞って拳を握り、その拳を支えにして起き上がろうと試みた。だが、すぐに力は尽き、体が地についた。残っている魔力はないか、集中してみる。だが、どこからも力が湧いてこない。
「そうか」
 声に反応して顔を上げると、グレンが放り出された剣に手を伸ばしていた。
「応えて、くれるかな」
 優しい声と表情で剣の鞘を握りしめると、ヴィリジアンが緑色に輝いた。わずかしか残っていなかった魔力を注ぎ込むと、それが大きくなって還ってきてグレンの体の隅々に浸透していった。グレンは大地の感触を確かめるようにしっかりと手をつき、体を起こした。そのまま少しおぼつかない姿勢でゆっくりと立ち上がる。
「そんな。まさか」
 あまり見たことのない驚きの表情をソードが見せる。
「まだ、戦えるみたい」
 グレンはソードをヴィリジアンの瞳で見据え、剣を構えた。感覚が戻っていつもどおりのきりっとした姿勢に戻る。
「これは、負けたか?」
 皮肉っぽい笑みを浮かべはしたが、まだ諦めているようには見えなかった。
「今度はこっちから行くよ」
 剣がひときわ強い輝きを放つ。グレンは渾身の力を込めて剣を大きく振った。
「喰らえ!」
 ソードも魔力を放出してこれに対抗する。
 二つの光がぶつかる。ぶつかった瞬間、ソードは力が足りていないことを素速く察知し、温存していた魔力を足した。グレンの放った緑色の光は速度を落としたが、まだゆっくりと押されている。
「やむを得ないか」

次回更新予定日:2018/05/26

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