魔珠 第4章 マーラル魔術研究所(11) 王の実験室2 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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意外とこじんまりとした薄暗い部屋だった。燭台が所々にあり、ろうそくが点っている。部屋の隅に簡素だが、広くて寝心地の良さそうなベッドが一つあった。部屋の中央には円があり、古代文字や幾何学模様のようなものが彫られている。おそらく魔力を注ぎ込めば魔法陣として機能するのだろう。
「もうすぐお見えです。こちらに腰かけてお待ちください」
 スイは言われたとおり、戸惑いながらもベッドの端に腰かけた。他に腰かける場所もないからだろうが、違和感がある。真っ白なシーツに腰かけて背筋を伸ばしたまま、スイはヌビスが来るのを待った。ローブの男は少し離れて壁際に立っていた。
 しばらくすると、スイが入ってきたところとは違う扉が開いた。廊下には面していないはずなので、隣の部屋とつながっているということだ。スイは背筋を伸ばしたまま扉の方を向いてすくっと立ち上がった。扉の向こうから暖かそうな光が洩れた。隣の部屋には豪奢な家具類も確認できた。
「ようこそ、我が実験室へ」
「お招きいただき光栄です」
 型どおりの返答をした。感情が表に出ないように努めて無表情を装っていたが、かなり険しい目つきになっているような気がする。ヌビスはゆっくりとスイに近づいてきた。少し背の高いヌビスに合わせて、スイは顔を上げた。ヌビスは射抜くような鋭い視線でスイの瞳をのぞき込む。
「いい目だ。まるで挑むかのような」
 にやりと満足したようにヌビスは不気味な笑みを浮かべる。
「こんな部屋に連れてこられても動揺はないようだな。これから何をするのかすでに聞いているのか?」
 スイは答えなかった。そんな些細なことにヌビスが構うとは思えなかったが、何かの琴線に触れ、エルリックに災難が降りかかる可能性があることは極力避けたい。ヌビスもそれを察したようで、さらりと流して微笑んだ。
「隣は陛下のお部屋ですか?」
 刺すようなまなざしのまま問うてみる。ヌビスは警戒をする様子もなく、やんわりと答えた。
「そうだ。せっかくだから見てみるか?」
 ヌビスに招かれ、スイは王の寝室に入った。当然この部屋は研修生に案内されない極秘エリアだ。だが、呪術を施された者は以降マーラルに関わらなくなるとエルリックも言っていた。呪術に絶対の自信があるのだろう。どうせどのような情報を与えても利用することはもほやできない。警戒をしていないというよりは、むしろ自信と余裕を見せつけ、呪術に対する恐怖を煽るために部屋に入れたのだろう。
 だが、ヌビスの思惑どおりにはいかなかった。スイは至って冷静だった。
 いちばん最初に目についたのは、正面奥にあった金糸のタッセルに縁取られた深紅のベルベットとレースの天蓋のついた広いベッドだった。寝具はシルクの光沢を帯びていた。次に、右側の暖炉が目に入った。暖かい季節だったので、火はついていなかったが、真っ白な石に精巧な彫刻が施されていた。木製の家具類は全てスフィア地方のパイン材で、ソファの皮は上品な光沢を放ち、ソファの前の背の低いテーブルはマーラル産と思われる大理石特徴的な幾何学模様の絨毯はフローラ産。部屋にある品はどれも各地から集められた一級品だ。その美しさに目を奪われていると、隣に立ったヌビスが話しかけてきた。

次回更新予定日:2019/04/27

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