魔珠 ヴィリジアン 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「グレン、か?」
 閉じていた目をうっすらと開け、エストルはつぶやいた。
「もうこやつの記憶は全て読ませてもらった。用済みだ。くれてやる」
〈追跡者〉はそう言うと、魔法陣からエストルを解放した。グレンは急に倒れてきたエストルの体を咄嗟に抱き留めた。
「すまない。全て知られてしまった。ヴィリジアンのことも、ウィンターたちのことも」
 ヴィリジアンのことも、ウィンターたちのことも?
「待って。なんでエストルがそんなこと知ってるの?」
 訳が分からない。
「クレサックから全て打ち明けられた。私は、最初からクレサックやウィンターと組んでヴァンパイアを追っていた。お前を王騎士にする前から」
 驚きで言葉が出なかった。全然そんなふうに振る舞っていなかった。だが、今、思え返せば、確かにいちばんセレストやヴァンパイアの行動を疑っていたのは、他でもないエストルだった。
「ずっと宰相という立場を利用してヴァンパイアの出現情報やお前たちの派遣先の情報を流していた」
 だから、シャロンはヴァンパイア化した町に現れてヴァンパイアを浄化することができた。そして、行く先々で時折ウィンターが現れる。
「本当に、申し訳ない。私の力が至らなかったばかりに」
 いつも毅然としているエストルがそんなみじめな台詞を吐くのを見るのは心苦しかった。
「エストルは、よくやったよ」
 素直に思ったことを耳元で囁いた。自分がやったように、様々な痛みや幻覚と懸命に戦ったのだ。上級ヴァンパイア相手に。
「お前は、優しいな」
 エストルが安心したように目を閉じる。
「だいたい状況は飲み込めたか?」
〈追跡者〉は静かに漂っていた空気を引き裂くようにグレンに問うた。
「まだ聞きたいことは山ほどあるけど、大切なところは把握できたと思う」
 グレンの答えに〈追跡者〉は満足そうに微笑んだ。
「では、そろそろ私の戯れにつき合ってもらおうかな」
「させるか!」
 そう言ってもたれかかっていたエストルの体を自分から離して壁に寄りかからせようとしたとき、突然それが始まった。
「どうかしたのか、グレン?」
 意地の悪い冷笑をたたえて〈追跡者〉が尋ねる。欲望を振り払おうとグレンは大きく頭を振った。

次回更新予定日:2016/12/10

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「ただ周りにいた者たちがそう思っただけかもしれない。でも、私も少し、気になってはいる」
 クレサックはそう言っていた。そして、そのセレストが自ら王騎士にするために連れてきたソード。
 何度か考えたことがあった。セレストとソードとヴァンパイアに何らかの関係があるのではないかと。だが、その度に否定した。ヴァンパイアに支配されているなんて、ヴァンパイアの部下として働いているなんて考えるのは怖かった。信じたくなかった。
「敵は、僕をおびき寄せているんだと思う。心当たりがある。これは罠だ。だから」
 グレンはソフィアを真っ直ぐに見つめた。
「きっと僕以外の人は結界に弾かれる。僕は一人で二階に突入することになる。ソフィアたちは今までどおり上で何か事態が変わって結界が解かれたときにすぐに突入できるように待機していて欲しい」
「罠だと知っていて、自ら飛び込んでいくの?」
 ソフィアは呆れたような、しかしどこか優しい口調で言った。答えはもう知っていて諦めている。ただ送り出すしかない。
「分かったわ。ここは任せて」
「僕を、信じて」
 突っ込んでみなければ分からない。だが、そうするしかエストルを解放する方法はない。それに今、ヴィリジアンがある。その力には未知なところだらけだが、試す価値のある手はいくらでもある。グレンは結界の前に立って言った。
「待たせたね、〈追跡者〉。グレンだ。道を開けて」
 すると、城中に声が響き渡った。
「待ちくたびれたぞ。来い」
 結界の一部が裂け、グレンは中に入った。結界はすぐに閉じて、元通りになった。
「頼んだわよ、グレン」
 ソフィアは心の中で祈りながらつぶやいた。

 グレンは迷わずエストルの執務室に向かった。〈追跡者〉の意図は分かっている。誰もいない廊下を真っ直ぐ歩いて執務室の扉の前で立ち止まる。
「どうぞ」
 扉が勝手に開いた。
「エストル!」
 部屋に入るなり、魔法陣に拘束されて衰弱しきっているエストルの姿を認め、駆け寄る。

次回更新予定日:2016/12/03

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城が見えてきた。空はどんよりと曇っている。嫌な気配を感じてグレンは走り出した。
「何かあったの?」
 城門をくぐるなり、グレンは見張り兵に聞いた。
「グレン将軍!」
 巡回の途中で通りかかったデュランが走ってくる。
「将軍、城の二階に結界が張られて、陛下とエストル様が閉じ込められてしまったのです」
「何だって」
「ソフィア将軍たちと結界を解こうとしたのですが、我々の魔力ではびくともしないのです」
 グレンはエストルの言葉を思い出した。エストルはこうなることを予想していたのだ。なぜ予想できたのか。グレンは走りながら考えた。
「ソフィア」
 中央階段の前にその姿を見つけ、声をかける。
「待たせてごめん。ソードはまだ帰ってないの?」
「帰ってないわ」
「結界のこと、デュランから聞いた。状況は?」
「三日前から動きがないの。結界がなくなる気配もないし」
 グレンはそっと右手を前方に出して階段をゆっくりと上り始めた。何かが指に触れて反応する。
「結界。綻びた?」
 波紋がわずかに広がった。人差し指の先が少し触れただけで。ソフィアたちが五人がかりでびくともしなかった結界が。グレンは結界の意味を理解したと感じた。緊張を解くように一息ついて振り返った。
「ソフィア、見えた?」
「ええ。結界が、わずかに綻びを見せた」
 不安そうに見ているソフィアにグレンは凛とした表情でうなずいた。
「二階には、多分上級ヴァンパイアがいると思う」
「そんな。町の外で深手を負わせて撃退したのに。いくら上級ヴァンパイアでもあんな傷で場所をピンポイントで指定して瞬間移動できるはずないわ」
「自分で瞬間移動したとは限らない。それに城の内部にあらかじめ魔法陣を用意しておくことだってできる」
「内通者がいるとでも言うの?」
 ソフィアの声は震えていた。
「ソフィアも薄々気づいていたんじゃないの?」
 グレンにたたみかけられて、ソフィアは沈黙した。ある日を境にセレストが変わってしまったようだという話は聞いていた。同じ王騎士であったクレサックから聞いた。ソフィアもかつてヴァンパイア討伐を冷静に命じるセレストに対してグレンと同じように疑問を抱いたことがあった。ソフィアはクレサックに胸の内を隠さず話した。誰かに話さずにはいられなかったのだ。セレストが変わった話を聞いたのはそのときだった。

次回更新予定日:2016/11/26

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グレン ムーンホルン王騎士

ソード ムーンホルン王騎士
ソフィア ムーンホルン王騎士

セレスト ムーンホルン国王
エストル ムーンホルン宰相

ウィンター 上級ヴァンパイアを追うテルウィング出身の冒険者
クレサック 元ムーンホルン王騎士。ウィンターの協力者
シャロン ヴィリジアンの使い手。クレサックの姪
 
クレッチ 上級兵士。グレンの部下
デュラン 上級兵士。グレンの部下

リン 上級兵士。ソフィアの部下
ルイ 上級兵士。ソフィアの部下

<002 追跡者> 男性の容姿を持つ上級ヴァンパイア
<003 告知者> 少女の容姿を持つ上級ヴァンパイア
<005 執行者> 男性の容姿を持つ上級ヴァンパイア

「クレッチ、デュラン」
 よく通る声で呼ばれて二人は振り返る。
「待たせたわね」
 ソフィアだった。リンとルイを従えて、いつものしゃきっとした姿勢で立っていた。
「話は聞いたわ。どう?」
 結界を破壊しようと魔力を送り続けていた兵士たちの様子を見ながらソフィアは尋ねた。
「駄目です。びくともしません」
 クレッチが答えた。
「力を貸して」
 クレッチとデュランは頷いて五人横一列に並んだ。結界に魔力を送っていた兵士たちは、五人に譲るようにその場所から離れた。
「行くわよ」
 五人で一斉に魔力を送った。だが、結界は全く乱れず、ただ三人で魔力を送ったときよりも大きな爆発が起こって、五人が四方八方に飛ばされただけだった。
「どうすればいいの」
 ソフィアは倒れた姿勢のまま見えない結界をにらみつけた。そのまま状況を冷静に分析してみる。
「もう結界が張られてから何時間も経っているのよね」
 他の四人も否定しなかった。
「もし、例えば相手の狙いが陛下に危害を加えることだとしたら、すぐに用を済ませて結界を解くと思うの。結界が何時間も解けていないということは、多分陛下と何か交渉しているか、あるいは何かの目的を果たすため一時的に陛下の身柄を拘束しているか、いずれにしてもこの結界がある間は陛下に危害が加わることはないんじゃないかしら」
「確かに」
「このびくともしない結界に魔力をつぎ込むよりも温存しておいて結界がなくなったときにすぐに突入して、何かあったら使えるように準備しておいた方がいいような気がする」
「賛成ですね」
 クレッチは言った。狙いはセレストではない。エストルの記憶だ。エストルの記憶から情報を引き出すことが敵の狙いだ。それがまだ引き出せていないというのだろうか。それとも引き出した上でエストルの動きを封じているのだろうか。
「だったら、準備にかかりましょう。城内に今いる兵士だけで数は充分ね。それ以外は、これまでどおり城の周辺を警備するよう指示して」
「了解です」
 四人は手分けしてソフィアの指示を伝えに行った。

次回更新予定日:2016/11/19

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