魔珠 第7章 リザレス魔術研究所(6) 書庫1 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「そうか」
 キリトは反射的に短く返して顔を上げた。スイと目が合ったとたん、驚きの表情を浮かべる。
「スイ、お前……泣いているのか?」
 訊かれてスイは初めて視界がぼやけていることに気づく。長い指で頬に触れてみた。濡れている。
 メノウが泊まらないと言ったことがこんなにショックだったのか。メノウに距離を置かれることがこんなに不安だったのか。いや。不安だ。先が見えない。どうなるのか分からない。自分の力で何とかできるという自信がない。この先に、メノウの力になりたいと願う自分を阻もうとするものがある。それがあまりにも大きくて漠然としていて越えられるという自信がない。
「先のことまで考えすぎだ、スイ。状況は刻一刻と変化するんだ。いつもどおり目の前で起きたことを一つ一つやっつけていこう」
「そうだな」
 スイは涙を拭いて笑顔を作ってみた。表面だけでも取り繕って最初になすべきことを考える。時間がない。
「明日、研究所の書庫に行ってみる。もう一度レヴィリンの論文を読んでみたい。何か真相に近づく手がかりがあるかもしれない。ついでに研究所内の様子も見てくる」
 できれば、明日の夜にでもハウルを救出したい。そのための下準備の一つだ。
「そうこなくっちゃ。協力できることがあったら何でも言ってくれ。できることはあまりないかもしれないが」
 キリトがいてくれる。それだけで力になる。キリトが外務室長だからこそ動きたいように動ける。キリトという相談相手がいてくれるから難しい任務のプレッシャーも一人で背負わずに済む。
「充分だよ。ありがとう」
 これから実行すべき任務に不安はない。メノウのことだけが不安だった。

 翌朝、スイは朝一番で魔術研究所に向かった。門から中庭に入ったが、閑散としていた。まだ時間が早いせいか、スイ以外に人影はなかった。
 平日の昼間ということで入口の扉は開いていた。入ると、すぐ右手に受付がある。
「おはようございます」
「スイ様。おはようございます。今日はどのようなご用件でしょうか」
 受付の魔術師が応対する。これまでも何度も調査や実験の見学、魔珠関係の蔵書の閲覧など用があって来ているので、顔は覚えられている。
「書庫で調べものをしたくて」
「もう鍵も開いておりますので、そのままいらしてください」
「ありがとうございます」
 魔術師が帳簿にスイの名前と訪問目的を書いている。

次回更新予定日:2019/11/09

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