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不意を衝かれる形で剣先がスイの右胸に食い込んだ。スイは顔をしかめ、小さな呻き声を上げた。剣先がゆっくりとそのまま左に移動して胸に一筋赤い直線を描いていく。スイは声を上げるとその声で痛みが増しそうな気がして、歯を食い縛って息を殺すようにしていたが、苦しくなって息を大きく吐き出した。その瞬間、我慢していた痛みが来て息を詰まらせる。傷口から血がじわりと滲んだ。
「いい顔だ。美しかった顔がこんなにも歪んで」
ヌビスが手をかざすと、赤く染まっていた傷口が短剣と同じように青白く光った。短剣で切り裂かれたときよりも重い痛みがのしかかる。これが呪術か。だが、思ったほどの痛みではなく、歯を食い縛って耐えた。
「あまり効いていないようだな」
もっと苦しくなるはずなのだが。ヌビスはスイを観察したが、魔力を軽減するような魔法を使ったりしている様子はない。
「もともと耐性が備わっているのか?」
セイラムもそう言っていた。そして、魔力耐性をさらに伸ばすために、小さい頃から訓練されてきた。
「面白い。実に面白い」
満足げに笑って魔力を強める。傷痕から発せられた光がより鮮明になる。
痛いだけではなかった。何か全てを奪われてしまうような、そんな感覚に襲われた。苦しかった。心も体も蝕まれているような気がした。スイは耐えきれず、大きな声を上げた。
「久しぶりにこんなに魔力を解放した。いいものだな、全力で行くというのは。実にすがすがしい気分だ」
そのまま胸を締めつけるような痛みと心を蝕まれるような恐怖が続いた。呪術の効果は弱まる気配はなかった。
何時間経っただろう。消耗して意識が朦朧とするが、しばらくすると意識が回復してまた苦痛を感じるようになる。また消耗して意識が朦朧として、だが回復して、その繰り返しだった。
ドアの音がしたのをスイはぼんやりと感じた。
「そろそろ夜が明けます」
「そうか。残念だが、今日はここまでとしよう」
顎をつかまれ、無理やり顔をヌビスの方に向けさせられる。スイはうっすらと目を開けた。
「今夜また来い」
首を横にも縦にも振ることができなかったが、ヌビスは最初から答えを聞くつもりはなかったようで、すぐにスイを解放し、自室に戻ってしまった。
「お部屋に戻りますよ」
やはりエルリックだった。ぐったりとなったスイに魔術師が治癒を施す。もう光を失い、痛々しい傷になっていた場所を魔術師はきれいに塞いだ。痛みは消えなかった。短剣で斬られた物理的な痛みだけではないようだった。呪術の力がまだ残っているようだ。
「立てますか?」
疲労で力が入りにくかったが、上体を起こしてもらって何秒か放置してもらうと、感覚が戻ってきて肩をちょっと貸してもらうだけで歩けた。
「まだ少し時間があります。時間になったら起こしに来るので、休んでください」
「ありがとう……ございます」
ようやく自分のベッドに寝かしてもらったスイは、安心したように目を閉じた。そして、それまでの分を取り返すかのように一気に眠りに落ちた。
次回更新予定日:2019/05/18
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「いい顔だ。美しかった顔がこんなにも歪んで」
ヌビスが手をかざすと、赤く染まっていた傷口が短剣と同じように青白く光った。短剣で切り裂かれたときよりも重い痛みがのしかかる。これが呪術か。だが、思ったほどの痛みではなく、歯を食い縛って耐えた。
「あまり効いていないようだな」
もっと苦しくなるはずなのだが。ヌビスはスイを観察したが、魔力を軽減するような魔法を使ったりしている様子はない。
「もともと耐性が備わっているのか?」
セイラムもそう言っていた。そして、魔力耐性をさらに伸ばすために、小さい頃から訓練されてきた。
「面白い。実に面白い」
満足げに笑って魔力を強める。傷痕から発せられた光がより鮮明になる。
痛いだけではなかった。何か全てを奪われてしまうような、そんな感覚に襲われた。苦しかった。心も体も蝕まれているような気がした。スイは耐えきれず、大きな声を上げた。
「久しぶりにこんなに魔力を解放した。いいものだな、全力で行くというのは。実にすがすがしい気分だ」
そのまま胸を締めつけるような痛みと心を蝕まれるような恐怖が続いた。呪術の効果は弱まる気配はなかった。
何時間経っただろう。消耗して意識が朦朧とするが、しばらくすると意識が回復してまた苦痛を感じるようになる。また消耗して意識が朦朧として、だが回復して、その繰り返しだった。
ドアの音がしたのをスイはぼんやりと感じた。
「そろそろ夜が明けます」
「そうか。残念だが、今日はここまでとしよう」
顎をつかまれ、無理やり顔をヌビスの方に向けさせられる。スイはうっすらと目を開けた。
「今夜また来い」
首を横にも縦にも振ることができなかったが、ヌビスは最初から答えを聞くつもりはなかったようで、すぐにスイを解放し、自室に戻ってしまった。
「お部屋に戻りますよ」
やはりエルリックだった。ぐったりとなったスイに魔術師が治癒を施す。もう光を失い、痛々しい傷になっていた場所を魔術師はきれいに塞いだ。痛みは消えなかった。短剣で斬られた物理的な痛みだけではないようだった。呪術の力がまだ残っているようだ。
「立てますか?」
疲労で力が入りにくかったが、上体を起こしてもらって何秒か放置してもらうと、感覚が戻ってきて肩をちょっと貸してもらうだけで歩けた。
「まだ少し時間があります。時間になったら起こしに来るので、休んでください」
「ありがとう……ございます」
ようやく自分のベッドに寝かしてもらったスイは、安心したように目を閉じた。そして、それまでの分を取り返すかのように一気に眠りに落ちた。
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