魔珠 第4章 アウル(6) 誘導 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「偽の情報を流す狙いは何?」
「例えば、偽の情報のあった村にお前たちが討伐に行っているその隙に他の村をヴァンパイア化できる」
 思いがけない答えにグレンは動揺する。
「村がヴァンパイア化するのはヴァンパイアになった村人が他の村人を吸血した結果じゃないの? 上級ヴァンパイアはただ人間の血が必要だから吸血するだけで、村をヴァンパイア化しようと思ってしているわけでは」
「ないと言い切れるか?」
 誘導しようと思っていたグレンが押し黙る。エストルはすでに真実に近づいている。
「上級ヴァンパイアは全ての人間をヴァンパイア化し、この世界を支配しようと考えているのではないか。そんな気がしてならないんだ」
「そのこと、誰かに話した?」
 グレンががたっと身を乗り出して聞く。すると、エストルはかすかに苦笑した。
「まさか。お前にしか話せないよ。こんなこと」
「そう、だよね」
 ほっとグレンは胸を撫で下ろす。
「ヴァンパイアの出現情報も増えてきている。お前の言うように間違った情報が増えてきたという可能性は充分ある。ただ」
 エストルの鋭く刺すようなまなざしが急に穏やかになる。
「いろんな可能性を考えて行動して欲しいんだ。お前には」
「心配してくれてるの?」
「それもある。だが、それよりも……頼りにしているんだ」
「……ありがとう」
 グレンはくすっと笑った。嬉しかった。ずっと尊敬しているエストルに頼りにされるなんて。

「なるほど」
 グレンは謁見の間でただ一人報告を行った。ここしばらく三人揃っての報告が続いていたが、この日は久しぶりに一人での報告となった。あとの二人はまだ戻っていないということだ。国王セレストはグレンの報告を興味深そうに聞いていた。
「エストル、これで三度目だ。どう思う?」
「ヴァンパイアに関する情報の件数が増えて混乱が生じているのではないかと。情報収集や分析の方法を再検討するように情報部に指示いたしました」
「そうだな。グレン、お前はどう思う?」
「私も同じ考えです。ヴァンパイアの噂は至る所で聞かれるようになりました。真偽を見極めるのは難しくなってきているのではないかと」
 グレンはエストルに同意した。セレストは少し考え込むようにして口を開いた。
「分かった。しばらくそれで様子を見よう。グレン、次の任務だが」
 グレンはどきっとした。もうこれは発作のようになっている。
「インディゴ鉱山の奥で失踪事件が起こっている。魔獣に襲われた可能性があるので、調査して欲しいとのことだ。魔獣であれば、討伐してきて欲しい」
 魔獣討伐と聞いて少し落ち着く。グレンの表情を見てエストルは眉をわずかに動かした。
「詳細はエストルに聞くといい」
 グレンは一礼して退室した。

次回更新予定日:2015/11/14

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