魔珠 最終章 ゲート(7) 新しい時代へ 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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ヴァンパイア化した町や村の浄化は順調に進んでいた。
 グレンはいつものように派遣されていた村から戻り、エストルの執務室に向かった。
 ドア口に立つと、名前を呼ぶよりも先にドアが開いた。
「グレン、今帰ったのか?」
 さすがに人がいるとは思っていなかったようで、エストルも驚いた顔を見せる。だが、すぐに元のきりっと引き締まった表情に戻ってドアを閉めると、口元をほころばせて言った。
「ちょうどいい。ついてきてくれ」
「あ、はい」
 急に言われてとまどいながら、グレンはエストルの後をついていった。たどり着いたのはエストルの私室だった。
「グレン!」
 シャロンが立ち上がる。続いてゆっくりとした動作で横に座っていたウィンターも席を立った。
「シャロン、それにウィンター。元気にしてた?」
 満面の笑みを浮かべてグレンがテーブルの方に向かう。
「グレン、座ってくれ。ちょうど私もウィンターたちの報告を聞こうと思っていたところだったんだ」
「良かった、会えて。僕にも聞かせてよ。テルウィングの話」
 グレンが腰かけたのを確認しながら、エストルはカップを用意した。ポットから茶を淹れてグレンの前に置くと、そっと席に着いた。
 ウィンターとシャロンはまず出会ったヴァンパイアを浄化しながら、ウィンターがかつて活動の拠点にしていた村を目指した。すぐに自力で復興できそうな町や村の住人は、そのまま状況の説明をするだけで良かったが、もうヴァンパイア化してから年数が経ってしまった村の住人は、ウィンターの村に連れて行くこともあった。ヴァンパイア化した人の数が多く、荒れ果ててしまっている町は人間に戻っても生活が困窮する可能性が高いと判断し、やむを得ず、浄化を後回しにすることにした。
 村に帰ると、かつての仲間たちが迎えてくれた。そこでウィンターはテルウィング王がヴァンパイアに噛まれて絶命したことを知らされる。王に対して恨みを持っていた部下の陰謀だったらしい。危機感を抱いた王子が城から脱走を図った。城の状況を偵察していたウィンターの仲間がその王子を保護し、村に連れ帰った。王子はウィンターたちの活動に感銘を受け、村で暮らしながら剣術と魔術の鍛錬に励み、今では見回りなどの活動にも参加しているという。
「殿下はまだ十五歳だが、聡明な方だ。王都が落ち着いたら、戻って即位を宣言し、我々に協力してくれるとのことだ。ムーンホルン王ともなるべく早く話がしたいとおっしゃっている」
 ムーンホルンで上級ヴァンパイアを追っている間に、願ったり叶ったりの方向に事態は動いてくれていたらしい。
「王都には行ってみたか?」
 エストルが問うと、ウィンターはうなずいた。
「城の者たちはほとんどがヴァンパイア化していた」
 そこで、まずは宮廷魔術師から浄化して上級ヴァンパイアの開発のことについて聞き出した。上級ヴァンパイアたちを全てヴィリジアンで倒したことを話すと、魔術師たちは魂が抜けてしまったように呆然と立ち尽くしていた。しかし、しばらくすると、大方の者がほっと安堵したようなすがすがしい表情になり、ウィンターに協力してくれた。魔術師たちも人間だ。力を追い求める一方で、あまりにも強大な力を持つ存在に恐れを抱いていた。
「研究は続けていたが、試作などはもうしていなかったらしい」
「上級ヴァンパイアを倒せる者が現れるとは思っていなかったのだろう」
 エストルが言った。
 ウィンターは上級ヴァンパイアの開発に関わる記録を一ヶ所に集め、封印した。ヴィリジアンの力でしか発動しない封印にした。
「取りあえずヴァンパイアのいない世界に戻す準備が整ったね」
 グレンはほっとした表情を浮かべた。
「そうだな。では、早速陛下とテルウィングの新国王陛下の階段の場をセッティングしよう」
 エストルがいつもの良い姿勢で席を立つ。
「ああ。頼む。ムーンホルンの協力がなければ、ヴァンパイアの浄化を進めたところでテルウィングを立て直せない」
 ウィンターが言うと、エストルはさっと机の書類をまとめてドアの方に歩いていき、振り返った。
「陛下と話をしてくる。戻ってくるまでここでゆっくりしていてくれ」
「ありがとう、エストル」
 礼を言うウィンターにエストルは穏やかな笑みを見せて部屋を出ていった。
 ムーンホルンとテルウィング。二つの国の新しい時代が始まる。

End

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