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「ウィン……ター?」
少し顔の角度を変えると、そこには巨大なクラーケンが氷づけにされていた。六本の触手の先半分だけが氷に閉ざされておらず、途中でもがれていて、傷口から血が滴っていた。
「グレン、魔力を分けてくれ」
ウィンターは麻痺したグレンの右手を握った。グレンは集中したが、やはりうまく魔力が伝わらない。ウィンターが状態を察し、握っている手に力を込める。光が大きく輝き、ウィンターの剣を包む。おたけびを上げたウィンターの剣が宙を斬ると、凄まじい轟音とともに空間に亀裂が入り、氷が中に閉じ込めたクラーケンもろとも真っ二つに切り裂かれる。放出されたエネルギーの衝撃で吹き飛ばされ、ウィンターは壁に激突して地面に放り出されたが、うまく滑り込んで大怪我に至ることはなかった。
「しっかりしろ、グレン」
体のあちらこちらに痛みはあるが、すぐに這ってグレンの方に向かった。グレンは毒にやられている。一刻も早く手当てしなければ。
「ウィンター……ありがとう……」
ウィンターは魔法で解毒の処置を行った。だが、グレンは一度淡い笑みを口元に浮かべ、すぐに目を閉じた。毒がもう相当体に回ってしまっているらしい。ウィンターの魔法だけでは毒を完全には取り除けないようだ。
ウィンターは舌打ちをして、グレンの体を担いだ。そして、無我夢中で鉱山の出口を目指した。
「ウィンター?」
焦点が定まっていちばん最初に目に入ったのは心配そうに自分を見つめているウィンターの顔だった。がさっと起き上がろうとしたが、体全体がだるく、特に右腕が重い。
「まだ駄目だ」
慌ててウィンターがグレンの体を押し戻す。グレンはばたんとベッドに倒れた。
「ここは?」
見知らぬ部屋だった。壁も床も天井も木の部屋だった。
「ここは、私がアジトにさせてもらっている家だ」
「アジト?」
そんなものがあったのかと少し意外に思ったが、隣の部屋から声がしてさらに驚く。
「意識が戻ったのか?」
聞き覚えのある声だった。
まさか。そんな。
だが、ドアが開くと、それを認めないわけにはいかなかった。
「クレサック将軍!」
クレサック。グレンの前任の王騎士だ。百戦錬磨の頼もしい王騎士だったが、年齢と体力の衰えを理由に王騎士を辞した。辞めるとき後任として若いグレンを推したのもクレサックだった。短い期間だったが、戸惑うグレンを励まし、王騎士としての基本を叩き込んでもらった師匠でもある。もう最後にグレンが会ったときと比べると、さすがに歳を重ねた感じはあるが、目の輝きはまだ鋭く、剣で鍛えた体はあのときから衰えているようには見えなかった。
次回更新予定日:2015/12/12
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「グレン、魔力を分けてくれ」
ウィンターは麻痺したグレンの右手を握った。グレンは集中したが、やはりうまく魔力が伝わらない。ウィンターが状態を察し、握っている手に力を込める。光が大きく輝き、ウィンターの剣を包む。おたけびを上げたウィンターの剣が宙を斬ると、凄まじい轟音とともに空間に亀裂が入り、氷が中に閉じ込めたクラーケンもろとも真っ二つに切り裂かれる。放出されたエネルギーの衝撃で吹き飛ばされ、ウィンターは壁に激突して地面に放り出されたが、うまく滑り込んで大怪我に至ることはなかった。
「しっかりしろ、グレン」
体のあちらこちらに痛みはあるが、すぐに這ってグレンの方に向かった。グレンは毒にやられている。一刻も早く手当てしなければ。
「ウィンター……ありがとう……」
ウィンターは魔法で解毒の処置を行った。だが、グレンは一度淡い笑みを口元に浮かべ、すぐに目を閉じた。毒がもう相当体に回ってしまっているらしい。ウィンターの魔法だけでは毒を完全には取り除けないようだ。
ウィンターは舌打ちをして、グレンの体を担いだ。そして、無我夢中で鉱山の出口を目指した。
「ウィンター?」
焦点が定まっていちばん最初に目に入ったのは心配そうに自分を見つめているウィンターの顔だった。がさっと起き上がろうとしたが、体全体がだるく、特に右腕が重い。
「まだ駄目だ」
慌ててウィンターがグレンの体を押し戻す。グレンはばたんとベッドに倒れた。
「ここは?」
見知らぬ部屋だった。壁も床も天井も木の部屋だった。
「ここは、私がアジトにさせてもらっている家だ」
「アジト?」
そんなものがあったのかと少し意外に思ったが、隣の部屋から声がしてさらに驚く。
「意識が戻ったのか?」
聞き覚えのある声だった。
まさか。そんな。
だが、ドアが開くと、それを認めないわけにはいかなかった。
「クレサック将軍!」
クレサック。グレンの前任の王騎士だ。百戦錬磨の頼もしい王騎士だったが、年齢と体力の衰えを理由に王騎士を辞した。辞めるとき後任として若いグレンを推したのもクレサックだった。短い期間だったが、戸惑うグレンを励まし、王騎士としての基本を叩き込んでもらった師匠でもある。もう最後にグレンが会ったときと比べると、さすがに歳を重ねた感じはあるが、目の輝きはまだ鋭く、剣で鍛えた体はあのときから衰えているようには見えなかった。
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