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「今日はメノウが来る日らしいじゃないか」
キリトがにやにやしながら近づいてくる。
「ああ」
スイはそっけなく答えた。
「何だよ。本当はめちゃくちゃ嬉しいくせに。かわいくねえヤツ」
メノウは魔珠の売人だ。火を焚くにも明かりをつけるのにも魔法を使っていたこの時代、魔力の源となる魔珠は人々の生活に不可欠なものであった。大がかりな魔法が使える者はもうすでに専門の術士だけになってしまったが、普段の生活に必要なちょっとした魔法はまだ誰でも使えた。
しかし、魔珠は貴重品であった。魔珠の里と呼ばれる誰も知らない場所で、製造されているのか採掘されているのか、それさえも分からない。里に住む一族だけが知っている。里の住民は外部に出ることを許されず、掟を破った者は容赦なく暗殺される。外部に出てもよいのは魔珠の売人や諜報活動をする者など一部の者だけだった。メノウはその責任者であり、唯一魔珠の取引を許された人物であった。ここリザレス王国の魔珠担当官はスイ。スイもまた、リザレスでは唯一魔珠の交渉窓口となることを里の者たちから許可されている人物というわけだ。
「なあ、せっかくなんだからメノウべろんべろんに酔わせて里のありかでも聞いとけよ」
「バカ言え。あいつと飲んでいたらこちらの方が先に倒れる」
「ほう。酒豪のスイ様にそんなふうに言われるとは奴さんもなかなかだね」
先ほどからスイをからかっているキリトはこれでもリザレスの外務室長だ。スイは任務の性質上どの機関にも属していないのだが、表向きは外務室所属になっていて、キリトの部下ということになっている。また、必要なときキリトの部下を使わせてもらうこともある。このようにたわいない会話が弾むのは、二人が士官学校で同期だったためである。
「お前に酒豪と呼ばれる筋合いはない」
冷たく突き放すと、スイは必要な資料を持って部屋を出ていった。
「顔はいいのに」
「ああ。性格が悪い。パーティーのときキャーキャー言っているご婦人方に教えてやりたいよ、まったく」
部下に同意して、キリトも席に戻った。
少し早めに外務室のある王城を出て、スイは私邸に戻った。
私邸は王都クラークの、城から比較的近い場所。貴族が多く住む地域の一角にあった。
扉の横ですでに執事のシェリスが待っていた。
「お帰りなさいませ」
扉を閉めると、シェリスは言った。
「メノウ様が到着されてます。応接室でお待ちです」
次回更新予定日:2018/08/11
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キリトがにやにやしながら近づいてくる。
「ああ」
スイはそっけなく答えた。
「何だよ。本当はめちゃくちゃ嬉しいくせに。かわいくねえヤツ」
メノウは魔珠の売人だ。火を焚くにも明かりをつけるのにも魔法を使っていたこの時代、魔力の源となる魔珠は人々の生活に不可欠なものであった。大がかりな魔法が使える者はもうすでに専門の術士だけになってしまったが、普段の生活に必要なちょっとした魔法はまだ誰でも使えた。
しかし、魔珠は貴重品であった。魔珠の里と呼ばれる誰も知らない場所で、製造されているのか採掘されているのか、それさえも分からない。里に住む一族だけが知っている。里の住民は外部に出ることを許されず、掟を破った者は容赦なく暗殺される。外部に出てもよいのは魔珠の売人や諜報活動をする者など一部の者だけだった。メノウはその責任者であり、唯一魔珠の取引を許された人物であった。ここリザレス王国の魔珠担当官はスイ。スイもまた、リザレスでは唯一魔珠の交渉窓口となることを里の者たちから許可されている人物というわけだ。
「なあ、せっかくなんだからメノウべろんべろんに酔わせて里のありかでも聞いとけよ」
「バカ言え。あいつと飲んでいたらこちらの方が先に倒れる」
「ほう。酒豪のスイ様にそんなふうに言われるとは奴さんもなかなかだね」
先ほどからスイをからかっているキリトはこれでもリザレスの外務室長だ。スイは任務の性質上どの機関にも属していないのだが、表向きは外務室所属になっていて、キリトの部下ということになっている。また、必要なときキリトの部下を使わせてもらうこともある。このようにたわいない会話が弾むのは、二人が士官学校で同期だったためである。
「お前に酒豪と呼ばれる筋合いはない」
冷たく突き放すと、スイは必要な資料を持って部屋を出ていった。
「顔はいいのに」
「ああ。性格が悪い。パーティーのときキャーキャー言っているご婦人方に教えてやりたいよ、まったく」
部下に同意して、キリトも席に戻った。
少し早めに外務室のある王城を出て、スイは私邸に戻った。
私邸は王都クラークの、城から比較的近い場所。貴族が多く住む地域の一角にあった。
扉の横ですでに執事のシェリスが待っていた。
「お帰りなさいませ」
扉を閉めると、シェリスは言った。
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