魔珠 第6章 疑惑(9) 追跡2 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「これは失礼いたしました、お嬢様」
 まだ四歳なのにちゃんとレディ扱いしてエスコートしろということか。なかなかのおませさんだ。しっかりしている。アリサも小さい頃はこんな感じだったのではないかと勝手に想像してスイはくすっと笑った。
 キリトが手を差し出すと、当たり前のような顔をして手をそっとおいて何の躊躇もなく飛び降りた。
「よく来てくれたね」
 マノンの頭も同じように撫でてやると、すっかり機嫌を直したらしく、笑顔になった。すぐに姉にも手を差し出す。
 尾行は突撃していく気配はない。
「おじいちゃんとおばあちゃんも待ってるよ」
 二人の子どもと手をつないだキリトの後ろ姿を見送る。家の中に四人が入ると、見張っていた人影が動き出した。スイは尾行することにした。
 黒いローブをまとった尾行の魔術師は、アリサの家の方には戻らなかった。大通りを横切ると、そのまま小さな通りを何度も右左折した。魔術研究所の方向でもない。大通りからはどんどん離れていく。やがて人通りのない場所に同じような黒いローブの魔術師の姿を見つけて、アリサがクラウス邸に移動したことを報告する。そのまま二人は別れ、尾行の魔術師の方は来た道を戻り始めた。
 スイは方向を受けた方の魔術師に尾行の標的を替えた。思ったとおり、魔術研究所にたどり着いた。
 魔術研究所には、平日の昼間は部外者も訪れるため、他の施設と同様に守衛が入口にいて、その場所で受付をして入る。特に図書室や資料室は一般にも開放されていて、研究所以外の魔術師や学生が多く利用するため、入口の扉は開いている。だが、今日は休日だ。守衛はいない。おそらく施錠されていて、用のある関係者が持っている鍵を開けて入ることになっている。
 魔術師は門から敷地内に入った。門には鍵がかかっていない。すでに研究所内に一人がいるということだ。魔術師が中庭の中央付近に差しかかった頃合いを見て、スイは門のすぐ横に誰かを待っているような振りをしてもたれかかる。通り側には人の気配はないが、念には念を入れておく。
 建物の入口に来ると、魔術師はそのまま扉を開けて中に入っていった。鍵はかかっていないらしい。スイはそのまま壁の外側を走っていった。建物の横に差しかかったそのときだった。違和感を覚えてスイは立ち止まる。
 結界?
 建物の壁に結界が張り巡らされている。夜間や休日に研究所の前を通ったこともあったが、今までこんなことはなかった。平日も結界が張られている場所はあるが、それは部外者が付き添いなしで立ち入ってはならない地下につながる階段の降り口だけだ。やはりハウルはこの建物にいる。脱出されたり誰かに侵入されたりするのを警戒しているとしか思えない。
 スイは建物の内部に侵入するのをあきらめ、壁伝いに建物の裏側に移動する。こちらの壁は建物に近い。そのまま建物の中央、つまり先ほどの魔術師が入った扉の方に向かう。
 中央にたどり着く前にかすかな揺らぎのようなものを感じて神経を集中させる。揺らぎは今来た方向、つまり東側に移動していた。どうやら結界を構成している魔力が、魔術師の魔力を引きつける力に反応しているらしい。入口の扉の正面が上り階段になっているのに対し、東側には地下に下りる階段がある。
 地下に下りたのだろう。少し揺らぎの反応が遠くなる。また建物の中央付近に戻ってくる。中央付近を通り過ぎたところで、非常に大きな揺らぎを感じる。上の方だ。この上の三階には確か所長室があったはずだ。ということは、所長のレヴィリンもここにいるということか。
 そのとき、スイは別の気配を感じて東側に戻る。東の壁と交差するところで、相手の様子をうかがう。東の壁にぴたりと貼りつくように近づいてくる。向こうはこちらの存在に気づいていない。
 角に近づいたとき、相手はスイの気配に気づいたらしく逃げる素振りを見せたが、スイが手首をひねりながら引き寄せ、口をふさいでしまう方が早かった。相手は抵抗しようと一瞬力を入れたが、すぐに抜いた。スイも相手の顔を見て驚きの表情を見せた。
 メノウだった。
 スイはメノウの手を引いたまま研究所を離れて人気のない裏道に向かった。誰もいないことを確認して初めて口を開く。
「メノウ。なぜあんなところに」
「スイこそ」
 しかし、会話は続かなかった。
「分かった。うちで聞こう」
 ここでは話しにくい理由がメノウにもあったのだろうと察し、スイが提案すると、メノウもうなずく。スイもここでは事情を話しにくい。
 スイは尾行を切り上げて、一度メノウと自宅に戻ることにした。尾行するという段階で予定外の行動で、その後もほったらかしで時間が経過しているので、キリトに先に報告をしに行きたかったが、こうなった以上は仕方がない。キリトとは長いつき合いだ。ある程度は察して気長に待ってくれるだろう。

次回更新予定日:2019/09/28

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