魔珠 第6章 疑惑(5) アリサの訪問 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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それからひと月は外務室に持ち込まれたマーラルを始めとする周辺諸国の情報の分析に努めたが、目立った動きはなかった。
 いつものように剣術の鍛錬をしていると、休日の早朝だというのにシェリスに来客を告げられた。
「アリサさんが?」
「はい。ひどく慌てておられてハウル様がこちらにお見えになっていないかと。お見えになっていないとお答えすると、スイ様に会わせて欲しいとおっしゃって。応接室でお待ちです」
「ありがとう。すぐ行く」
 あのアリサが慌てているとは珍しい。なぜハウルがここに来ていないかなどと思ったのだろう。スイは剣を近くの柱に立てかけて急いで応接室に向かった。
「アリサさん?」
 ドアを開けながら声をかけると、ソファに腰かけて待っていたアリサはすっと立ち上がった。
「やはりハウルは来ていないのね」
 気丈に振る舞ってはいるが、その目に不安の色が浮かんでいるのをスイは見逃さなかった。鋭いアリサはそれに気づいたのだろうか。大きく息を吐き出して緊張を解くと、落ち着いた足取りでスイの方に歩み寄った。
「昨晩、あなたに話したいことがあるからここに来るって出ていったのよ。そして、朝までに帰らなかったら、これを渡すようにと」
 アリサは大切そうに抱えていたバッグから封筒を取り出してスイに渡した。
 帰らなかったらなどと言われてこんなものまで渡されたのだ。ハウルが危険なことに首を突っ込んでしまったことに聡明なアリサが気づかないはずがない。それでもハウルはアリサを信じてこの手紙を託した。そして、アリサもその信頼を裏切らず、何も言わずにハウルを見送った。
 事情を話さなかったのは、アリサや子どもたちに危険が及ばないようにしたかったからだろう。スイは封を切り、アリサに見えないように中に入っていた手紙を一読してすぐに封筒に戻した。
「アリサさん」
 スイはアリサの方に手を載せた。
「私はこれからキリトとどうするか相談します。アリサさんもお子さんを連れて一度ご実家の方に来てください。時間を決めておきましょうか」
「そうね。二時頃でどうかしら? 今日はお父様から夕食会にお呼ばれしているという設定。でも、ハウルが戻ってこないから泊めてもらうことにするわ」
 毎度アリサの頭の回転の速さには感心させられる。提案しようとしていたことが全て先読みされていた。スイは仕方なく苦笑した。
「では、キリトにそうしてもらえるように伝えておきます」

次回更新予定日:2019/08/31

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