魔珠 第7章 リザレス魔術研究所(1) 疑う理由1 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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自宅に戻ると、いつもどおりシェリスが迎えてくれた。
「お帰りなさいませ。おや、お二人ご一緒で」
 シェリスが扉を閉めると、メノウが口を開いた。
「実はさっき一回ここに来て君が出かけてるって聞いて町に出たんだ。荷物もシェリスに預けてあるんだ」
「そうだったのか」
 いつもの魔珠の取引や情報交換に使う部屋にメノウを迎える。二人示し合わせたようにソファに腰かけると、スイが早速切り出した。
「で、どちらから質問しようか」
「君からでいいよ」
「では」
 なんとなくスイもその方が良いような気がしていたので、遠慮なく訊ねた。
「なぜ魔術研究所に?」
 質問の内容は予想していたはずだと思ったが、なぜかひと呼吸置いてからメノウは話し出した。
「実は」
 メノウの表情が曇る。
「リザレスが魔術兵器を開発しているんじゃないかって疑いがかけられているんだよ」
 驚いた。もう里は事態を把握している。
「それで君と話したいと思ってここに来たんだけど、出かけているって聞いて。ここで待っているよりも少しでも情報が仕入れられるかもしれないと思って」
 なるほど。行動派のメノウらしい。
「君は?」
「知人が失踪して。知人宅の周辺を見張っていた者を尾行していたら研究所にたどり着いたんだ。それで所内に監禁されているのではないかと思って探っていたんだ」
 話す情報を瞬時に取捨選択して、スイは適切と思われる情報だけを提示した。
「失踪? その人、どういう人なの?」
「政務室の人間だ」
 メノウは何か火投げ込むようにしていたが、スイがそれを遮った。
「メノウ、リザレスの輸入量ではどうやっても兵器を作ることは不可能だ。それでも疑う理由は何だ?」
「レヴィリン博士の『魔珠から効率的にエネルギーを抽出する方法』。理論くらいは知ってるよね」
「魔珠を溶かす魔法水の濃度を上げると、抽出できるエネルギー量が増える」
「そう。それ」
 レヴィリン博士を天才と言わしめた論文。この技術によって一つの魔珠から抽出できるエネルギー量が一割ほど上がった。貴重な魔珠という資源の消費量が大幅に節約できたことは輸入国のリザレスにとってだけではなく、資源が無限ではない以上、長い目で見れば輸出する里にとっても、そのメリットは大きい。

次回更新予定日:2019/10/05

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