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「こんにちは。お泊まりですか?」
もう今晩だけ泊まって明日の朝帰ろう、と思って宿屋に入る。宿屋の主人はやはり何事もなかったかのように笑顔で声をかけてくれる。
ヴァンパイア化したのだから、ヴァンパイアに村が襲われたはず。そのときの記憶は抜けているのだろうか。
「最近のお客さんはみんな武器を持ってますね。物騒な世の中になったものです」
世間話を振られてグレンは切り返してみた。
「この辺でヴァンパイアを見かけたという噂を聞いて来たのですが」
「お客さん、ヴァンパイアハンターですか? 残念ですが、それはガセですね。ヴァンパイア騒ぎも魔獣騒ぎもない平和な場所ですよ。この辺は」
「そうですか」
釈然としない顔でグレンは考え込む。
「まあ、ゆっくり休んでいってください」
カウンター越しに宿屋の主人が微笑む。
そうしよう。取りあえずゆっくり休んで城に戻って報告しよう。何もなかったと。
「またか」
いつものようにエストルの部屋でコーヒーをすすりながら、報告をする。シャロンに言われたようにアウルでは何もなかったと。エストルは表情一つ変えずに感想を述べた。
「これで三度目だな。お前はどう思う?」
「間違いだったんじゃない? そういうこともあるよ」
「そうなんだが……誰かが意図的に偽の情報を流していたりはしないだろうか」
「だとしたら?」
グレンはエストルがどう考えているのか知りたかった。
「いや。可能性の一つとして言ってみただけだ。今までこんなことはなかった。それがこの数ヶ月で立て続けに三回だ。何か私たちの知らないところで状況に変化があったのか、そう考えるのは不自然か?」
極めて自然だ。グレンも同じように考えただろう。そして、おそらく他の王騎士たちもそう思っているに違いない。あるいはセレストも。シャロンのこと、そしてシャロンの剣のことは明かせない。ウィンターの話が真であれば、セレストはゲートの封印を解いてヴァンパイアをムーンホルンに招き入れた張本人なのだ。エストルはセレストの異常に真っ先に気づいた。エストルを信用して決して口外しないようにという条件で打ち明けても危険はないように思えた。だが、それはまだ時期尚早なのではないかとグレンは考え直した。まだシャロンについてもシャロンの剣についても情報が少なすぎる。自分でも状況が把握できていない。ただ、エストルの誤った推測に乗って誤った誘導をすれば、シャロンが自由に動けるようになる。ヴァンパイア化した村を救える。ここはエストルの仮説を利用してみようとグレンは考えた。
次回更新予定日:2015/11/07
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「この辺でヴァンパイアを見かけたという噂を聞いて来たのですが」
「お客さん、ヴァンパイアハンターですか? 残念ですが、それはガセですね。ヴァンパイア騒ぎも魔獣騒ぎもない平和な場所ですよ。この辺は」
「そうですか」
釈然としない顔でグレンは考え込む。
「まあ、ゆっくり休んでいってください」
カウンター越しに宿屋の主人が微笑む。
そうしよう。取りあえずゆっくり休んで城に戻って報告しよう。何もなかったと。
「またか」
いつものようにエストルの部屋でコーヒーをすすりながら、報告をする。シャロンに言われたようにアウルでは何もなかったと。エストルは表情一つ変えずに感想を述べた。
「これで三度目だな。お前はどう思う?」
「間違いだったんじゃない? そういうこともあるよ」
「そうなんだが……誰かが意図的に偽の情報を流していたりはしないだろうか」
「だとしたら?」
グレンはエストルがどう考えているのか知りたかった。
「いや。可能性の一つとして言ってみただけだ。今までこんなことはなかった。それがこの数ヶ月で立て続けに三回だ。何か私たちの知らないところで状況に変化があったのか、そう考えるのは不自然か?」
極めて自然だ。グレンも同じように考えただろう。そして、おそらく他の王騎士たちもそう思っているに違いない。あるいはセレストも。シャロンのこと、そしてシャロンの剣のことは明かせない。ウィンターの話が真であれば、セレストはゲートの封印を解いてヴァンパイアをムーンホルンに招き入れた張本人なのだ。エストルはセレストの異常に真っ先に気づいた。エストルを信用して決して口外しないようにという条件で打ち明けても危険はないように思えた。だが、それはまだ時期尚早なのではないかとグレンは考え直した。まだシャロンについてもシャロンの剣についても情報が少なすぎる。自分でも状況が把握できていない。ただ、エストルの誤った推測に乗って誤った誘導をすれば、シャロンが自由に動けるようになる。ヴァンパイア化した村を救える。ここはエストルの仮説を利用してみようとグレンは考えた。
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