魔珠 ヴィリジアン 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「偽の情報を流す狙いは何?」
「例えば、偽の情報のあった村にお前たちが討伐に行っているその隙に他の村をヴァンパイア化できる」
 思いがけない答えにグレンは動揺する。
「村がヴァンパイア化するのはヴァンパイアになった村人が他の村人を吸血した結果じゃないの? 上級ヴァンパイアはただ人間の血が必要だから吸血するだけで、村をヴァンパイア化しようと思ってしているわけでは」
「ないと言い切れるか?」
 誘導しようと思っていたグレンが押し黙る。エストルはすでに真実に近づいている。
「上級ヴァンパイアは全ての人間をヴァンパイア化し、この世界を支配しようと考えているのではないか。そんな気がしてならないんだ」
「そのこと、誰かに話した?」
 グレンががたっと身を乗り出して聞く。すると、エストルはかすかに苦笑した。
「まさか。お前にしか話せないよ。こんなこと」
「そう、だよね」
 ほっとグレンは胸を撫で下ろす。
「ヴァンパイアの出現情報も増えてきている。お前の言うように間違った情報が増えてきたという可能性は充分ある。ただ」
 エストルの鋭く刺すようなまなざしが急に穏やかになる。
「いろんな可能性を考えて行動して欲しいんだ。お前には」
「心配してくれてるの?」
「それもある。だが、それよりも……頼りにしているんだ」
「……ありがとう」
 グレンはくすっと笑った。嬉しかった。ずっと尊敬しているエストルに頼りにされるなんて。

「なるほど」
 グレンは謁見の間でただ一人報告を行った。ここしばらく三人揃っての報告が続いていたが、この日は久しぶりに一人での報告となった。あとの二人はまだ戻っていないということだ。国王セレストはグレンの報告を興味深そうに聞いていた。
「エストル、これで三度目だ。どう思う?」
「ヴァンパイアに関する情報の件数が増えて混乱が生じているのではないかと。情報収集や分析の方法を再検討するように情報部に指示いたしました」
「そうだな。グレン、お前はどう思う?」
「私も同じ考えです。ヴァンパイアの噂は至る所で聞かれるようになりました。真偽を見極めるのは難しくなってきているのではないかと」
 グレンはエストルに同意した。セレストは少し考え込むようにして口を開いた。
「分かった。しばらくそれで様子を見よう。グレン、次の任務だが」
 グレンはどきっとした。もうこれは発作のようになっている。
「インディゴ鉱山の奥で失踪事件が起こっている。魔獣に襲われた可能性があるので、調査して欲しいとのことだ。魔獣であれば、討伐してきて欲しい」
 魔獣討伐と聞いて少し落ち着く。グレンの表情を見てエストルは眉をわずかに動かした。
「詳細はエストルに聞くといい」
 グレンは一礼して退室した。

次回更新予定日:2015/11/14

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「こんにちは。お泊まりですか?」
 もう今晩だけ泊まって明日の朝帰ろう、と思って宿屋に入る。宿屋の主人はやはり何事もなかったかのように笑顔で声をかけてくれる。
 ヴァンパイア化したのだから、ヴァンパイアに村が襲われたはず。そのときの記憶は抜けているのだろうか。
「最近のお客さんはみんな武器を持ってますね。物騒な世の中になったものです」
 世間話を振られてグレンは切り返してみた。
「この辺でヴァンパイアを見かけたという噂を聞いて来たのですが」
「お客さん、ヴァンパイアハンターですか? 残念ですが、それはガセですね。ヴァンパイア騒ぎも魔獣騒ぎもない平和な場所ですよ。この辺は」
「そうですか」
 釈然としない顔でグレンは考え込む。
「まあ、ゆっくり休んでいってください」
 カウンター越しに宿屋の主人が微笑む。
 そうしよう。取りあえずゆっくり休んで城に戻って報告しよう。何もなかったと。

「またか」
 いつものようにエストルの部屋でコーヒーをすすりながら、報告をする。シャロンに言われたようにアウルでは何もなかったと。エストルは表情一つ変えずに感想を述べた。
「これで三度目だな。お前はどう思う?」
「間違いだったんじゃない? そういうこともあるよ」
「そうなんだが……誰かが意図的に偽の情報を流していたりはしないだろうか」
「だとしたら?」
 グレンはエストルがどう考えているのか知りたかった。
「いや。可能性の一つとして言ってみただけだ。今までこんなことはなかった。それがこの数ヶ月で立て続けに三回だ。何か私たちの知らないところで状況に変化があったのか、そう考えるのは不自然か?」
 極めて自然だ。グレンも同じように考えただろう。そして、おそらく他の王騎士たちもそう思っているに違いない。あるいはセレストも。シャロンのこと、そしてシャロンの剣のことは明かせない。ウィンターの話が真であれば、セレストはゲートの封印を解いてヴァンパイアをムーンホルンに招き入れた張本人なのだ。エストルはセレストの異常に真っ先に気づいた。エストルを信用して決して口外しないようにという条件で打ち明けても危険はないように思えた。だが、それはまだ時期尚早なのではないかとグレンは考え直した。まだシャロンについてもシャロンの剣についても情報が少なすぎる。自分でも状況が把握できていない。ただ、エストルの誤った推測に乗って誤った誘導をすれば、シャロンが自由に動けるようになる。ヴァンパイア化した村を救える。ここはエストルの仮説を利用してみようとグレンは考えた。

次回更新予定日:2015/11/07

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「これで全部かなあ」
 カチンと女性が指を鳴らすと、ヴァンパイアたちは何事もなかったかのように目を覚まし、起き上がる。
「あれ、俺、なんで?」
 起き上がったヴァンパイアたちは言葉を発した。目が下級ヴァンパイアに特有な虚ろな目ではない。はっきりと意志が感じられる目だ。
「どういう、ことなの?」
「元どおりになっただけよ」
 あっさりと女性は答えた。
「じゃ、またどこかで会ったらよろしくね、王騎士さん」
「待って!」
 一歩踏み出そうとした女性を呼び止める。聞きたいことは山ほどあるが、答えてもらえるとは思えない。いちばん当たり障りのなさそうな質問をぶつけてみる。
「名前は?」
「シャロン。あ、そうそう。何もなかったことにしておいてね」
 笑顔で答えて去っていった。
 青緑の瞳。なぜグレンが王騎士であることを知っているのか。そして、何よりもその行動。
 元どおり。
 グレンは人々が何となく落ち着いていくのを待って、村に立ち寄った冒険者の振りをして町を歩き回った。
 先ほどまでヴァンパイアだった村人は元の普通の人間に戻っていた。アウルは元の普通の村に戻っていた。
 おかしい。何もかもおかしい。
 なぜヴァンパイア化したはずの村人たちが元に戻ったのか。そんなことができるのか。そんな話しは聞いたことが。
 いや。待てよ。
 ヴァンパイア化したということで行ってみると、何事もなかったかのようにいつもどおりの暮らしをしている村。情報が間違っていたのではなく、王騎士たちが行く前に元どおりに戻っていたとは考えられないか。
「その剣で斬っちゃだめ!」
 とシャロンは言った。シャロンの剣で斬ったヴァンパイアは倒れた。そして、目覚めてこうして普通の村人に戻って元の生活に戻っている。ヴァンパイアだった面影はない。シャロンの剣。あの剣には特別な力が宿っている。

次回更新予定日:2015/10/31

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グレンは重い足取りのままアウルを目指した。
 この剣でまた何の罪もない人を斬るのか。
 空はどんよりと曇っている。空気は何となく淀んできているような気がする。嫌な空気だ。ヴァンパイア化した村から漂うこの特有の空気。
「あれか」
 村が見えてくる。通りをふらふらとヴァンパイアたちが彷徨っている。
「失礼!」
 後から人影がグレンを追い抜いてゆく。
「お、おい!」
 戸惑いで一瞬足がすくんだせいで出遅れた。走って追いかけようとしたが、相手は木に飛び乗ってジャンプしたり、再び血を駆け出したり、とても普通に追いかけられるようなスピードと身のこなしではなかった。後ろ姿を見ると、ポニーテールの若い女性のようだった。とにかく無我夢中で後を追った。
「待って!」
 そのまま村に入り、速度を落とさず、鞘から剣を抜き、ヴァンパイアたちをばっさばっさと斬ってゆく。やっとのことで追いついたのは、女性が通りにいたヴァンパイアをあらかた斬り尽くした後だった。
「こんなところで何してるんですか!」
 さすがに少し息を弾ませながらグレンは尋ねる。よく見ると、まだグレンよりも若い女性だった。そして、まずその瞳に吸い込まれる。自分と同じ、不思議な青緑の色の瞳。
「見てのとおり。ヴァンパイアを斬っているの」
 そのときだった。横にあった建物の扉が急に開き、中からヴァンパイアが出てきたのだ。
「危ない!」
 グレンが斬りつけようとすると、
「キャー、待って!」
 と女性に先を越される。
「その剣で斬っちゃだめ!」
「何?」
「いいから、その剣はしまって」
 勢いに押されてグレンは言うとおりにする。女性は村中を捜索しながら見つけたヴァンパイアを次々と斬っていった。ヴァンパイアたちは声もなく、気を失って目を閉ざし、その場に倒れる。グレンは仕方なく黙ってついていった。

次回更新予定日:2015/10/24

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パイヤンにはゲートの封印を見張り、何かあったとき王都にすぐ連絡ができるように大きな神殿が設置してあり、神官長は神殿だけではなく、封印の管理も任されている。封印があるため、神殿は常時結界を張っている。
「そうか。これで少し街道に出没する魔物の数が減るかどうか様子を見るとしよう」
 本当に封印に異常がなかったのだろうか。ウィンターの話と食い違いがある。どうしても自分の目で確かめたい。しかし、今これ以上の行動に出れば怪しまれる。ここはいったん引き下がろう。
「ソフィア」
「はっ。ラッドの村に異常はありませんでした。村がヴァンパイア化したという情報は誤りだったようです」
「以前もこのような報告があったな」
「はい。三ヶ月前。テラという町でした。ソードを派遣しました」
 エストルが王騎士たちからの報告をその都度自ら記録している分厚いノートをめくりながら答える。
「何事もないようであれば、それはいちばんではあるが……情報が錯綜しているのだろうか」
「無事を確認することも意味のあることだとは思いますが。少なくとも徒労だったとは思いませんでした」
 首をかしげるセレストにソードはきっぱりと言った。
「周辺の町や途中の街道の様子を見ることもできますし、情報を得ることもできますし」
 同意したソフィアは苦笑いした。
「陛下、ラッドの酒場にいた冒険者たちからアウルという村がヴァンパイア化したという噂を聞きました」
「なんと」
 セレストは満足げに微笑んだ。
「我々もその情報を先ほど得たところだ」
 エストルが代わりに答える。
「では、早速次の任務だ。ソード、ソフィア」
「はっ」
「リティカ湖の周辺でヴァンパイアの目撃情報があった。二手に分かれて湖の周辺を捜索してくれ」
「はっ」
 短く答える二人の息はぴったりだ。
「グレン」
「はっ」
「お前はアウルに行ってくれ」
「……はっ」
 歯切れの悪い返事だった。村がヴァンパイア化しているということは、その村を浄化、つまり村人だったヴァンパイアを倒さなければならないということだ。気が重い。

次回更新予定日:2015/10/17

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