魔珠 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「取りあえず青竜に慣れたいので、稽古をつけていただきたいと思いまして」
「いいだろう。良かったら私の教え子たちとも一戦交えてみてもらえないか?」
「喜んで」
 スイは立ち上がりセイラムから剣を受け取った。
「それでは、行って参ります」
「ええ。行ってらっしゃい」
 クレアがいつもの笑顔で見送ってくれた。何も変わらない。親が一組増えた以外は。

 次の休日、スイはクラウス邸の中庭に現れた。
「お休みの日なのにご足労いただきありがとうございます」
 恭しく一礼した相手はキリトの義兄イオである。
「構いませんよ。私も楽しみにして来たのですから」
「すみません。こんなことイオさんにしか頼めないので」
 青竜の真価を知るためには魔法を使った実戦をしてみる必要がある。魔力をどのように吸収するのか、放出するときの感覚など試してみたいことはいくらでもある。そこで数少ない知り合いの魔術師で、剣の存在を明かしても問題のなさそうなイオにお願いできないかキリトに相談した。イオは快く引き受けてくれた。
「使ってはみたのですか?」
 初めて見る輝きの剣を目にしてイオは訊く。
「はい。使い慣れておきたかったので、父とお弟子さんたちに相手してもらいました。魔法が少しできるお弟子さんもいたので、どんな感じか何となくは試してみました」
「そうですか。ちょっとじっとしていてくださいね」
 イオは指に魔力を集中させて小さな球体を作った。そのままそっと剣に球を触れさせてみる。剣がすっと光を吸収し、しばらくすると元の状態に戻った。
「面白い剣ですね」
「いろいろな使い方ができるんです。ただ魔力を吸収することもできますし、魔法を跳ね返したりすることもできるようなんです」
「では、取りあえず弱い火力の魔法からぶつけてみましょうか」
「お願いします」
 被害が周りに及ばないように結界を張って適度な距離を開ける。キリトも結界ぎりぎりまで下がった。
 スイが剣を構えると、先ほどと同じように指に小さな球体を作ってすぐにスイ目がけて飛ばした。スイが剣で球をはねのけると、イオは今度は手のひらに少し大きめの球体を作って投げた。今度はイオに狙いを定めてスイが飛ばす。イオはひらりと交わすと、さらに大きな球体を作って飛ばす。スイも先ほどよりも力を込めてイオに返す。すると、イオは交わさずそのまま別の球体を飛ばして目の前で爆発させる。
「すごいな」
 完全に魔術の実戦のような光景になっていた。
 大きな爆発音がして申し合わせたかのように二人が攻撃をやめる。
「なかなかやりますね」
 スイが剣を下ろしたのを見てイオが笑う。
「魔法は剣以上に動きが多彩で慣れるのに時間がかかりそうです」
 スイが困ったような表情で返す。
「もう少しおつき合いいただけますか?」
「もちろん」
 結界の中を光と音が飛び交う。キリトは二人の戦いに見とれた。黒いローブでひらひらと舞うようにしなやかな動作で剣を振るい攻撃を跳ね返していくスイ。対するイオも優雅に流れるように攻撃を繰り出していく。ため息が出るほど美しい。
 もしヌビスとレヴィリンが対峙することになったら、どのような光景を目の当たりにすることになるのだろうか。
 させたくないな。
 嫌な想像を一瞬で払拭してキリトは再び二人の美しい模擬戦を観戦することにした。

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「そうか」
 セイラムとクレアはまだ緊張した面持ちのままだ。スイは穏やかな笑みを浮かべた。
「私を産んでくださったこと、そして私をヘキ様に託してくださったことに感謝しました。コウさんのおかげで私は今、幸せに暮らしていると伝えると喜んでくださいました」
 セイラムははっとする。クレアは口元を押さえて涙を浮かべた。
「父上と母上にも私の希望どおりに育てていただいて感謝しています。コウさんにもお伝えしたのですが、素晴らしい父親と母親が二人もいて、私は本当に幸せです」
 セイラムが一瞬ほっとしたような表情をしたが、すぐに申し訳なさそうに切り出した。
「こんな日が来るとは思っていなかった。全く想定していなかったんだ。お前のことは一生私たちの子どもとして育てていくつもりだった。実際、本当の子どもだと思って育てていた。黙っていたこと、お前は快く思ってはいないだろうな」
 言われてスイの方が戸惑う。
「真実を知り、産みの親とお話ができて良かったとは思っていますが、今まで黙っていらしたことについて特別な感情は持っていません」
 すっとひと息ついてスイは頭を下げた。
「父上、母上、ここまで育てていただいてありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします」
 クレアの嗚咽が聞こえた。セイラムはにっこり微笑んだ。
「こちらこそよろしく。お前は私たちの子どもだ。今までもこれからもずっと」
「ありがとう、スイ」
 クレアが顔を上げて言う。スイは笑顔で頷いた。
「ところで、早速なのですが、父上」
 スイは持ってきていた剣を取り出す。
「忙しないな」
 セイラムが苦笑する。スイは構わず鞘から剣を抜いた。父親なのだから、ここは遠慮しない。
「これを見ていただこうと思って」
「失礼」
 セイラムが真剣な表情になって剣を見る。
「里の者がこのような刃の短剣を携帯しているのを見たような気がするが、これは里で手に入れたものか?」
 スイは青竜の刃が魔珠を含む合金からできていて、魔力を吸収、蓄積、放出することができる特殊な剣であり、忍びの者たちが使う短剣用に開発された刃なのだと説明する。
「里の長老から直接いただきました」
「なるほど」
 セイラムは早速自身の手で握って感覚を確かめてみる。

次回更新予定日:2020/10/03

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「ありがたいお言葉ですが」
 スイは穏やかな微笑みを浮かべた。
「なるべく軍には仕事がいかないように尽力しようと思います」
 スイの言葉を聞いてカミッロはくすっと笑う。
「期待しているよ。その方が犠牲が少なくて済む。そして、何よりも楽できる」
 そう言いながら、椅子に立てかけていた地図を手に取る。クラークとアイン、そしてその間にあるアルト海の地図だ。
「被害を最小限にするために海で迎え撃とうと思っている。優等生の君たちに私の考えている作戦を少し聞いて欲しい。君たちの行動の参考にしてもらってもいいし、意見があれば聞かせて欲しい」
 三人は地図をのぞき込みながら一時間ほど意見交換した。
「有意義な時間だったよ。またぜひ手合わせに来てもらいたいものだ。セイラムにも時間ができたらお邪魔させてくれと伝えておいてくれ」
「はい。必ず」
 スイとキリトは礼を言ってカミッロの私邸を出た。

 翌日、スイはセイラムを訪ねた。
 久しぶりに訪れたセイラムの私邸の前で立ち止まる。壁の向こうから元気の良い少年たちのかけ声と剣のぶつかり合う音がする。懐かしく感じるほど久しぶりだっただろうかとスイは考える。いろいろなことが立て続けに起きて実際に顔を見せていないというのは否めないが、それ以上に時間が長く感じられる。
 馬を降りて門を開ける。そのまま中庭に向かう。
「よく来たな、スイ」
 塾生の稽古を見ていたセイラムが気づいて振り返る。塾生たちも手を止める。
「馬を置いて中に入れ。クレアも待っている」
 スイはセイラムの馬の横に今朝借りた馬をつないで首を叩いた。
「また後でよろしくな」
 リビングに入ると、二人が並んで座って待っていた。
「この度はいろいろとご協力いただき、ありがとうございました」
 まず礼を言う。誰の協力が欠けても次に進むことが叶わなかったのだから。
 その後の言葉が出てこない。何から話せば良いのだろうか。いや、伝えたいことがあってここに来たのだ。他のことはどうでもいい。
「産みの親に、コウさんに会いました。研究所に勤めている魔術師で、とても優しい方でした」

次回更新予定日:2020/09/26

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カミッロに教え子たちは頷いた。
「だが、どうだろう。うちの諜報部で集めた情報と外務室から提供してもらっている情報とを総合すると、私にはマーラル王が陛下のお考えになっているような行動に出そうな気がしなくてね。君たちはどう思う?」
「同感ですね」
 キリトが答えると、カミッロは満足げに微笑む。やはりこの二人は自分と同じように考えていた。
「マーラル王は自身の魔術師としての力を試してみたいと長年願っていた。魔術兵器はそのために作ったもので、その存在が里に知られず魔珠の輸出停止措置が取られる事態にならなくても、いずれその願いを実現できるように着々と準備を進めていた。対決の舞台はもうすでに決まっていたのです」
「やはりマーラルとの戦いは避けられないか」
 スイの言葉にカミッロがため息をつく。
「ただ回避するために最大限の努力はしてみるつもりです」
 キリトが断言する。
「先生も陛下から聞いておいでかもしれませんが、里からもヌビス政権が崩壊し、魔術兵器の危険性がなくなるまではリザレスの兵器保有を認めるとお墨付きをもらいました」
 その件は先日スイが直接エトにも伝えたので、カミッロも聞いているはずだ。
「抑止力にはならない可能性が高いですが、カードとしていちおう最初に切ってもらおうと思います。いずれにしても兵器の存在は里が公表するでしょうし」
 このタイミングで公表しなくても、マーラルの兵器の脅威がなくなれば、里の矛先はリザレスに向かう。里はリザレスが兵器を保有していることを公表し、兵器を受け渡さない限り、魔珠の輸出停止を宣言するだろう。
「魔術兵器の存在は、ヌビスを思いとどまらせることはできなくても、マーラルの上層部やマーラル軍にとっては脅威になり得るでしょう。ヌビスを排除できれば、その後の交渉がやりやすくなります」
「それもそうだな」
 キリトの言葉にカミッロは理解を示した。
「そういう前提で動けるようにしておこう。ところで」
 不安に思っていたことをわずかながら共有できて少し安堵した様子でカミッロは続ける。
「君たちも知ってのとおり、戦争になったら、基本的にリザレス軍は私の指揮する戦闘部隊とレヴィリンの指揮する魔法部隊に分かれて行動する。だが、現地での総指揮権は戦闘部隊隊長が持つ。つまり全体の作戦は私が統括して進めていかなくてはならない」
 実際には、魔法部隊の作戦の立案はレヴィリンがすることになるが、それを組み入れながら全体の作戦を考え、指揮していくことになる。
「スイ、戦争が始まれば君も何らかの役割を担って行動するのだろう。どう立ち回るのかは無論君に任せることになるのだが、もし戦闘部隊の一員として動いた方が動きやすいようであれば、戦闘部隊内に必要な席を用意できる」

次回更新予定日:2020/09/19

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速い。
 二人の動く速さはやはり異次元だ。あんなに大きな動きをしてもすぐに有利な体勢に持っていって反撃の構えが取れる。
 スイの攻撃を跳んで交わしてそのまま上から斜めに猛烈な素速さで斬りつけてくる。勢いのあるいい攻撃だ。スイは先に剣の軌道を一瞬で読み取って両手で大きく弾いた。予想よりもかなり後ろの地点への着地となったが、目の前に襲いかかってきたスイの一振りには何とか対応する。しかし、次の一撃は防ぎようがなかった。
「やはり強いな」
「先生も以前手合わせしたときよりも強い印象です」
 さすがに二人とも呼吸が乱れていた。互いにこんな強い相手と手合わせする機会はそうそうない。手は一切抜いていなかった。少なくともキリトにはそう見えた。
 そのあと、交替しながら二、三戦交えた。
「少し休憩しようか」
 気持ちのいい風が吹いてきた。中庭の隅の木陰にテーブルと椅子があった。飲み物も用意されていた。席に着くと、お茶を勧められるまま一口飲んだ。
「それで先生。何のお話をすればいいですか?」
 カミッロはにやりと笑った。
「お互い難しい立場になったからな。個人的に自宅に招待するには理由が必要だろ。久しぶりに手合わせしてみたくなったというのは嘘ではないが」
 そう言って少し身を乗り出す。
「取りあえずまずこちらの話を聞いてもらおうかな」
「喜んで」
 キリトが大げさにどっしりと構える。かつての恩師を前に大した態度だ。カミッロは頼もしい限りの教え子に微笑むと、話を切り出した。
「陛下から兵器のことを明かされてね。まあ隣国が兵器の開発に成功しそうだったわけだから対抗手段として持てるものなら持っておくというのは戦略的には妥当だ」
 かなり強引なやり方ではあるが、とスイは心の中でつぶやいた。〈器〉にされた魔術師たちが経験した苦痛については、リザレス王エトもカミッロも真実を聞かされていないのだろう。一人の魔術師が〈器〉になることによっていくつの魔結晶が生成され、その魔術師が魔力と体力を削られ、回復のために一定の休養期間が必要だという客観的な数字の羅列による報告は無論国王として聞いている。だが、開発の継続のために都合の悪くなりうる報告をレヴィリンがわざわざするはずもなく、実際研究所の魔術師たちはそのことについて一切語ろうとしなかった。研究所内部で情報統制が敷かれていると考えるのが自然だ。
「遅かれ早かれ里はマーラルへの魔珠の輸出を中止するだろう。マーラルは魔珠を求めて他国に侵攻する。陛下は魔術兵器を保有していることを公表してマーラルがリザレス以外の国に矛先を向けさせるようにしようとお考えだ」

次回更新予定日:2020/09/12

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