魔珠 第4章 マーラル魔術研究所(12) 王の実験室3 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「幅広い教養を身につけているようだな」
 自室に揃えたものの価値が正確に分かっていると見て取り、ヌビスはより一層スイを警戒した。この少年は成績優秀なだけでなく、実に多くの知識を吸収している。頭脳明晰なのは話しているだけでもよく分かる。危険な人物だ。早く葬らなければ。
「申し訳ございません。あまりにも素晴らしいお部屋でつい見とれてしまって」
 しかもこれからされることを分かっていてこの冷静さである。それとも冷静を装っているのだろうか。
「気になるものがあったら、近くに寄って見るといい」
「本当ですか。ありがとうございます」
 暖炉が気になっていたが、悟られないようにいちばん手前にあったテーブルからぐるりと部屋を回るように順番に見ていく。
「工芸品に興味があるのか?」
「特別あるというわけではないのですが、陛下がお持ちのものはそうそう目にすることができるものではございません」
 やはり冷静だ。
 スイは暖炉にたどり着いた。石に施された装飾をじっくり観察する振りをして周囲を見る。わずかだが、やはり不自然な亀裂がある。先ほどの「実験室」と呼ばれた部屋にもあったが、隠し通路か何かがあるのだろう。
「満足したか?」
「はい」
「では、こちらへ」
 暗闇の方に戻る。魔法陣を通り過ぎて再びベッドの方まで来て立ち止まった。
「暴れる者は魔法陣で呪縛して処置を施すのだが、お前は聡明そうだから暴れたりはしないな」
 丸腰で武器になりそうなものはない。素手でもいいが、いずれにしても強そうな魔術師が横に控えている。すぐに取り押さえられるだろう。そうでなくても、ヌビスの魔力があれば、スイの動きを止めるのは容易いことのはずだ。それに、抵抗してエルリックに何かあったら、ここに来た意味がない。
「やはりそうだな。ベッドに横たわりなさい。その方が楽だから」
 覚悟を決めた目を見てヌビスは言った。背中のローブの紐を解いて上半身をはだけさせる。冷たい指の感触に一瞬ぞくっとしたが、スイはおとなしくベッドに横たわった。視線が気になって目を背ける。

次回更新予定日:2019/05/04

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