魔珠 ヴィリジアン 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「興味深いな。私もヴィリジアンの具合、見せてもらおう」
「ちょっと待ってね」
 グレンは鞘から剣を抜いて握ると、光で覆った。
「危ないから出せる力の量を制限するね」
「なめられたものだな」
 苦笑いしながらも防御を強化する魔法を全身にかける。上級ヴァンパイアの血を取り入れたグレンとヴィリジアンの魔力が繰り出す攻撃だ。普通に受けたらただでは済まない。
「今日はウィンターも昨日以上に練習になると思うよ」
「これは派手にやらかす気だな」
 やれやれとため息をついてエストルは結界を張る。グレンとウィンターは訓練場の中央から左右に分かれてゆっくりと歩いていった。
「いつでもいいぞ」
 ウィンターが剣を構えると、グレンもヴィリジアンの結晶に語りかけた。
「行くよ、ヴィリジアン」
 ヴィリジアンの調子を確かめるための手合わせなので、早速グレンは地を蹴ると、宙に舞い上がり、ヴィリジアンで空を斬り、閃光を飛ばした。淡い緑色の美しい閃光だった。すさまじいスピードで飛んできた閃光をウィンターは剣で全力で弾こうとしたが、威力がありすぎて逆に突き飛ばされた。結界に大きな音を立ててぶつかると、体が地に放り出された。
「なんて力だ」
 だが、すぐさま容赦なく次の攻撃が飛んでくる。ウィンターは取りあえず上半身を起こして、あわててシールドを張る。間一髪のところで間に合い、グレンの攻撃は爆音を立てて跳ね返り、グレンの後ろの結界に当たってもう一度爆音を響かせ、破裂して消滅した。
「いいよ、ヴィリジアン」
 満足げに言うと、グレンはウィンターの渾身の一撃をヴィリジアンの魔力を帯びた剣で跳ね返した。剣の動きがあまりにも軽く素速く、ウィンターはあっけにとられた。ウィンターの攻撃も結界にぶつかり、爆音とともに破裂して消滅した。
「うん。うまく機能できているみたいだね」
 一度剣を下ろし、グレンはエストルの方に戻ってきた。ウィンターもそれを見て一歩踏み出すが、もう少し足下がふらつき始めていることに気づいた。
「結構効いているな」
 まだ二撃しか喰らっていないのにこの様だ。しかもヴィリジアンの魔力を制御した上で、だ。

「もっと腕を磨かないと、上級ヴァンパイアにはとても太刀打ちできないということだな」
「後でまたやろう」
 にこやかに微笑むグレンは恐ろしいことに全く息を切らせていない。

次回更新予定日:2017/09/16

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「行くぞ、グレン」
「うん」
 グレンの剣を右手で持って、いらないかもしれないと思ったが、グレンに肩を貸してみた。グレンは素直にエストルにもたれかかった。そんなに体重がかかっている感じはしなかったが、やはり支えはあった方が楽だったようだ。
 仮眠室は隣の部屋だった。エストルはその辺も計算して部屋を借りたに違いない。
 壁に生まれ変わったグレンの剣を立てかけ、エストルはベッドにグレンを寝かせる。
「片づけをしてくる」
「ありがとう。ごめんね。何から何までやらせちゃって」
「それはこちらの台詞だ」
 そう言い残すと、エストルは部屋を出ていった。
 グレンは目を閉じて疲れ果てた体を休めることにした。

 翌朝、体調はすっかり元通りになっていた。
 昨日はよく休ませてもらった。しばらく仮眠室で休ませてもらった後、エストルと少し話をして自室に戻った。自室でもゆっくりした。夕方になってから、ウィンターとシャロンがグレンの様子を見に来た。
「将軍、お疲れ様です。ありがたく使わせていただきます」
 シャロンはウィンターから魔術研究所でのいきさつを聞き、ヴィリジアンを返してもらったことを伝えて礼を言った。そのまま少し話をして夕食を一緒にした。エストルは忙しかったのか、顔を見せなかった。
 グレンは身支度をして剣を手に取った。
「おはよう、調子はどう?」
 剣に話しかけると、ヴィリジアンの結晶が反応して輝く。グレンはにっこり笑って剣を持って訓練場に向かった。

 訓練場に来ると、昨日と同じようにエストルとウィンターがいた。昨日と違い、土のグラウンドと壁に囲まれた殺風景な場所だったが、今日も美しい青空が広がっている。
「もう大丈夫なのか?」
 エストルが聞くと、グレンは笑顔で答えた。
「うん。昨日ゆっくり休ませてもらったから」
「それは良かった」
 ヴィリジアンの輝きが目に入ってエストルはにやりと笑う。
「今日はやる気だな」
「うん。ヴィリジアンが僕の剣でうまく力を発揮できるか見てみたいと思って」
「そうだな。相手させてもらおう」
 ウィンターが言った。すると、エストルが目を輝かせる。

次回更新予定日:2017/09/09

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「これは好都合だな。何度も同じ町に浄化しに行く必要はないということだ」
 ヴァンパイアの数が増えないようにするという面から見ると、非常にはかどる。
「そして、私も何度も斬られなくても良いということだな」
 エストルが言うと、グレンは思い出したように肩を落とした。
「ごめん、エストル。我慢、していたんだけど……昨日、吸わせてもらったばっかりなのに……」
 こんなことはなかった。一度吸血すれば、何日も持った。
 エストルはグレンの前にかがみ込んで、肩に手を載せた。
「一度に大量の魔力を使ったり、ヴァンパイアの体なのにヴィリジアンの力の器になったりしたのが原因だろう。吸血というのは、魔力を補うことも目的なのだろう?」
 すると、ウィンターもうなずいた。
「特に、ヴァンパイアの体にヴィリジアンの力を一時的にとはいえ、ため込んだというのは負担が大きかったと思う。いくらヴィリジアンの魔力が大きいとはいっても、グレンほどの術士があんなに苦痛を感じることはないはずだ」
「そう、なんだ」
 吸血して魔力が少し回復したグレンは立ち上がった。まだ体がふらついている。エストルが何も言わずに壁に立てかけてあったグレンの剣を台の上に持ってくる。
「ありがとう、エストル」
 剣を受け取ると、できたてのヴィリジアンの結晶を手に取って剣の柄の上に置いた。
「これが僕の剣だよ。気に入ってくれるかな?」
 そう言いながら、グレンは手をかざす。青白い光を当てると、ヴィリジアンの結晶から強く大きな緑色の光が八方に飛んだ。そのまばゆさに一瞬目がくらんだが、光が消えると、ヴィリジアンの結晶はグレンの剣にしっかり埋め込まれていた。
「居心地は悪くなさそうだね」
 剣の一部となったヴィリジアンの結晶を観察して、グレンは微笑む。
「これからもよろしくね、ヴィリジアン」
 ヴィリジアンがグレンの言葉に反応するようにきらりと光った。エストルがグレンの肩に手を置く。
「グレン、少し仮眠室で休ませてもらえ。まだ足下がふらついているぞ」
「うん。分かった」
 エストルはグレンの返事を聞いて、グレンの剣を手に取った。ついで、ヴィリジアンの柄に手を伸ばすと、ウィンターがその手を制した。
「ヴィリジアンはシャロンのところに持っていこう。私から話をしておく」
「では、お願いしよう」
 エストルはヴィリジアンから手を放し、ウィンターに譲った。

次回更新予定日:2017/09/02

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「グレン?」
 どうしていいか分からずとまどっていると、握ったままのグレンの手が震えだした。力が入りすぎて来る震えだ。何もできずにただ様子をうかがっていると、グレンが手を上から押さえつけてきた。
「なっ」
 エストルは何か言おうとしたが、首筋に痛みを感じて発しようとしていた言葉を忘れた。
 グレンが首筋にかぶりつき、夢中になって血をすすっている。
 突然後ろから頭を首筋にふわりと押しつけられ、グレンははっとする。だが、それがエストルの手だと分かり、安心したように全身の力を抜き、ゆっくりと血をすすり続けた。
 唇を静かに放し、傷口に手を当てようとしたが、先にエストルが自分の手を当て、傷口を塞ぐ。
「なんで? なんで……」
「なぜ吸血されたのに意識があるのか、か? なぜだろうな」
 エストルは立ち上がって、つかつかと静かな足音を立てながらゆっくりと棚の方に歩いていった。その後ろ姿をウィンターも驚いた顔で見ている。
 棚から小さな皿を二枚と針を二本出して、エストルは台に置いた。針を一本手にすると、その針で自分の左手の人差し指を軽く刺した。針を置き、ぎゅっと人差し指の先を右手の二本の指で押さえて、小皿に血を絞り出す。指を清潔な布で軽くぬぐう。
「グレン、お前の血も少しもらっていいか?」
「う、うん」
 何となくエストルのしようとしていることが分かって、グレンはあわててうなずく。グレンが指を差し出すと、エストルは同じようにもう一つの小皿にグレンの血を採った。
「ヴィリジアン、だよね?」
 そう言ってグレンは剣を握る。二つの小皿の上を一振りすると、グレンの血の方が緑色に発光し、黒ずみ、そして元の赤い色に戻った。エストルの血の方には何の反応も見られなかった。
 グレンはもう一振りしてみた。今度はどちらの血にも反応は見られなかった。
「これは」
 後ろからのぞいていたウィンターが驚きの声を上げる。
「これって、つまりエストルがヴァンパイア化していないってことだよね」
 グレンが少し熱のこもった口振りで尋ねる。
「どうやら一度ヴィリジアンで浄化されると、吸血されてもヴァンパイア化しない体質になるようだな」
 エストルは吸血されてにもかかわらず、意識を失わなかった。加えて、ヴァンパイアであるグレンの血はヴィリジアンで浄化されたのに対し、エストルの血はヴィリジアンに反応しなかった。つまり、エストルは吸血されたにもかかわらず、ヴァンパイア化しなかったということだ。

次回更新予定日:2017/08/26

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「優しい光だな」
「ああ。グレンの魔力だ」
 グレンの魔力の近くにいるだけで心地よい。温かい空気が漂い、自然に表情が和らぐ。
 グレンは穏やかな表情で少しずつ魔力を注ぎ込んでいった。ヴィリジアンになるべく負担をかけたくない。ゆっくりと魔力を吸収してもらいたい。
 しばらくすると、すうっと光が消えた。
「大丈夫か、グレン」
「うん」
 笑顔で返すが、その笑顔に力がない。予想どおり相当の魔力が必要だったらしく、疲れ切っている様子だ。
「あとはヴィリジアンが変換してくれた魔力を抽出して結晶化すればいいんだよね」
 すると、魔術に明るいウィンターが言った。
「あれだけの魔力を一度お前の体に蓄えないといけない。結構な負担がかかると思う」
「うん。分かってる」
 グレンは今度は両手をヴィリジアンの柄に載せた。すると、ヴィリジアンが淡い緑色に発光しだした。光は瞬く間にグレンの前身を包み込む。
「うあっ」
 グレンの叫び声と共に火花が散る。
「グレン!」
 一歩前に出そうになったエストルの手を捕まえて、ウィンターは後ろに下がる。
 グレンの重心が両手の方に移っていく。倒れそうになっている体を腕で支えている。それでもグレンはヴィリジアンを決して放さなかった。火花は散らなくなったが、グレンの呼吸は荒く不規則になり、時折呻き声が口から漏れる。それを見つめるエストルの顔からは血の気が引いていた。
 光が消えて、グレンが解放される。ぐらりと体が揺らいだ瞬間をエストルは素速く捕らえて受け止めた。そのまま座った姿勢になってもたれかからせると、グレンはゆっくりと右手を握った。すると、手から先ほどと同じ淡い緑色の美しい光があふれた。光はすぐに小さくなって消えた。グレンが手を開くと、てのひらに青緑色に輝く結晶が載っていた。
「成功だな」
 ウィンターが微笑むと、グレンはエストルにヴィリジアンの結晶を握らせた。
「よくやったな、グレン。少し休むといい」
 エストルは手を伸ばしてヴィリジアンの結晶を台に置いた。そして、グレンに方を貸そうと膝をついたそのときだった。グレンが急にエストルの手をすさまじい力で握ってきた。力尽きてあんな倒れ方をしたのにどこにこんな力が残っていたのだろうと思うような強い力だった。下を向いている。前髪で表情をうかがい知ることはできなかったが、歯を食い縛っているのが斜め後ろから分かった。

次回更新予定日:2017/08/19

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