魔珠 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「それで里の期待通り訳に立ってくれているってことか」
 メノウが明るく笑いかけてきた。その傍らでコウは寂しそうにカプセルを見つめてぼそっとつぶやいた。
「恨んでいるわよね」
 スイがはっと顔を上げる。
「手放すことしかできなかったのに、母親だなんて言って目の前に現れて」
「いえ」
 スイはカプセルの上にあったコウの手を取って大きな両手で包み込むように握った。
「私は今、大好きなメノウの側にいられてとても幸せなのです。あなたが私を産んでくれなければ、ヘキ様に託してくれなければ、叶わなかったことです。メノウと出会って、セイラムに指導を受け、幼い頃から願っていたように魔珠担当官になってメノウの横にいる。カプセルの中では絶対になし得なかったことです」
 物心ついたときには剣を握っていた。セイラムは三歳から剣術の指導を始めたと言っていた。メノウに初めて会ったのは五歳のときだった。メノウは跡を継いで売人にならなくてはならないので、連れて回っているのだとヘキから教えられた。七歳のときだったと思う。いつものように中庭を駆け回って疲れて並んで寝転んだ。空が青く広がっていた。
「ねえ、メノウ。メノウはヘキ様の跡を継いで売人になるの?」
「そうだよ」
「他のことしたいとか思わないの?」
「だって、もう決まってるから」
 生まれたときから決められている。売人は魔珠を売るだけが仕事ではない。情報収集や場合によっては危険と隣り合わせの任務をこなさなければならないこともある。命が狙われることだってある。もうヘキの仕事を何年か見てきているし、継がせるつもりなら話も聞いているだろうから、売人がどれだけ大変な仕事かはセイラムから話を聞いたことしかないスイよりもずっと分かっているはずだ。
 そんな重圧を物ともせず、さらりと笑顔で返すメノウがスイにはまぶしかった。こんな大変な道を歩くことを定められているのに、メノウは天真爛漫に振る舞う。いつも明るく笑っていて、一緒にいるだけで楽しい。
 この笑顔を守りたい。二人で過ごす楽しい時間を守りたい。
「私も父上の跡を継ぐことはできますか?」
 ヘキとメノウを港まで送って家に戻ると、スイは訊いた。
「お前が望むのなら」

次回更新予定日:2020/06/27

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「そうだよ。だって、そっくりだもん」
 メノウも加勢する。
 疑いようもなかった。それに嘘をつく理由もない。
「驚いたでしょ」
 つかつかと美しい姿勢でゆっくりとコウが歩いていった。いちばん手前のカプセルの前で止まったのを見てスイとメノウも後に続く。三人はカプセルを囲んだ。
「スイ、どのようにして魔珠を生成するのか、メノウから聞いたかしら?」
「はい」
 スイはカプセルの中で眠っている自分と同じ顔を見た。
「適性のある者とそのクローンを〈器〉にして魔珠を生成するのだと」
「そう」
 コウも悲しげな表情に戻ってそっとカプセルを撫でた。
「レヴィリン博士のデモンストレーションのとおり、あなたはとても優れた適性を持っていた。だから〈器〉として選ばれた」
 コウは一度きゅっと口を結んでから続けた。
「〈器〉として選ばれたとき、あなたは首が据わったばかりの赤子だった。確かにあなたと過ごした時間はまだそんなに長くはなかったけど、あなたのことは愛しく思っていたし、私にとってもうかけがえのない存在になっていた。そんなあなたを一生この中に閉じ込めておくなんて私にはできなかった。だからクローンを一体多く作成して、あなたを売人で国外に出ることのできる兄のヘキに託したの」
「じゃあスイと僕は……」
「従兄弟ということになるわね」
 二人は顔を見合わせた。
 弟のように思ったことは何度もあるが、まさか本当に血がつながっていたなんて。だが、それが執拗にメノウを守ろうとする理由の一つなのかもしれない。
「ヘキはリザレスに行ったとき、信頼できるセイラムさんにあなたをお願いした。子どものいなかったセイラムご夫妻は快くあなたを引き取ってくださった」
「そんなこと忍びの者にばれないようにできるの?」
 ヘキが里から人を連れ出せば、必ず忍びの者の知るところとなるはず。いったいどうやってその目をかいくぐってセイラムのところまで辿り着いたのか。
「スイの父親は忍びなの」
 これまた大層な血筋だ。スイとメノウは苦笑した。
「とても仲間たちに慕われていたみたいで、みんな同情してくれて見て見ぬ振りを通してくれた。それで五、六年は隠し通せたのだけど、長老会の知るところになってしまって」
 強ばった顔になった二人に対し、コウは穏やかに笑ったままだった。
「でもね、あなたがセイラムさんの仕事に興味を示していてヘキにもなついている、それにまだ連れて行き始めたばかりのメノウをとりわけかわいがっているという報告を受けて、長老会はあなたの成長を静観することにしたの。セイラムさんには他に子どもがいなかったから、信頼できるセイラムさんの育ててくれたあなたが担当官になってくれた方が、他の誰かになってもらうよりも里には都合がいいのではないかって」

次回更新予定日:2020/06/20

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「そんな技術が……」
「コピーって言っても〈器〉としての機能以外のところは不完全なところも多いらしいけど。だから、眠らせなくてもずっと眠った状態の個体が多いし、寿命が極端に短い個体もある」
 目的の部屋の扉の前に立つ。
「おそらくこの扉の向こうは魔珠の製造室だと思う。〈器〉たちがいる部屋だよ」
 緊張した面持ちでメノウは扉を見つめた。不意にスイの方を向くと、表情を崩した。
「何だかドキドキするね。どんなふうになっているんだろう」
 開けるよ、とメノウの目が言った。スイが頷くと、メノウは先ほどと同じように手を扉にかざして開けた。室内は廊下と比べるとかなり暗かった。目が慣れる前に背後で扉が閉まったが、すぐに部屋が少し明るくなった。
「何これ」
 驚きのあまり声も出なくなったスイの分までメノウが叫ぶ」
「そんな……そんな」
 メノウがその場で呆然と前方を見つめながらくずおれる。スイも立ち尽くしたまま動けない。
 広い部屋には十台ほどの生命維持装置らしきカプセルが設置されていた。そして、中には同じ顔が眠っている。スイと同じ顔が十体。
「なんで……」
 そのとき、先ほど閉まった扉が開いた。二人はまたあっと声を上げる。スイと顔立ちが驚くほどよく似ている女性が入ってきたのだ。黒いローブをまとった女性は無表情だったが、話しかけてきたその落ち着きのある声はどこか優しげだった。
「ようこそ工房へ。私はコウと申します。この工房の責任者です。そして」
 コウは少し悲しげな目で言った。
「スイ、あなたの母親です」
 スイはただ驚きの表情を浮かべるだけで返す言葉が見つからないでいた。そんな息子の表情を見てコウは皮肉っぽく言った。
「そうよね。急にそんなこと言われても困るわよね。こんな見知らぬ人に」
「いえ」
 スイははっきりと否定した。確信があった。
「あなたは……私の母親だと思います」

次回更新予定日:2020/06/13

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黒い笑顔にスイは苦笑する。訪れるたびに森の構造が変わって見えるとか、許可された者しか出口にたどり着けないとか、そういう仕掛けが施されているということだろう。
 そう言われてもいつもの癖でついつい道を記憶しようと努めてしまう。結界というのであれば、魔力をたどってみるのも良い道しるべになるかもしれない。面白そうだ。
「スイ、また何か悪いこと考えてるでしょう」
「そんな顔していたか?」
 メノウはぷくっと頬を膨らませた。
「僕の話ちゃんと聞いてよ」
「聞いてるよ」
 たわいのない話。小さい頃からずっとしていたいと願っていた。いつまでもしていたいと。それが一瞬で壊れそうになった。一瞬で壊れることがあるのだと知った。怖くて仕方なかった。でも、乗り越えることができた。そして、今、ここにいる。スイは天使のような笑顔を浮かべた。
「もう。その笑顔嘘くさい」
 そう言われてはお手上げだ。と思いながらも、周囲を気にかけてしまう癖はどうにもならない。
「着いたよ」
 しばらく進んでいくうちにメノウもあきらめたのか、すっかり機嫌が直っていた。
 目の前にはなかなか立派な施設らしき建物がそびえていた。
 メノウが手をかざすと、扉が開いた。
 無機質な印象の壁、床、天井。同じような色で統一されているからか広く見える。右側のいちばん手前の扉が開いて若い女性が出てきた。
「おはようございます。メノウ様ですね。突き当たりの部屋です」
「ありがとうございます」
 少し戸惑った様子でメノウが礼を言う。
「お前もここは初めてなのか?」
 じっとメノウを観察していたスイが訊いた。
「そうだよ。関係者しか入れないところだもん」
 メノウは立ち止まった。
「ここはね、魔珠を製造する施設なんだ」
 つまり人間を〈器〉にして人為的に魔珠を作り出すための施設ということだ。
 メノウは再びゆっくり歩き出した。
「最初はね、君たちみたいに魔術師を何人も何回も使っていた。でも、君の言ったように苦しくてみんなおかしくなってきた。急に発作を起こして周りにあるものを壊し始めたり、全く動かなくなってしまったり。それでもやっぱり魔珠が必要だから、魔術で眠らせて生命維持装置に入れて〈器〉の役割を続けてもらっていた。それでももともと里にはそんなにたくさん人がいないし、誰かが生贄にならなくちゃいけないんだったら、少しでも人数が少ない方がいい。だから、〈器〉として最も適した人を一人探してその人の体を何体もコピーする――クローンっていうんだけど、そのクローンとオリジナルの人を〈器〉として使うことにしたんだ」

次回更新予定日:2020/06/06

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里? そんなばかな。
「驚いた顔してるね」
 それはそうだ。自宅で意識を失って気がついたら里にいるなんて。訳が分からない。
「忍びの者からシェリスさんに先に事情を話してお茶に睡眠薬を入れてもらったんだ。それで君が眠っているうちに忍びの者が里に連れてきたんだ」
 味方だと確信のない人と何かを口にするときは、ある程度は用心する。だが、シェリスが出したものを警戒することはない。シェリスには絶対的な信頼を置いている。そのシェリスが事情を知らされた上で協力したというのならば、それはそうする必要があるとシェリスが判断したということだ。
 身体がこれだけ固まっているということは、何日間か眠ったままだったということだ。どうやって連れてこられたのだろう。徒歩や瞬間移動を繰り返して、といったところだろうか。
「手荒な方法になっちゃってごめんね。でも、長老会がスイに里に来てもらうって決定したから。里の場所教えるわけにはいかないし」
「なぜ長老会が?」
「渡したいものがあるって言ってた。それから見せないものも」
 心当たりはない。いったいなぜ急に。
「今日はゆっくりして。もし良かったら少しこの周りを歩いてみてもいいよ」
 考えても仕方がなさそうだ。スイは気持ちを切り替えて穏やかな微笑みを浮かべた。
「面白そうだな。案内してもらおう」
 今まで行ったことのある周辺諸国とは全く違った独自の文化を持つ里。せっかくの機会だ。好奇心が満たされるまで貪欲に観察させてもらおう。

 朝、目が覚めると、隣で寝ていたメノウもすぐに気づいて目を開ける。
「おはよう、スイ。ちゃんと眠れた?」
 普段ベッドで寝ているスイを気遣い、メノウが訊ねる。この畳と呼ばれる床は、硬すぎず、その上に敷かれた布団もふかふかと気持ちが良かった。初めてではあるが、寝心地は悪くなかった。
「良かった」
 メノウは笑顔になった。
 メノウに指示されながら、身支度を調える。支度が終わると、玄関に案内された。扉を開けると、栗毛の馬が二頭用意されていた。
「行くよ」
 どこに行くのかは不明だが、取りあえずメノウと同じように馬に跨がる。メノウの馬が動き出したのを確認すると、スイも馬の腹を蹴った。一瞬で追いついて横に並ぶ。たわいない話をしながらも、スイは辺りの景色を注意深く観察し、記憶に刻んでいた。やがて森の中に入った。さりげなくスイの行動を見ていたメノウはにっこり笑って言った。
「ここからは特殊な結界が張り巡らされているから記憶しても無駄だよ」

次回更新予定日:2020/05/30

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