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「ありがとう」
書斎に寄って荷物を置き、すぐに応接室に向かう。
「待たせたな、メノウ」
ドアを開けると、ソファに座っていたメノウが振り向いた。小柄だが、どこか凛としたところがある青年だ。
「いらない荷物は先に部屋に置いてきちゃった。泊めてくれるんでしょ」
「ああ。取りあえず先に話を済ませようか」
「うん。そうだね」
スイはメノウをいつもの部屋に案内した。スイが手をかざすと、ドアが開いた。魔珠の取引のためだけに使用する特別な部屋で、関係書類と魔珠を一時的に保管する金庫なども置かれている。
「お茶でもどうだ?」
「うん。もらう」
慣れた手つきでてきぱきと茶を淹れるスイをメノウはじっと見ている。
「何でも自分でやるんだね、スイは」
「あまりここには人を入れない方がいいだろ。もっとうまく淹れられるといいのだが」
「僕はスイの淹れたお茶好きだよ」
「そう言ってもらえると助かる」
クールだと言われているスイもメノウの屈託のない笑顔を見ると、つい笑いがこぼれる。
「セイラム様はお元気にしておられる?」
「父上か。ああ、元気だ。相変わらず母と静かに暮らしているよ。貴族の子息を何人か引き受けていて学問や剣術を教えているらしいが」
スイの父、セイラムは魔珠の担当官で、メノウの父、ヘキも売人だった。二人は非常に親しく、ヘキがリザレスに来たときには必ず当時はセイラムの私邸だったこの家に泊まっていった。スイという名前もセイラムがヘキに頼んでつけてもらった名前である。売人は世襲制であるため、生まれたときから跡を継ぐことになっていたメノウも幼い頃から父に同行していた。一歳年下のメノウは、一人っ子のスイにとって友達のような弟のような存在だった。いつからかスイはメノウが来るのを楽しみにするようになった。いつも側にいるわけではないが、いちばん何でも正直に話せる間柄だった。
「いいなあ。親父も引退したらそんな生活がしたかったんだろうなあ」
セイラムはあまり宮廷の生活というのが好きではなかったらしく、スイが跡を継げるようになったと判断するやいなやすぐに引退した。職を辞しても宮廷に残り、行事などに参加する者の多い中で、私邸を子に譲って郊外で隠居生活を始めたセイラムはかなり異例といってもよい。一方、ヘキは引退した売人らしく、里の外れで一人寂しく暮らしている。
「早速だけど、注文の品の確認してもらってもいい?」
「ああ」
次回更新予定日:2018/08/18
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「待たせたな、メノウ」
ドアを開けると、ソファに座っていたメノウが振り向いた。小柄だが、どこか凛としたところがある青年だ。
「いらない荷物は先に部屋に置いてきちゃった。泊めてくれるんでしょ」
「ああ。取りあえず先に話を済ませようか」
「うん。そうだね」
スイはメノウをいつもの部屋に案内した。スイが手をかざすと、ドアが開いた。魔珠の取引のためだけに使用する特別な部屋で、関係書類と魔珠を一時的に保管する金庫なども置かれている。
「お茶でもどうだ?」
「うん。もらう」
慣れた手つきでてきぱきと茶を淹れるスイをメノウはじっと見ている。
「何でも自分でやるんだね、スイは」
「あまりここには人を入れない方がいいだろ。もっとうまく淹れられるといいのだが」
「僕はスイの淹れたお茶好きだよ」
「そう言ってもらえると助かる」
クールだと言われているスイもメノウの屈託のない笑顔を見ると、つい笑いがこぼれる。
「セイラム様はお元気にしておられる?」
「父上か。ああ、元気だ。相変わらず母と静かに暮らしているよ。貴族の子息を何人か引き受けていて学問や剣術を教えているらしいが」
スイの父、セイラムは魔珠の担当官で、メノウの父、ヘキも売人だった。二人は非常に親しく、ヘキがリザレスに来たときには必ず当時はセイラムの私邸だったこの家に泊まっていった。スイという名前もセイラムがヘキに頼んでつけてもらった名前である。売人は世襲制であるため、生まれたときから跡を継ぐことになっていたメノウも幼い頃から父に同行していた。一歳年下のメノウは、一人っ子のスイにとって友達のような弟のような存在だった。いつからかスイはメノウが来るのを楽しみにするようになった。いつも側にいるわけではないが、いちばん何でも正直に話せる間柄だった。
「いいなあ。親父も引退したらそんな生活がしたかったんだろうなあ」
セイラムはあまり宮廷の生活というのが好きではなかったらしく、スイが跡を継げるようになったと判断するやいなやすぐに引退した。職を辞しても宮廷に残り、行事などに参加する者の多い中で、私邸を子に譲って郊外で隠居生活を始めたセイラムはかなり異例といってもよい。一方、ヘキは引退した売人らしく、里の外れで一人寂しく暮らしている。
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