魔珠 第15章 神殿(3) 合流 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「大丈夫か? ついてこい」
 誰だか分からなかったが、男は助けに来てくれたのだと思った。
「待ってください」
 ウィンターは急いで自分の部屋に戻って使い慣れた剣を取って戻ってきた。
「行きましょう」
 戦うつもりだった。まだ未熟なのは分かっていたが、できるだけのことはしたかった。先ほどだってヴァンパイアたちを蹴散らしながらここまでたどり着いたのだ。
「よし。俺の側を離れるなよ」
 男は襲いかかってくるヴァンパイアを鮮やかな剣の一振りで倒した。男が剣を振った先には光が走り、ヴァンパイアたちは瞬く間に消滅していった。
 ウィンターと弟はその剣士に連れられて村を出た。
 弟はショックでしばらく言葉が出なくなった。だが、言葉が出るようになってからも妹のことでウィンターを責めることはなかった。ヴァンパイアになった母に攻撃したとき、弟は妹を助けようと無我夢中だったのだろうとウィンターは思う。だから、妹が母に殺され、その母を兄が殺したとき、弟は初めて現実で何が起きているのか自分の目で理解したのだと思う。それがどれほどの衝撃を弟に与えたのか、想像もしたくなかった。ただ言葉には出さなかったが、妹を救ってくれなかったウィンターに対して憎しみを抱いていたことは痛いくらいに分かった。

 ウィンターは嫌な思い出を胸に今は空き家となった家を出た。いい加減見飽きた景色をざっと見回しながら神殿に向かう。
「ウィンター」
 ちょうど向こうの方からグレンとエストルがやってくる。グレンもすっかり元気そうだ。
「そろったみたいね」
 グレンの声で後ろから来たウィンターにも気づき、先に着いて待っていたソフィアが少し安心したような笑顔を見せた。
「そちらの方は誰かいたか?」
 エストルがソフィアに聞いた。ソフィアは悲しげな顔になって首を横に振る。
「いえ。一人も」
「そちらはどうだ、ウィンター」
「ああ。誰もいなかった」
「じゃあ、やっぱり……」
 グレンの顔が曇る。
「あとは神殿だな」
 エストルは目の前にそびえる巨大な神殿を見上げた。
「策を立ててから入りたいところだが、中の状況が分からないことには」
 エストルは苦笑した。

次回更新予定日:2018/01/13

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