魔珠 第5章 魔術兵器(5) 脱出1 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「三日目からも毎日魔力を注がれて。呪術が深く刻み込まれて苦痛が大きくなっていった」
 スイの話をメノウは青ざめた顔をして聞いていた。
「エルリック先生が優しく接してくださらなかったら、もうその時点で駄目になっていたかもしれない」
 スイはうつむいた。
「先生でなければ、何も言わずに私をマーラル王の実験室に連れて行っただろうし」
 口元をほころばせ、スイは顔を上げた。
「エルリック先生だけが心の救いだったんだ」
「そっか」
 メノウも少しほっとしてずっと強ばっていた表情が緩んだ。
「マーラルから帰ってきても何度も呪術に苦しめられた。ただ、帰ってきた翌日からキリトがいい薬を調合してくれたんだ。それが効いて早い段階で生活に支障が出ないようになった。それに」
 スイは真っ直ぐメノウを見つめた。
「何よりも父のように魔珠担当官になってお前と仕事したいって思っていた。だから、耐えられた」
「僕もリザレスの魔珠担当官はスイが良かったから、すごく嬉しいよ」
 メノウの言葉を聞いてスイは満足したように笑った。今までがんばってきて良かった。今の言葉が何よりのご褒美だ。
「キリトにも感謝しないとね。それでも」
 メノウの表情が曇る。
「呪術を完全に無効化することはできないんだね」
「そうだな」
 積み上げられた箱に寄りかかったまま、スイは聞き耳を立てた。ドアまで距離があるため、よく分からないが、そんなに近くにはいないようだ。
「でも、マーラル王の思惑に反してこうしてマーラルにお前を助けに来ることはできた。問題は助けることができるかどうかなんだが」
 急にあっさりとしたしゃべり方になる。
「まずはこの手足を何とかしないといけないな」
 箱によりかかっていた上半身をスイは初めて起こす。
「メノウ、私と背中合わせになれるか?」
「うん」
 二人とも縛られたままの足を床に擦りつけてスイの指示どおり背中合わせになった。背中合わせになる前の瞬間、スイはメノウの手首の縄の結び目を素速く確認する。
「しばらくそのままにしていてくれ」
 記憶と手の感触で結び目を探し当て、解き始める。かなり固く頑丈に結んである上に、きつめに手首を縛られていたため、少し手先の感覚が麻痺していて力が入りにくい。解くことには成功したものの、思った以上に手こずってスイは苦笑いした。

次回更新予定日:2019/06/22

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