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パイヤンの入口に来た。壁の門から見える町の様子はいたって普通だった。門からは大きな通りが続いていて、人はまばらではあるが、行き交っている。
「変わったところはないな」
町に足を踏み入れ、両側に軒を連ねている露店と買い物をしている人たちを見回しながらエストルは述べた。以前訪れたときもこのような様子だったと思った。しかし、後ろを歩いていたルイは小声でつぶやいた。
「私は、何だか違和感があります」
「初めて来た場所なのに?」
不思議そうにリンが聞く。すると、先ほどから緊張した面持ちのグレンが口を開いた。
「いや。そういうのじゃない」
違和感を訴えたのがグレンとルイだったということにエストルとソフィアが強く反応する。二人は魔力に敏感だ。異様な魔力が辺りにかすかに漂っているということだ。
「失礼」
野菜を売っている商人にエストルが声をかける。
「この辺りで最近変わったことはなかったか?」
「変わったこと? ないねえ」
「危ない!」
商人が笑いながら答えている後ろで空間にひずみができたのをグレンは見逃さなかった。とっさにエストルをかばったが、ひずみは瞬く間に膨れ上がり、周りの景色を飲み込んだ。足場がなくなり、体が浮いたかと思うと、すぐに強い力で吹き飛ばされた。
グレンは意識を失った。
ぼうっと赤黒い空間が目に入る。どこかで見たことがある。
グレンは見えない地面に手をつき、ゆっくりと体を起こした。辺りを見回す。体は地面にしっかりついているのに、そこに境界線が見えない。ただ赤黒く渦巻く歪んだ空間だけが広がる。モーレで〈追跡者〉と対峙したときのように。
「エストル?」
遠くの方に倒れたまま動かなくなっている後ろ姿を見つけてグレンは走り出した。この空間に放り出されたときに背中を打ったようで少し痛みを感じたが、大したことはなかった。
近くまで来て顔を確認すると、やはりエストルだった。意識はないようだったが、息はしていた。
「エストル、エストル」
声をかけると、エストルはゆっくりと目を開けた。
「グレン?」
上半身を起こしてやると、グレンは肩を貸しながら聞いた。
「立てる?」
次回更新予定日:2017/10/21
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「変わったところはないな」
町に足を踏み入れ、両側に軒を連ねている露店と買い物をしている人たちを見回しながらエストルは述べた。以前訪れたときもこのような様子だったと思った。しかし、後ろを歩いていたルイは小声でつぶやいた。
「私は、何だか違和感があります」
「初めて来た場所なのに?」
不思議そうにリンが聞く。すると、先ほどから緊張した面持ちのグレンが口を開いた。
「いや。そういうのじゃない」
違和感を訴えたのがグレンとルイだったということにエストルとソフィアが強く反応する。二人は魔力に敏感だ。異様な魔力が辺りにかすかに漂っているということだ。
「失礼」
野菜を売っている商人にエストルが声をかける。
「この辺りで最近変わったことはなかったか?」
「変わったこと? ないねえ」
「危ない!」
商人が笑いながら答えている後ろで空間にひずみができたのをグレンは見逃さなかった。とっさにエストルをかばったが、ひずみは瞬く間に膨れ上がり、周りの景色を飲み込んだ。足場がなくなり、体が浮いたかと思うと、すぐに強い力で吹き飛ばされた。
グレンは意識を失った。
ぼうっと赤黒い空間が目に入る。どこかで見たことがある。
グレンは見えない地面に手をつき、ゆっくりと体を起こした。辺りを見回す。体は地面にしっかりついているのに、そこに境界線が見えない。ただ赤黒く渦巻く歪んだ空間だけが広がる。モーレで〈追跡者〉と対峙したときのように。
「エストル?」
遠くの方に倒れたまま動かなくなっている後ろ姿を見つけてグレンは走り出した。この空間に放り出されたときに背中を打ったようで少し痛みを感じたが、大したことはなかった。
近くまで来て顔を確認すると、やはりエストルだった。意識はないようだったが、息はしていた。
「エストル、エストル」
声をかけると、エストルはゆっくりと目を開けた。
「グレン?」
上半身を起こしてやると、グレンは肩を貸しながら聞いた。
「立てる?」
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「きりがないわね」
ソフィアが苦笑する。
「まああの程度の魔物だったら、普通の冒険者やハンターが始末してくれるだろう。襲ってきた魔物にだけ対処することにしよう」
言いながら、エストルは剣を鞘に収めた。
「エストル様、心なしか剣を振るっている顔が生き生きとしているように見えますよ」
グレンが笑いかけると、エストルは苦笑いを浮かべた。
「かしこまった言葉遣いで皮肉を言われるのは気持ち悪いものだな」
横でくっとウィンターが笑う。
パイヤンに近づけば近づくほど魔物の数が増えていくと冒険者たちは言っていた。だから、最近はパイヤンには用がないかぎり近づかないようにしているとも。もともとパイヤンの神殿は巨大だが、ゲートを守ることのみを目的としているため、王家の関係者や神官以外の者が、例えば巡礼のために訪れるといったことはない。町に住む者はほとんど神殿の関係者で、その者たちが生活するための施設があるだけである。行き来する者といえば、商人と神殿に届け物をする飛脚くらいだ。
魔物を倒しながら森を抜けると、前方にパイヤンの外壁が見えた。遠目から見たところ、特に替わった様子はない。
パイヤンの方角から旅人が二人歩いてきた。一人はろばに荷車を引かせている。もう一人は槍と盾を持っている。
「失礼。パイヤンから来たのか?」
エストルが尋ねると、ろばの手綱を握っている方が答えた。
「そうです。農作物を納めに行った帰りです」
「そちらは護衛の者か?」
「ええ。パイヤンの周りは魔物が多いので」
「そうか。パイヤンでは何か変わったことはなかったか?」
「特にありませんよ。いつもどおりです」
「よく来るのか?」
「月一回くらいです」
「そうか。ありがとう。気をつけて」
エストルは聞きたいことを一通り聞くと、二人を見送った。
「分からないな」
ゲートの封印が解かれてテルウィングから魔獣が送られてくる。何の異常もないはずがない。
「とにかく行ってみましょうよ」
グレンはまだぼんやりとしているパイヤンの町を見つめながら言った。
次回更新予定日:2017/10/14
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ソフィアが苦笑する。
「まああの程度の魔物だったら、普通の冒険者やハンターが始末してくれるだろう。襲ってきた魔物にだけ対処することにしよう」
言いながら、エストルは剣を鞘に収めた。
「エストル様、心なしか剣を振るっている顔が生き生きとしているように見えますよ」
グレンが笑いかけると、エストルは苦笑いを浮かべた。
「かしこまった言葉遣いで皮肉を言われるのは気持ち悪いものだな」
横でくっとウィンターが笑う。
パイヤンに近づけば近づくほど魔物の数が増えていくと冒険者たちは言っていた。だから、最近はパイヤンには用がないかぎり近づかないようにしているとも。もともとパイヤンの神殿は巨大だが、ゲートを守ることのみを目的としているため、王家の関係者や神官以外の者が、例えば巡礼のために訪れるといったことはない。町に住む者はほとんど神殿の関係者で、その者たちが生活するための施設があるだけである。行き来する者といえば、商人と神殿に届け物をする飛脚くらいだ。
魔物を倒しながら森を抜けると、前方にパイヤンの外壁が見えた。遠目から見たところ、特に替わった様子はない。
パイヤンの方角から旅人が二人歩いてきた。一人はろばに荷車を引かせている。もう一人は槍と盾を持っている。
「失礼。パイヤンから来たのか?」
エストルが尋ねると、ろばの手綱を握っている方が答えた。
「そうです。農作物を納めに行った帰りです」
「そちらは護衛の者か?」
「ええ。パイヤンの周りは魔物が多いので」
「そうか。パイヤンでは何か変わったことはなかったか?」
「特にありませんよ。いつもどおりです」
「よく来るのか?」
「月一回くらいです」
「そうか。ありがとう。気をつけて」
エストルは聞きたいことを一通り聞くと、二人を見送った。
「分からないな」
ゲートの封印が解かれてテルウィングから魔獣が送られてくる。何の異常もないはずがない。
「とにかく行ってみましょうよ」
グレンはまだぼんやりとしているパイヤンの町を見つめながら言った。
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ロソー城の客室を一室割り当てられ、その場所がクレサックの執務室となった。
グレンたちがパイヤンに向かった日の午後だった。
「シャロンです」
ドアの向こうから声がした。
「入っていいぞ」
すると、シャロンがドアを開けて、
「失礼します」
と言いながら、入ってきた。
「お仕事かしら?」
シャロンが聞くと、クレサックはうなずいた。
「ヴァンパイアの目撃情報が何件かあって、昨日エストル様に説明を受けながら目を通した。まずはここから行ってみてくれないか」
「アーロンね。あまり遠くないからすぐに終わりそう」
「ああ。近いところからどんどん浄化していこう」
「では、行ってきます」
「頼む」
いつもの笑顔を残してシャロンが部屋を出ていった。
クレサックは穏やかな表情で見送った。
ヴィリジアンの瞳を持つシャロンがこのように明るい姪で良かったと思う。ヴァンパイアに関わると、気が滅入ることが多い。しかし、シャロンはそのような状況でも必ず前を向いている。
一人でヴァンパイアの浄化に行かせ始めた頃は、必要なことは全て教えたつもりでも、やはり心配だった。だが、心配をしていると、逆に、
「行ってきます」
と行って出ていくシャロンの笑顔に励まされている自分がいたりする。
みんな、がんばっている。
椅子にもたれると、ドアをノックする音が聞こえた。
部隊長か、事務官か。
私もがんばらなくてはな。
つぶやきながら、クレサックはドアの向こうに立っている部下の名前を聞いた。
ばさっと光の球を喰らった鳥たちが地に落ちて消える。
「確かに魔物の数が増えてきてますね」
リンが言うと、エストルがうなずいた。
「この森を抜けたらもうパイヤンが見えるはずだ」
すると、頭上遥か高くまた黒っぽい鳥の群が通過した。
次回更新予定日:2017/10/07
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グレンたちがパイヤンに向かった日の午後だった。
「シャロンです」
ドアの向こうから声がした。
「入っていいぞ」
すると、シャロンがドアを開けて、
「失礼します」
と言いながら、入ってきた。
「お仕事かしら?」
シャロンが聞くと、クレサックはうなずいた。
「ヴァンパイアの目撃情報が何件かあって、昨日エストル様に説明を受けながら目を通した。まずはここから行ってみてくれないか」
「アーロンね。あまり遠くないからすぐに終わりそう」
「ああ。近いところからどんどん浄化していこう」
「では、行ってきます」
「頼む」
いつもの笑顔を残してシャロンが部屋を出ていった。
クレサックは穏やかな表情で見送った。
ヴィリジアンの瞳を持つシャロンがこのように明るい姪で良かったと思う。ヴァンパイアに関わると、気が滅入ることが多い。しかし、シャロンはそのような状況でも必ず前を向いている。
一人でヴァンパイアの浄化に行かせ始めた頃は、必要なことは全て教えたつもりでも、やはり心配だった。だが、心配をしていると、逆に、
「行ってきます」
と行って出ていくシャロンの笑顔に励まされている自分がいたりする。
みんな、がんばっている。
椅子にもたれると、ドアをノックする音が聞こえた。
部隊長か、事務官か。
私もがんばらなくてはな。
つぶやきながら、クレサックはドアの向こうに立っている部下の名前を聞いた。
ばさっと光の球を喰らった鳥たちが地に落ちて消える。
「確かに魔物の数が増えてきてますね」
リンが言うと、エストルがうなずいた。
「この森を抜けたらもうパイヤンが見えるはずだ」
すると、頭上遥か高くまた黒っぽい鳥の群が通過した。
次回更新予定日:2017/10/07
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エストルはいつもどおり背筋をぴんと伸ばして話を始めた。もともと長身だが、他の誰よりも背が高く見える。
「まずパイヤンの状況だが、不確定な情報として冒険者たちからの証言がある。パイヤンに近づくに連れて魔物の数が増えていくような気がするという情報と、パイヤンの方角から魔物がやってくるのを目撃したという複数の情報だ。それを受けて、ソードが調査に派遣されたが、パイヤンには異常がなかったとの報告だった。ただし、周知のとおり、ソードはテルウィング側の人間だ。報告は信用できない。そこで、一度、我々自身の目でパイヤンの状況を確認したいと思う」
一同納得してうなずく。
「そのために調査隊をパイヤンに派遣したいと思う。ただし、先日話したようにテルウィング側がパイヤンに拠点を移して活動を継続している可能性が高い。その場合、調査だけでは済まない。敵陣営に突入する形になる」
テルウィングはおそらくゲートを抱えるパイヤンを新しい拠点として今までどおり、ヴァンパイア討伐を実行し、ムーンホルンを支配しようとしている。そのためにセレストとともに姿を消した。グレンにはもうすでに調査に行くという認識はなかった。パイヤンには突撃する気でいる。
「それを踏まえた上で言う。ソフィア、グレン、ウィンター、リン、ルイ。この五名にパイヤンの調査をお願いしたい。そして」
エストルの目がいつも以上に真剣になった。
「私も調査に同行させてもらいたい」
エストルは辺りを見回し、反応を見たが、誰も意見する者はいなかった。しばし沈黙が続いた後、ソフィアが左右の様子をうかがって口を開く。
「陛下が城に不在となった今、宰相であるエストル様も城を空けてしまうというのはどうなのでしょうか?」
異を唱えるつもりはなかった。最初から答えは分かりきっている。だが、一度全員で確認を取っておいた方が良いと思い、ソフィアがあえて問う。エストルは答えた。
「陛下がおられないからこそ、私がこの目でパイヤンの状況を見て迅速に判断を下していきたいと思う」
「城のことは私にお任せください」
エストルの言葉を聞いてクレサックが申し出た。
「ありがたい。お前になら安心して任せられる。異論はないか?」
すると、ウィンターが皮肉っぽく言った。
「ないな。宰相殿ほどの腕があれば、充分な戦力になる」
こちらもすっかり突っ込む気満々である。グレンは苦笑した。
「では、クレッチとデュランには私たちとクレサックとの間の伝令をやってもらおう」
「今までどおりですね」
こちらも皮肉っぽくデュランが言う。
「シャロンにはヴァンパイアの浄化にあたってもらいたい。少しでもヴァンパイアの数を減らしていこう」
「はい」
いつもの明るいはきはきした声でシャロンが返事する。
「クレサックや城の者たちに私の仕事の引き継ぎをしたいので、丸一日もらいたい。出発は明後日にしようと思う。クレッチとデュランはこれまでどおり途中でヴァンパイア化した町などの情報を積極的に集めてクレサックに伝えて欲しい。シャロンはクレサックと相談して動いてもらおう。以上だ。質問は?」
特に口を開く者はいなかった。
「では、解散だ。各自よく備えておくように。クレサック、私と一緒に来てくれないか?」
先にきびきびとした動作で書類をまとめ、部屋を出る。出発前にしておかなければならないことがエストルには山ほどある。少しでも時間が欲しい。クレサックも後ろからついていく。
残りの者はしばらく話をしていたが、何となくきりがついたところで、ばらばらと席を立ち始めた。
「グレン、体調悪くなかったら少し手合わせの相手してよ」
ソフィアに声をかけられてグレンはうなずく。
「私もご一緒させてもらっていいかな?」
ウィンターが加わると、シャロンもついてくる。
結局、四人で訓練場に向かった。
次回更新予定日:2017/09/30
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「まずパイヤンの状況だが、不確定な情報として冒険者たちからの証言がある。パイヤンに近づくに連れて魔物の数が増えていくような気がするという情報と、パイヤンの方角から魔物がやってくるのを目撃したという複数の情報だ。それを受けて、ソードが調査に派遣されたが、パイヤンには異常がなかったとの報告だった。ただし、周知のとおり、ソードはテルウィング側の人間だ。報告は信用できない。そこで、一度、我々自身の目でパイヤンの状況を確認したいと思う」
一同納得してうなずく。
「そのために調査隊をパイヤンに派遣したいと思う。ただし、先日話したようにテルウィング側がパイヤンに拠点を移して活動を継続している可能性が高い。その場合、調査だけでは済まない。敵陣営に突入する形になる」
テルウィングはおそらくゲートを抱えるパイヤンを新しい拠点として今までどおり、ヴァンパイア討伐を実行し、ムーンホルンを支配しようとしている。そのためにセレストとともに姿を消した。グレンにはもうすでに調査に行くという認識はなかった。パイヤンには突撃する気でいる。
「それを踏まえた上で言う。ソフィア、グレン、ウィンター、リン、ルイ。この五名にパイヤンの調査をお願いしたい。そして」
エストルの目がいつも以上に真剣になった。
「私も調査に同行させてもらいたい」
エストルは辺りを見回し、反応を見たが、誰も意見する者はいなかった。しばし沈黙が続いた後、ソフィアが左右の様子をうかがって口を開く。
「陛下が城に不在となった今、宰相であるエストル様も城を空けてしまうというのはどうなのでしょうか?」
異を唱えるつもりはなかった。最初から答えは分かりきっている。だが、一度全員で確認を取っておいた方が良いと思い、ソフィアがあえて問う。エストルは答えた。
「陛下がおられないからこそ、私がこの目でパイヤンの状況を見て迅速に判断を下していきたいと思う」
「城のことは私にお任せください」
エストルの言葉を聞いてクレサックが申し出た。
「ありがたい。お前になら安心して任せられる。異論はないか?」
すると、ウィンターが皮肉っぽく言った。
「ないな。宰相殿ほどの腕があれば、充分な戦力になる」
こちらもすっかり突っ込む気満々である。グレンは苦笑した。
「では、クレッチとデュランには私たちとクレサックとの間の伝令をやってもらおう」
「今までどおりですね」
こちらも皮肉っぽくデュランが言う。
「シャロンにはヴァンパイアの浄化にあたってもらいたい。少しでもヴァンパイアの数を減らしていこう」
「はい」
いつもの明るいはきはきした声でシャロンが返事する。
「クレサックや城の者たちに私の仕事の引き継ぎをしたいので、丸一日もらいたい。出発は明後日にしようと思う。クレッチとデュランはこれまでどおり途中でヴァンパイア化した町などの情報を積極的に集めてクレサックに伝えて欲しい。シャロンはクレサックと相談して動いてもらおう。以上だ。質問は?」
特に口を開く者はいなかった。
「では、解散だ。各自よく備えておくように。クレサック、私と一緒に来てくれないか?」
先にきびきびとした動作で書類をまとめ、部屋を出る。出発前にしておかなければならないことがエストルには山ほどある。少しでも時間が欲しい。クレサックも後ろからついていく。
残りの者はしばらく話をしていたが、何となくきりがついたところで、ばらばらと席を立ち始めた。
「グレン、体調悪くなかったら少し手合わせの相手してよ」
ソフィアに声をかけられてグレンはうなずく。
「私もご一緒させてもらっていいかな?」
ウィンターが加わると、シャロンもついてくる。
結局、四人で訓練場に向かった。
次回更新予定日:2017/09/30
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「もういいのか?」
エストルが聞くと、グレンは笑顔で答えた。
「うん。ヴィリジアンがちゃんと力を発揮できることが分かったし。どっちが相手しようか?」
すると、エストルが少し意地の悪い笑いを浮かべる。
「ウィンターは少し休ませてやろう。グレン、ちょっとだけ相手してくれ」
「すまないな。少し休んだらすぐ替わる」
素直に腰を下ろして、ウィンターは剣を置く。
「魔法も使っていいぞ」
剣を構えるとエストルは不敵な笑みを浮かべた。
「今日はエストルもやる気だね。じゃあ、怪我をしない程度にね」
グレンも剣を構えてエストルの攻撃を待った。
指定された時間に近づいたので、グレンは会議室に向かった。
「おはよう」
すぐ後ろからソフィアが入ってきて参加者が全員揃った。グレン、ソフィア、エストル、ウィンター、クレサック、シャロン、クレッチ、デュラン、リン、ルイの十人である。
「おはよう。席に着いてくれ」
エストルが声をかけると、立っていた者も空いていた席に座った。エストルは今日も早朝から手合わせをしたので、表情がいつもよりも生き生きとしている。ウィンターは若干だが、まだ疲れが見える。
「連日の会議になって申し訳ない。まず、本題に入る前に、二つほど朗報を伝えたい」
朗報と聞いて皆が一斉に顔を上げた。
「一つは、ヴィリジアンが二つに増えたということだ。グレンにヴィリジアンの魔力を抽出して結晶化してもらった。結晶はグレンの剣に埋め込んだ。これで我々が使えるヴィリジアンの剣が二本になり、グレンとシャロンがそれぞれ一本ずつ手にすることになる」
参加者たちの表情がぱっと明るくなった。それを見てエストルも少し口元がほころんだが、ほんの一息余韻を楽しむ間を入れただけで、次を続ける。
「もう一つは、一度ヴィリジアンの力で浄化された人は吸血されても再度ヴァンパイア化しない可能性が高いということだ」
エストルは先ほどグレンに吸血されたときのことを参加者たちに話した。
「いずれの情報もヴァンパイアの殲滅には有利な情報ですね」
クレサックが嬉しそうに言う。
「そうだな」
さらりと笑顔で返し、エストルは本題に入る。
「先日も話していたパイヤン調査派遣について相談したい」
次回更新予定日:2017/09/23
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エストルが聞くと、グレンは笑顔で答えた。
「うん。ヴィリジアンがちゃんと力を発揮できることが分かったし。どっちが相手しようか?」
すると、エストルが少し意地の悪い笑いを浮かべる。
「ウィンターは少し休ませてやろう。グレン、ちょっとだけ相手してくれ」
「すまないな。少し休んだらすぐ替わる」
素直に腰を下ろして、ウィンターは剣を置く。
「魔法も使っていいぞ」
剣を構えるとエストルは不敵な笑みを浮かべた。
「今日はエストルもやる気だね。じゃあ、怪我をしない程度にね」
グレンも剣を構えてエストルの攻撃を待った。
指定された時間に近づいたので、グレンは会議室に向かった。
「おはよう」
すぐ後ろからソフィアが入ってきて参加者が全員揃った。グレン、ソフィア、エストル、ウィンター、クレサック、シャロン、クレッチ、デュラン、リン、ルイの十人である。
「おはよう。席に着いてくれ」
エストルが声をかけると、立っていた者も空いていた席に座った。エストルは今日も早朝から手合わせをしたので、表情がいつもよりも生き生きとしている。ウィンターは若干だが、まだ疲れが見える。
「連日の会議になって申し訳ない。まず、本題に入る前に、二つほど朗報を伝えたい」
朗報と聞いて皆が一斉に顔を上げた。
「一つは、ヴィリジアンが二つに増えたということだ。グレンにヴィリジアンの魔力を抽出して結晶化してもらった。結晶はグレンの剣に埋め込んだ。これで我々が使えるヴィリジアンの剣が二本になり、グレンとシャロンがそれぞれ一本ずつ手にすることになる」
参加者たちの表情がぱっと明るくなった。それを見てエストルも少し口元がほころんだが、ほんの一息余韻を楽しむ間を入れただけで、次を続ける。
「もう一つは、一度ヴィリジアンの力で浄化された人は吸血されても再度ヴァンパイア化しない可能性が高いということだ」
エストルは先ほどグレンに吸血されたときのことを参加者たちに話した。
「いずれの情報もヴァンパイアの殲滅には有利な情報ですね」
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千月志保
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