魔珠 ヴィリジアン 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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神殿の大きな扉の前に立つ。堂々として威厳のある扉だ。何か圧力のようなものを感じる。
「扉を開けたとたん、魔物があふれ出てくるかもね」
 ソフィアがぽつりと言った。
「外に出てしまった魔物は減速しなくても広い空間を使って戦えばいいから、先に中に残っている魔物に一回で呪文をかけてしまいたいところね」
「扉を開けたらまず私が魔力で敵を吹っ飛ばして入口付近を空けます」
「じゃあ、減速の呪文は僕がかけるんだね」
 扉の真ん前に立ったリンのすぐ後ろにルイがすっと場所を取る。リンの方が魔法に威力があるので、自然にこういった役割分担になる。息のぴったりな二人はそこに一緒に立っているだけで安心だ。
「呪文をかけたら、いったん外に退避します」
「それでいきましょう」
「では、私たちで扉を開こう」
 エストルとウィンターが扉の左右のノブを握る。
「開けるぞ」
 グレンとソフィアは剣を握りしめた。
 行くよ、ヴィリジアン。
 グレンが心の中で声をかける。
 エストルとウィンターがうなずき合って、重い扉を一気に開く。
「喰らえ!」
 間髪入れずにリンの魔法が飛び、入口付近に控えていた魔物たちが吹っ飛び、少し空隙ができた。そこにすぐに入ったルイが減速の呪文を唱える。すぐに飛んで後ろに下がると、ソフィアが予想したように魔物たちが外にあふれてきた。素速くソフィアが先に出てきた魔獣たちを仕留める。
 外に出てきたのは魔獣が多いようだ。しかも大半は鳥型の飛ぶ魔獣で、すぐにどこなに飛んでいってしまった。行く手を阻まない魔獣は、町の外の冒険者たちに任せることにする。目的はあくまでも大広間の突破だ。
 グレンは外に出てきたヴァンパイアを二、三人斬りつけると、もう大広間に入って次の標的を探し始めた。大広間での魔物の比率も魔獣の方が圧倒的に多い。ヴァンパイアは全員服装からして神官だった人のようだ。
 丁寧に正確に素速く仕留める。魔獣がすぐ横にいる場合はまとめて斬りつける。魔獣は消滅し、ヴァンパイアはその場に倒れる。
 外にヴァンパイアがいなくなったのを確認すると、リンが外にいるメンバーに声をかけた。
「中に入ってください」
「分かったわ」
 ソフィアが答えると、他のメンバーも中に入った。

次回更新予定日:2018/02/03

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「やはり集会室に陛下と〈告知者〉とともにいる可能性が高いな。最初に戦うことになるのは、ソードになりそうだな」
 エストルの言葉にグレンとソフィアが険しい表情をする。ソードがどれほど強いのかは同じ王騎士の仲間だった二人がいちばんよく知っている。しばらく全員黙ってそれぞれ心の整理をする。
「ねえ、ソフィア」
 いちばん最初に口を開いたのはグレンだった。
「ヴァンパイアは全員僕に任せてもらえないかな」
 つまりグレン以外に襲いかかってくるヴァンパイアは全て斬らずに避けろということだ。エストルの予想するように限られた広さの空間で大量のヴァンパイアと魔獣が入り交じった状態で魔獣だけを倒しながら、追ってくるヴァンパイアから身をかわし続けるというのは、なかなかの至難の業だ。だが、ヴァンパイアが神官だったら、浄化して意識が戻ったとき、有益な情報を聞くことができる可能性も高い。そして、何よりもそれだけ犠牲が少なくなる。
「リン、減速の呪文は効くかしら?」
 ソフィアが後ろに控えていたリンに問いかける。
「極端に速度を落とすことはできませんが、多少なら」
「では、よろしく頼むわ」
 振り返って微笑むと、その笑顔のままソフィアはグレンの方を向いた。
「魔獣は私たちに任せて」
「ありがとう、ソフィア」
「魔獣狩りか」
 少年のようなきらきらした目でエストルがつぶやく。口元には微笑を浮かべている。
「なんでエストル宰相になったんだろう」
「ああ。気の毒だとだけ言っておこう」
 グレンとウィンターがこそこそと声を潜めて話していると、後ろからソフィアが手加減せずに背中をどんっと叩く。
「二人とも、準備はいい?」
「うん。行こう」
 前のめりになった姿勢を立て直してグレンは答えた。

次回更新予定日:2018/01/27

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「エストル様、神殿内部がどういった造りになっているか覚えておいでですか?」
 透かさずソフィアが尋ねる。すると、エストルはうなずいた。
「神殿内部は極めて単純な造りだ」
 入ってすぐに大広間がある。その奥に廊下があり、両側にいくつもの部屋がある。いちばん手前が階段になっており、地下につながっている。地下はやはり廊下の両側に部屋がいくつもある間取りになっている。一階の廊下の向こうは集会室だ。神殿の神官たちが全員座って神官長の話を聞けるようになっているので、この部屋もかなり広い。その右奥の隅に神官長の執務室がある。そして、集会室の奥の扉の向こうには大きな橋があり、その橋を渡ったところにゲートがある。ゲートの周りは海になっているため、たどり着くにはこの橋を渡るしかない。
「一本道なんですね」
「広い一本道だがな」
 感想を短く述べたグレンに対してエストルが答える。
「突っ込むしかないですね」
 不敵な笑みを浮かべてグレンが大胆な発言をする。
「結論から言うと、そうだな。だが、その前にいちおう分かる範囲で確認をしておこうか」
「それがいい」
 ウィンターが賛成して、腰を下ろす。すると、他の者たちも思い思いの姿勢で座り、その場に落ち着いた。
 エストルは一度全員の顔を順番に見回し、口を開く。
「まず確実に神殿内部にいそうなのは、陛下、それから〈003 告知者〉。この二人は一緒にいると見て間違いないだろう」
「そして、おそらく集会室にいるな」
「だとしたら、大広間はどう利用する?」
 ウィンターの意見にうなずきながら、エストルが問い返す。
「私だったら、敵を少しでも消耗させるために魔獣を放ちますね。先ほどのような強い魔獣ではなく、神殿に何匹も入れるような小型の魔獣を大量に」
「もしくは」
 ソフィアにつけ加えるようにグレンが苦しそうな表情で言う。
「中にいた神官をヴァンパイアにして……」
「私の予想では両方あるな」
 ばっさりとエストルが断言する。こういった現実的な場面では容赦ない推理をする。だが、それが結果として犠牲を最小限に抑える。
「ソードはやはり中にいるのでしょうか?」
「テルウィング側がこのような展開になることを予想していなかったとは思えない。現にここまで実に用意周到に我々を迎え撃っている。このようなとき、ソードがパイヤンを離れるとは考えにくい」
 ソフィアの問いにエストルはさらりと述べる。すると、ウィンターが言った。
「ソードはおそらくムーンホルン王と〈告知者〉の護衛をしていると思う。〈告知者〉は様々な特殊能力を持つが、戦闘能力は他のマスターヴァンパイアと比べてかなり低い」

次回更新予定日:2018/01/20

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「大丈夫か? ついてこい」
 誰だか分からなかったが、男は助けに来てくれたのだと思った。
「待ってください」
 ウィンターは急いで自分の部屋に戻って使い慣れた剣を取って戻ってきた。
「行きましょう」
 戦うつもりだった。まだ未熟なのは分かっていたが、できるだけのことはしたかった。先ほどだってヴァンパイアたちを蹴散らしながらここまでたどり着いたのだ。
「よし。俺の側を離れるなよ」
 男は襲いかかってくるヴァンパイアを鮮やかな剣の一振りで倒した。男が剣を振った先には光が走り、ヴァンパイアたちは瞬く間に消滅していった。
 ウィンターと弟はその剣士に連れられて村を出た。
 弟はショックでしばらく言葉が出なくなった。だが、言葉が出るようになってからも妹のことでウィンターを責めることはなかった。ヴァンパイアになった母に攻撃したとき、弟は妹を助けようと無我夢中だったのだろうとウィンターは思う。だから、妹が母に殺され、その母を兄が殺したとき、弟は初めて現実で何が起きているのか自分の目で理解したのだと思う。それがどれほどの衝撃を弟に与えたのか、想像もしたくなかった。ただ言葉には出さなかったが、妹を救ってくれなかったウィンターに対して憎しみを抱いていたことは痛いくらいに分かった。

 ウィンターは嫌な思い出を胸に今は空き家となった家を出た。いい加減見飽きた景色をざっと見回しながら神殿に向かう。
「ウィンター」
 ちょうど向こうの方からグレンとエストルがやってくる。グレンもすっかり元気そうだ。
「そろったみたいね」
 グレンの声で後ろから来たウィンターにも気づき、先に着いて待っていたソフィアが少し安心したような笑顔を見せた。
「そちらの方は誰かいたか?」
 エストルがソフィアに聞いた。ソフィアは悲しげな顔になって首を横に振る。
「いえ。一人も」
「そちらはどうだ、ウィンター」
「ああ。誰もいなかった」
「じゃあ、やっぱり……」
 グレンの顔が曇る。
「あとは神殿だな」
 エストルは目の前にそびえる巨大な神殿を見上げた。
「策を立ててから入りたいところだが、中の状況が分からないことには」
 エストルは苦笑した。

次回更新予定日:2018/01/13

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ばたんとドアを開けると、妹の声がした。
「お兄ちゃん!」
 妹の肩をがっしりつかんでいた母が振り返った。
「母さん?」
 しかし、様子が変だ。目に光がなく、虚ろで言葉を発さない。
「母さん、だよね?」
 何となく状況を察しながらもそれを否定するように震える声で聞いてみる。しかし、母はウィンターの問いを無視して妹の首筋を狙った。
 まずい。母はすでに誰かに噛まれてヴァンパイアになってしまっている。すぐに殺さないと妹もヴァンパイアになってしまう。
 ウィンターは護身用に持っていた短剣に手をかけたが、迷いが生じた。
 母親だぞ。母親を手にかけるのか。
 そのときだった。
「やめろ!」
 弟が閃光を放った。
 しかし、それは効かなかったようで、母は何もなかったかのように妹の首筋に噛みついた。鈍い音がしたのはその一瞬後だった。
「おにい……ちゃん」
 ウィンターの手にした短剣は母だったヴァンパイアの胸を真っ直ぐに貫いていた。
 だが、一瞬遅かった。
 妹はすぐに意識をなくして倒れた。脈はなかった。
「お兄ちゃん?」
 不安よりも恐怖に満ちた顔で弟が聞いた。ウィンターは首を横に振った。
「そんな……嘘だよね? 嘘だよね……」
 消えそうな声でつぶやくと大声で泣き出した。ウィンターも泣きたかったが、声さえ出なかった。弟が閃光を放ったあのタイミングで迷わずに自分が短剣を刺していれば、妹は助かったのだ。
 そのとき、ドアが開いた。ヴァンパイアだ。
 出口をふさがれ逃げ場がない。ウィンターの魔法ならこちらに来ることを阻むことくらいはできるかもしれないが、倒せないかぎりそれは時間稼ぎにしかならない。それでも、他に選択肢がなくて、取りあえず放心状態になってしまっている弟を抱きしめて閃光を放つ。
「よくやった」
 少し後退したヴァンパイアは鈍い音とともにばっさりと倒れて消滅した。その後ろに剣を手にした男が一人立っていた。

次回更新予定日:2018/01/06

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