魔珠 ヴィリジアン 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「今だ」
 呟いてソードに斬りかかる。だが、ソードは攻撃魔法の威力でグレンを吹き飛ばした。グレンは宙返りして片足で地面を蹴ると、すぐさま剣で空を斬った。真空ができてソードに肩をかすめる。すると、目の前で光が弾けて無数の針のようになり、グレンに襲いかかってきた。グレンは慌てて結界を張り、攻撃が止むのを待った。針が全て消えたのを確認して結界を外し、剣を構えたそのときだった。ナイフのような鋭い光が飛んできてグレンの右腕を裂いた。血が滴り落ちる。グレンは治療しようとしたが、ソードの攻撃がすぐに飛んでくる。仕方なく跳んで避けて止血だけして反撃を続ける。
「すごい」
 度重なる爆音と光の飛び交う空間を凝視しながら、兵士たちは溜息をつく。
 ひときわ大きな爆音が鳴り響いて、二人は逆方向に吹き飛ばされる。二人は両サイドでターンしてそれぞれ膝をついて着地した。双方とも体に無数のかすり傷を負っていた。
「また腕を上げたんじゃない?」
 息を切らしながらグレンが言うと、ソードはくっと皮肉っぽく笑った。
「お前もな」
 ソードは大きな振りで巨大な光の球を作り、力を込めてグレンに投げつけた。グレンは勢いよく交わすと、そのすぐ後ろに二発目が見えた。
「そんなことだろうと思ってたよ」
 グレンは余裕の表情で二発目をはねのけた。しかし、それとほぼ同時にすっと鋭い閃光が耳鳴りとともにグレンの頭を貫いた。
「甘いな」
 衝撃で突き飛ばされて地面にしゃがみ込んだグレンにゆっくりとソードが近づいてくる。ゆったりとした足音が、こつ、こつ、と聞こえ、不吉な予感がする。
 ソードは立ち止まって左手を広げた。すると、それを合図に頭が激しく痛み出した。上級ヴァンパイアに襲われたときのように。
 グレンは苦痛に顔を歪め、頭を抱えた。ソードはゆったりとした足取りで後退しながら、整った指先を掲げ、グレンの体を中に浮かせた。頭痛が不意に消え、体から一瞬力が抜ける。ソードはそれを瞬時に確認し、ぱっと手を広げた。グレンの胴体から皮膚を貫き、絶叫とともに金色の枝が放射状に何本も生えてきた。血が飛び散り、滴り落ちる。グレンは吐血して、一瞬気を失いそうになったのを慌てて引き留めた。
「グレン将軍!」
 二人を見ていた群衆の中から、部下であるデュランが叫ぶ。それに通りかかったエストルが気づいて足を止める。
「グレン?」
 思わぬ光景を目にし、血の気がさっと引いた。だが、周りに兵士たちがいることを思い出し、すぐにいつもの冷静なエストルに戻る。エストルは無表情を装うように努力しながら、勝負の行方を見守った。

次回更新予定日:2016/04/16

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少し驚いているのだろうか。いつもそうするように眉がわずかに動いたような気がする。
「僕はね」
 答えは得られなかったが、それでも聞くだけでも聞いて欲しかった。こんな話を聞いてもらえるのも、やはりソードしかいなかったから。
「ヴァンパイアになったことを煩わしく思っていた。ずっと人間に戻りたいと思っていた。でも、この前上級ヴァンパイアと戦って思ったんだ」
 そう語るグレンの瞳は真っ直ぐソードを見た。
「例えばこれが運命のいたずらなら、ありがたく受け入れて利用させてもらおうと」
 毅然とした態度でグレンが言い放つ。
「なるほど。心を決めたか」
 無表情にソードは返した。
「でも、ヴァンパイアの力を手に入れた今でもまだ上級ヴァンパイアに敵わない。攻撃を跳ね返すのがやっとで一撃も食らわすことができないんだ」
 ソードは黙って聞いていた。すると、肩に置かれていたグレンの手に力が入った。
「僕は、もっと強くなりたい。ソード、一度本気で僕の相手をしてくれないか? 実戦と同じように、剣も魔法も何でもありで」
 一瞬ソードはグレンの真剣な表情をうかがったが、すぐにくっと笑って答えた。
「いいだろう。私も強くはなりたい。つき合おう」
 二人は訓練場に向かった。

 城の敷地内に兵士たちの利用できる訓練場がある。広い砂のグラウンドで、毎日多くの兵士たちが鍛錬する。
「ソード将軍、グレン将軍」
 二人が姿を現すと、他の兵士たちは一旦手を止めた。そして、訓練場の中心の方に向かって歩いていくと、それに合わせるように道を空けた。
 二人は距離を取り、向かい合わせに立った。二人の周りには広い空間ができていた。それを囲むように他の兵士たちが立っていた。突然の王騎士たちの出現に皆驚いていたが、誰一人としてその場を立ち去る者はいなかった。
「悪いね。僕たちも少し腕を磨かせてもらうよ」
 グレンは兵士たちに笑顔で言うと、建物に被害が出ないように大きく結界を張った。
「すごいぞ、王騎士同士の勝負が見られるなんて」
 兵士たちはすっかり観戦モードだ。
 間髪入れずにソードが閃光を放つ。グレンは凄まじいスピードで剣を抜いて、閃光を蹴散らした。結界にぶつかり、爆発音が鳴る。兵士たちが息を呑もうとした瞬間、次の攻撃が来ていた。立て続けに襲いかかる閃光を全てはねのけ、グレンは隙ができるタイミングを狙った。

次回更新予定日:2016/04/09

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「そうか。上級ヴァンパイアが」
 ムーンホルン国王セレストは、王騎士グレンの報告を聞いて目を閉じた。何か考え込んでいるような感じだった。
「上級ヴァンパイアが?」
 隣でソードが眉をぴくりと動かす。冷静なソードにしては結構な反応だ。
「応戦したのですが、敵の攻撃にやられてしばらく意識を失ってしまって。気がついたらもう姿はありませんでした。申し訳ございません」
 グレンは頭を下げた。
「良い。足取りがつかめただけでも大きな成果だ。魔獣の方はどうなった?」
「はい。意識が戻ったあと、付近を探索したのですが、どこにも姿が見当たらないのです。山を登ったり下りたりして巡回したのですが、やはり魔獣は現れませんでした」
「ヴァンパイアと魔獣には、やはり何か関係があるのでしょうか?」
 エストルが口を挟む。
 ムーンホルンには古くから土地に棲みついている魔獣がいる。洞窟や森の深部など人目につかない場所にいる。エリーのドラゴンのように魔剣を護っている魔獣もいる。だが、ヴァンパイアの出現とともにその数は急激に増えた。人目につくところにも現れるようになり、人が襲われる事件も多くなった。
「もしそうだとすれば、ヴァンパイアが現れたことが魔獣に何らかの影響を及ぼした可能性も考えられるのではないでしょうか」
「分からないな」
 セレストは呟いた。
「とりあえず手の打ちようがないので、また何かあったら連絡するように住人たちに伝えて戻って参りました」
 グレンの報告にセレストは頷いた。
「上級ヴァンパイアの件もあるので、少しエストルと話がしたい。次の任務は追って伝える。それまで城内で待機。いつでも連絡が取れるようにしておけ」
「はっ」
 グレンとソードは謁見室を出た。

 唇を外して傷に手を当てる。牙の痕は完全に消えた。
「ねえ、ソード」
 ソードはゆっくりと顔を下げ、グレンと目を合わせる。
「ソードはヴァンパイアになって強い力を得たことをどう思う?」
 ソードにしか聞けないことだった。同じようにヴァンパイアに吸血され、強い力を手にしたソードにしか。
「そんなこと考えたこともなかった」

次回更新予定日:2016/04/02

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グレン ムーンホルン王騎士

ソード ムーンホルン王騎士
ソフィア ムーンホルン王騎士

セレスト ムーンホルン国王
エストル ムーンホルン宰相

ウィンター 上級ヴァンパイアを追うテルウィング出身の冒険者
クレサック 元ムーンホルン王騎士。ウィンターの協力者
シャロン ヴィリジアンの使い手。クレサックの姪
 
クレッチ 上級兵士。グレンの部下
デュラン 上級兵士。グレンの部下

<002 追跡者> 男性の容姿を持つ上級ヴァンパイア
<003 告知者> 少女の容姿を持つ上級ヴァンパイア
<005 執行者> 男性の容姿を持つ上級ヴァンパイア

「幻覚を、見せられた」
「どんな?」
「すごく、怖い」
 鮮明な映像が脳裏をかすめる。グレンは手で顔を覆った。絶叫しそうになったそのとき、肩に手がかかった。
「よほど怖かったのだな」
 優しく声をかけられて、グレンは現実に戻る。
「先ほどの夢にも出てきたのではないか?」
 グレンは戻ってきそうな残像を意識の奥に追いやりながら頷いた。
「助けてやりたいが、こればかりは。記憶を封じるしか方法がない」
「それは困る。それに幻覚は僕が潜在的に恐れていたことが投影されただけだから、幻覚の記憶を封じてもそのイメージはなくならない」
「そうだな。<追跡者>の力で恐ろしい幻覚を見たという情報は、記憶から抹消しない方がいい。次会ったときにどのような攻撃パターンがあるか覚えておいた方が有利だ」
 それに、<追跡者>はその幻覚を現実にすると言った。忘れてしまってはそれを阻止しようと試みることさえできない。
「幻覚の内容は話さないのだな」
 どきっとする。
「いや。いつものお前なら自分からそこまで話すような気がしてな」
「思い出したくないんだ」
 事実だ。少しでも思い出せば、そのイメージが大きく膨らみ、リアルな感覚になる。だが、それ以上に幻覚の内容を他者に話すことはできなかった。自分がヴァンパイアであることを他者に知られるわけにはいかなかった。
「そうだな。少し魔力を分けておこう。回復の助けになるだろう」
 ウィンターはグレンの手を握った。優しい光がふんわりと現れ、二人の手を覆う。
「ありがとう、ウィンター」
 やっと安心した顔になってグレンは言った。
「歩けるようになったら麓に戻ろう」
「うん」
 グレンは目を閉じた。何だかいろいろなところが疲れているような気がした。

 夜、全ての公務が終わって自室に戻ると、客がいた。
「ご機嫌いかが、陛下?」
 セレストは暗闇にぼうっと浮かび上がった少女の姿を見つけ、そちらに歩いて行った。
「最近またよく頭痛がする」
 少女はくすっと笑った。
「それはいけないね」
 少女はセレストの額に人差し指を当てる。少女の金色の瞳が輝き、指からは不気味な光が放たれる。セレストは目を閉じた。
 光が消えると、セレストは聞いた。
「で、どうだった?」
「駄目みたい。やっぱり要塞を落とすには壁から壊していかないと」
「そうか」
「<002>は例えばグレンの部下なら何か知っているんじゃないかって言うんだけど」
 セレストは少し考え込むような素振りを見せた。
「最近グレンは単独行動が多いと聞いている。だが、確かに何か話を聞いている可能性はあるな」
「面白そうだし、とりあえずやってもらおうかな。ねえ、グレンの部下のことはあの人に聞けば分かるよね?」
 無邪気な笑顔で少女は聞く。
「そうだな。直接聞いてみればいい」
 少女は一礼して消える。セレストは何事もなかったかのように燭台に灯を点した。

次回更新予定日:2016/03/26

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