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「こう見えても今ではそこそこ名の通った貿易商なんだ」
グラファトの父親は士官学校を受験させるつもりで知り合いのセイラムにグラファトの剣術の指導を依頼したのだが、グラファトは商売に興味を持ち、結局その道に進んだ。その後、めきめきと才能を開花させ、独立し、自分の船を持つようになり、周辺各国からも信頼される貿易商に成長した。
スイはグラファトの空いている方の手を握った。
「協力感謝するよ」
「こちらこそ。この海が平和でないとこちらも商売にならないしな」
グラファトは相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべている。
「それにお前に頼まれたら断れないもんな」
グラファトが豪快に笑うと、スイも目を細めた。
「こんなところで悪いが、港に着くまで辛抱してくれ」
ランプを木箱の上に置いて、グラファトは部屋の入口の方に戻った。ブランケットを脇に抱えて持ってきて二人に渡す。
「港に着いたら知らせに来るから、すぐに降りてくれよ。積み荷下ろし始める前に出てもらわないと邪魔になるから」
「ありがとう」
スイがブランケットを受け取ると、グラファトは部屋を出た。
「最初からこの船に乗るつもりで動いていたんだ」
メノウは感心しながら、元の位置に座って木箱に寄りかかった。
「そうでなければ、あんなこと怖くてできない」
スイは笑った。
「クラークに着くまでに眠れたら少し眠っておくといい。すぐにマシュー行きの船に乗れるように手配してあるから」
「そこまでしてくれているんだ」
マシューはリザレスの北に位置する国、パウンディアの北部の港町だ。
「リザレスからは早く離れた方がいいだろ」
スイがリザレス人であることが知られている以上、マーラルが手がかりを求めて追っ手を送り込む可能性もある。リザレス国内でスイに手を出すのは難しいだろうが、外国人であるメノウであれば、見つけてうまく連れ戻しても足跡が残りにくい。長くクラークに留まれば、それだけ目撃情報が多くなる。メノウの足取りをつかみにくくするためにも迅速に行動した方が賢明だ。
「そうだね。一度里にも戻らないといけないし」
スイはうなずいて、優しくメノウにブランケットをかけた。メノウは両手でブランケットを首までたぐり寄せた。ふんわり温かい感触がして、初めて体が冷えていたことに気づく。
隣にスイが座って、左上半身を木箱にくっつけた。ブランケットを胸までかけてメノウに微笑むと、そのまま目を閉じた。しばらくはその顔を眺めていたはずだったが、疲れが出たのか、メノウもいつの間にか眠っていた。
メノウが目を覚ましたのは、横から呻き声が聞こえたからだった。
「スイ?」
右胸を押さえて歯を食い縛っている。この反応、先ほども見た。呪術が発動している。
「心配、いらない……すぐ、治まる」
吐き出すように言うと、スイはすぐに短い呻き声を上げた。右胸を押さえていた手に力が入る。呻き声が不規則な呼吸に変わる。
思考できる程度に苦痛が和らぐには少し時間を要した。
久しぶりだ。もう忘れかけていたのに。この呪術が体に刻み込まれたときの記憶を忠実に再現する夢。そして、その記憶を思い起こすたびに現実でも発動する呪術。
再発するなんて。
乱れる呼吸を整えながら、スイは心の中で苦笑した。
次回更新予定日:2019/07/27
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グラファトの父親は士官学校を受験させるつもりで知り合いのセイラムにグラファトの剣術の指導を依頼したのだが、グラファトは商売に興味を持ち、結局その道に進んだ。その後、めきめきと才能を開花させ、独立し、自分の船を持つようになり、周辺各国からも信頼される貿易商に成長した。
スイはグラファトの空いている方の手を握った。
「協力感謝するよ」
「こちらこそ。この海が平和でないとこちらも商売にならないしな」
グラファトは相変わらず人の良さそうな笑みを浮かべている。
「それにお前に頼まれたら断れないもんな」
グラファトが豪快に笑うと、スイも目を細めた。
「こんなところで悪いが、港に着くまで辛抱してくれ」
ランプを木箱の上に置いて、グラファトは部屋の入口の方に戻った。ブランケットを脇に抱えて持ってきて二人に渡す。
「港に着いたら知らせに来るから、すぐに降りてくれよ。積み荷下ろし始める前に出てもらわないと邪魔になるから」
「ありがとう」
スイがブランケットを受け取ると、グラファトは部屋を出た。
「最初からこの船に乗るつもりで動いていたんだ」
メノウは感心しながら、元の位置に座って木箱に寄りかかった。
「そうでなければ、あんなこと怖くてできない」
スイは笑った。
「クラークに着くまでに眠れたら少し眠っておくといい。すぐにマシュー行きの船に乗れるように手配してあるから」
「そこまでしてくれているんだ」
マシューはリザレスの北に位置する国、パウンディアの北部の港町だ。
「リザレスからは早く離れた方がいいだろ」
スイがリザレス人であることが知られている以上、マーラルが手がかりを求めて追っ手を送り込む可能性もある。リザレス国内でスイに手を出すのは難しいだろうが、外国人であるメノウであれば、見つけてうまく連れ戻しても足跡が残りにくい。長くクラークに留まれば、それだけ目撃情報が多くなる。メノウの足取りをつかみにくくするためにも迅速に行動した方が賢明だ。
「そうだね。一度里にも戻らないといけないし」
スイはうなずいて、優しくメノウにブランケットをかけた。メノウは両手でブランケットを首までたぐり寄せた。ふんわり温かい感触がして、初めて体が冷えていたことに気づく。
隣にスイが座って、左上半身を木箱にくっつけた。ブランケットを胸までかけてメノウに微笑むと、そのまま目を閉じた。しばらくはその顔を眺めていたはずだったが、疲れが出たのか、メノウもいつの間にか眠っていた。
メノウが目を覚ましたのは、横から呻き声が聞こえたからだった。
「スイ?」
右胸を押さえて歯を食い縛っている。この反応、先ほども見た。呪術が発動している。
「心配、いらない……すぐ、治まる」
吐き出すように言うと、スイはすぐに短い呻き声を上げた。右胸を押さえていた手に力が入る。呻き声が不規則な呼吸に変わる。
思考できる程度に苦痛が和らぐには少し時間を要した。
久しぶりだ。もう忘れかけていたのに。この呪術が体に刻み込まれたときの記憶を忠実に再現する夢。そして、その記憶を思い起こすたびに現実でも発動する呪術。
再発するなんて。
乱れる呼吸を整えながら、スイは心の中で苦笑した。
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