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グレンはソードの胸から剣を抜いた。これまでソードの口から紡ぎ出された数々の言葉たちが一気に記憶にあふれ出し、グレンは涙した。
「ソード……僕は、君に何度も助けられたのに、君の悲しみを、どうすることもできなくて……」
恐ろしい。他者の者を我が物にしたいという支配欲が戦争を引き起こし、その戦争に勝利するためヴァンパイアが生み出された。そのヴァンパイアによって人は狩られていった。その牙から逃れた者たちにも不幸な記憶、そして恐怖と憎しみだけを残していった。
ソードもそのうちの一人。ただ失ったものに対する執着が誰よりも強かった。そして、それを成就させるだけの力があった。
それがソードを縛りつけた。
グレンはソードの横にかがみ、その左手を優しく握った。その手にはもう力はなかった。グレンはそっと手を元の位置に戻して立ち上がると、ウィンターの方にゆっくり歩いていった。
「なんて、声をかけてやれば、良かったのだろう」
呆然とするウィンターの胸にそっと手を当てて、初めてその言葉にひそむウィンターの複雑な胸中が分かったような気がした。謝ることもできず、許すこともできず。グレンは優しい表情をした。
「ウィンターも、あまり自分を責めないで」
静かに魔力をウィンターの傷ついた体に注ぎ込む。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
ウィンターは回復してもらった体をゆっくりと起こし、まだ少しおぼつかない足でソードの方に歩いていった。そして、顔をのぞき込む。
「ソード……」
やはりかけてやる言葉が続かない。ウィンターはじっと息絶えた弟の顔を見ていた。しばらくして、やっと口を開く。
「何か、安心したような顔をしているように見える。気のせいだろうか」
「きっと、苦しかったんだよ。ソードも」
グレンはにっこり微笑んだ。
「ソード、優しい人だから」
そう言われて初めて涙がこぼれる。
足音が聞こえてグレンは振り向いた。霧の合間から人の影が見えた。
「陛下、エストル様!」
案内役を務めていた神官長が一歩下がった。すると、後ろにいたセレストが二人に声をかけた。
「お前がグレンか。エストルが士官学校にいたとき、お前の話は何度か聞いた。聡明で剣術にも魔術にも長けるとは聞いていたが、王騎士になっていたとは」
グレンは美しい動作でセレストの前にすぐさまひざまずいた。ほめられたのが少し照れくさくて少し赤くなった顔をうやうやしく下げる。
「初めまして、陛下。王騎士のグレンです」
「そして、そちらがテルウィングから来たというウィンターか?」
「はい」
グレンの後ろにウィンターもひざまずく。
「ソード」
エストルはソードの顔を見つめた。様々な思いが込み上げてきたが、何も言わなかった。
「ゲートに、向かわれるのですか?」
ウィンターがセレストに尋ねた。
「そうだ。取りあえず魔獣がこれ以上侵入してこないように、私が許可した者以外は通行できないように封印しようと考えている」
すると、グレンの全身が緑色の光を帯びた。ヴィリジアンの魔力で瞬時に回復を終えると、グレンは立ち上がった。
「陛下、この先魔獣が現れるかもしれません。護衛いたします」
「エストルだけでも充分かもしれませんけどね」
エストルは苦笑いを浮かべていたが、否定はしなかった。
「後で迎えに来るよ」
グレンはソードに言い残して先頭に立った。
「行きましょう」
次回更新予定日:2018/06/09
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「ソード……僕は、君に何度も助けられたのに、君の悲しみを、どうすることもできなくて……」
恐ろしい。他者の者を我が物にしたいという支配欲が戦争を引き起こし、その戦争に勝利するためヴァンパイアが生み出された。そのヴァンパイアによって人は狩られていった。その牙から逃れた者たちにも不幸な記憶、そして恐怖と憎しみだけを残していった。
ソードもそのうちの一人。ただ失ったものに対する執着が誰よりも強かった。そして、それを成就させるだけの力があった。
それがソードを縛りつけた。
グレンはソードの横にかがみ、その左手を優しく握った。その手にはもう力はなかった。グレンはそっと手を元の位置に戻して立ち上がると、ウィンターの方にゆっくり歩いていった。
「なんて、声をかけてやれば、良かったのだろう」
呆然とするウィンターの胸にそっと手を当てて、初めてその言葉にひそむウィンターの複雑な胸中が分かったような気がした。謝ることもできず、許すこともできず。グレンは優しい表情をした。
「ウィンターも、あまり自分を責めないで」
静かに魔力をウィンターの傷ついた体に注ぎ込む。
「ありがとう。もう大丈夫だ」
ウィンターは回復してもらった体をゆっくりと起こし、まだ少しおぼつかない足でソードの方に歩いていった。そして、顔をのぞき込む。
「ソード……」
やはりかけてやる言葉が続かない。ウィンターはじっと息絶えた弟の顔を見ていた。しばらくして、やっと口を開く。
「何か、安心したような顔をしているように見える。気のせいだろうか」
「きっと、苦しかったんだよ。ソードも」
グレンはにっこり微笑んだ。
「ソード、優しい人だから」
そう言われて初めて涙がこぼれる。
足音が聞こえてグレンは振り向いた。霧の合間から人の影が見えた。
「陛下、エストル様!」
案内役を務めていた神官長が一歩下がった。すると、後ろにいたセレストが二人に声をかけた。
「お前がグレンか。エストルが士官学校にいたとき、お前の話は何度か聞いた。聡明で剣術にも魔術にも長けるとは聞いていたが、王騎士になっていたとは」
グレンは美しい動作でセレストの前にすぐさまひざまずいた。ほめられたのが少し照れくさくて少し赤くなった顔をうやうやしく下げる。
「初めまして、陛下。王騎士のグレンです」
「そして、そちらがテルウィングから来たというウィンターか?」
「はい」
グレンの後ろにウィンターもひざまずく。
「ソード」
エストルはソードの顔を見つめた。様々な思いが込み上げてきたが、何も言わなかった。
「ゲートに、向かわれるのですか?」
ウィンターがセレストに尋ねた。
「そうだ。取りあえず魔獣がこれ以上侵入してこないように、私が許可した者以外は通行できないように封印しようと考えている」
すると、グレンの全身が緑色の光を帯びた。ヴィリジアンの魔力で瞬時に回復を終えると、グレンは立ち上がった。
「陛下、この先魔獣が現れるかもしれません。護衛いたします」
「エストルだけでも充分かもしれませんけどね」
エストルは苦笑いを浮かべていたが、否定はしなかった。
「後で迎えに来るよ」
グレンはソードに言い残して先頭に立った。
「行きましょう」
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