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緑色の瞳を開くと、知っている顔がぼうっと映る。
「グレン、私が分かるか?」
まだ思考回路がうまく働いていない。
「あ、僕……」
生きている。しかも意識もある。ヴァンパイアに血を吸われたはずなのに。
ソードが何も言わずにじっと顔を見つめながらグレンの手を取る。いつもは涼しい眼差しが心配そうにグレンを見ている。
「……ソード?」
「良かった。分かるのだな」
「ヴァンパイアは?」
不意に思い出してソードに聞く。
「逃げられた。大技を喰らわせて追い返すだけで精一杯だった」
「追い返した? ヴァンパイアを?」
やはりソードの実力は王騎士の中でも飛び抜けている。あのヴァンパイアを追い返したなんて。全く歯が立たなかったのに。
「その……何ともないのか?」
ソードがグレンに尋ねる。
「たぶん。今のところは何ともないみたい」
「そうか……」
「でも、ヴァンパイアに噛まれて何ともないなんてことあるのかな」
「それは……」
ソードはちょっと考えて決心したように口を開く。
「グレン」
「何?」
「これから話すことは、他の誰にも言わないで欲しい」
「言わないで、って……」
「いや、言っても支障はないのかもしれないが……ちょっと話してもいいものかどうかずっと迷っていることなんだ。だから、私が話すと決めるまで、他の人には話さないと約束してくれないか?」
「……分かった」
釈然としないものを感じながらもグレンは約束する。ソードはうなずいて話を切り出した。
「私も……小さい頃……ヴァンパイアに吸血されたことがあるのだ」
次回更新予定日:2015/07/04
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町から少し離れた場所にある墓地は、昔戦争でこの町が壊滅状態になったとき、その犠牲となった人たちが多く眠る場所だった。そこでゾンビが大量に発生したため、二人は墓地を封鎖し、結界を張り、その鎮静化を図った。
「向こうの方でも発生しているのかな」
グレンは広い墓地を敵を斬りながら見渡した。夜なので暗くてよく分からないが、まだかなり遠くまで敷地が続いている感じだ。
「ソード、ここが片づいたら二手に分かれよう」
「分かった」
二人はとっとと辺りにいたゾンビを闇に返すと、それぞれ反対に向かって走り出した。
グレンの考えたとおり、墓地は先まで続いていて、さらに小道の向こうにまた敷地が見えた。結界を広めに張っておいて正解だったと思った。
その小道を走っているときだった。きらりと闇の中に狂気に満ちた黄金の瞳が光る。
「あ、あなたは……?」
グレンは人影より少し先の方まで走って止まる。すると、月明かりがその正体をあぶり出す。
「ほう。これはまた上等な人間が来たものだ」
ヴァンパイア。しかも今まで会ったヴァンパイアと外見も気配も違う。圧倒的な魔力をグレンは感じる。ただ腕を組んで宙に浮いているだけなのに。
「上級ヴァンパイア?」
「フフ。まあそう呼ばれているらしいな。確かにその辺のヴァンパイアとは違うがな」
近くにいるだけでも押しつぶされそうな気。一人ではかなわないのではないだろうか。
「私に何か用か?」
余裕のある笑いでグレンを見る。
勝ち目はあるのか。グレンは考える。なくても逃げられそうにない。少なくともソードが向こうを片づけてこちらに来るまでは何とかしなければならない。
「あなたを……倒す!」
言い放つなり、グレンは斬りかかっていった。ヴァンパイアはその黒いマントを翻しながら素速く交わす。交わすというよりも消えて瞬間移動しているような感じだ。
「は、速い」
グレンがつぶやくと、ヴァンパイアは口元を吊り上げた。
「そんなものか。それでは私を倒すことはできんぞ」
ものすごい勢いでヴァンパイアは閃光を放った。グレンはとっさに避けたつもりだったが、避け切れていなかった。速すぎる。何もかもが想像を絶する。桁違いという言葉がふさわしいか。
「く……っ」
全身の力が急に入らなくなって、その場にくずおれる。手にしていた剣が金属音を立てて大地に放り出される。
「全く張り合いがないな」
ヴァンパイアが手をすっと下から上に上げていくと、グレンの体が宙に浮き上がった。力が入らないので、頭はうなだれている。
「良い獲物だ。美しく魔力の強い青年。最も私に力を与えてくれる獲物」
嬉しそうに微笑すると、ヴァンパイアはグレンの首筋に牙を食い込ませた。
「んっ!」
痛み以上に恐怖で目を閉じる。このままヴァンパイアになってしまうのか、それとも死んでしまうのか。意識は消えてしまうのだろうか。血を吸われ、頭がぼうっとしてくる。
「ああ……」
絶望の溜息が唇からこぼれる。
「グレン!」
遠くで聞き覚えのある声がしたような気がした。ソードか。
「貴様……」
目の前でソードがヴァンパイアに斬りかかる映像がかすむ。
グレンはそのまま意識を失った。
次回更新予定日:2015/06/27
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「さあ、久しぶりの再会に乾杯しましょ」
二人を席に座らせると、手際よくグラスに酒を注ぎ、自分も席に着いた。
「乾杯」
グレンが言うと、ソードは無言のままグラスを掲げた。
「いい酒だ」
一口飲んでやっとソードが口を開く。
「そうでしょ」
ソフィアが嬉しそうに微笑む。
「あの」
グレンはテーブルに一旦グラスを置いてソードの方を見る。
「さっきはありがとう」
「構わない」
すると、ソフィアが溜息をついた。
「グレン、あなたの気持ちはよく分かるけど、あまり陛下に楯突くとソードだってかばい立てできないわ」
「エストルにもそう言われた」
ソードはヴァンパイア討伐を命じられても、眉一つ動かさずに引き受ける。完全に仕事だと割り切っているらしい。感情と理性の棲み分けがよくできているというか、理性が強靱なのだとグレンは思う。グレンも最初はあまり考えずに任務をこなしていた。だが、ある出来事で認識が変わった。それからはヴァンパイアをただの魔物だと考えられなくなっていた。
「いずれにしても、このままだとヴァンパイア化する村が増えるだけね。早く親玉を捕らえないと」
「そういえば最近情報が入らないね」
上級ヴァンパイアと思われる目撃情報がこれまではちらほら入ってきていたのだが、ここ数ヶ月途絶えている。活動が鈍っているのだろうか。どこかに潜んでいるのだろうか。
「まあいいわ。堅い話はこのくらいにして、せっかくだからお酒を楽しみましょう」
結局三人で食事もしてまた話し込んでいたら結構な時間になってしまった。
「ソード」
ソードの部屋の前でグレンも立ち止まる。
「まだ飲み足りないのか?」
うなずく代わりにグレンはソードを緑色の瞳でじっと見つめた。
「分かった。つき合おう」
ソードが招き入れると、グレンは中に入った。扉が閉まるなり、グレンはソードの首筋に食いつく。首筋に刺さった牙から血の紅が細く滴れ落ちる。ソードは小さな呻き声上げただけで、グレンの体を支えながら静かにその行為が終わるのを待った。
「ごめんなさい。我慢……できなくて」
顔を起こすと、グレンは慣れた手つきで傷口に手を当てる。暖かな光が溢れ、傷口は跡形もなく消えた。
「満足したか?」
「……うん」
次回更新予定日:2015/06/20
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「陛下」
グレンがつらそうな表情を見せる前にソードが口を開いた。
「その任務、私にお任せいただけませんか?」
セレストはソードを見た。ソードは恭しく頭を下げたままだ。
「いいだろう。では、グレンにはサルニアに現れたという魔獣の討伐を命ずる」
「はっ」
「ソフィアはアボットの墓地にいるゾンビを倒してきてもらいたい」
「はっ」
「以上だ。今日はよく休め」
三人は深く頭を下げて、セレストとエストルの後ろ姿を見送った。扉が閉まると、三人は反対側の扉から退室した。
「久しぶりね、こうやって三人揃うのも」
ソフィアが目を細める。微笑む顔も大人の女性の顔だ。美人だが、とても手を出せないとグレンは思う。
「ミルルでいいお酒を手に入れたの。みんなで飲まない?」
「そうだね。積もる話もあるだろうし。ソードもいいだろ?」
「ああ」
酒がいちばん好きなのはソードのはずなのだが、ソードは無表情だ。今日に限ったことではなく、常に無表情で、冷淡な印象さえ与える。グレンも最初は近寄りがたい存在だと思った。あまり人を寄せつけない雰囲気をもっているが、だからといってつき合いを拒むわけでもない。口数は概して少ない。三人の中では最年長だが、王騎士になったのはソフィアの方が早いので、どちらかというとソフィアの方がまとめ役である。ソードが無口なせいもある。何事にも無関心を装い、そっけなく振る舞うせいもある。ソードなりに自分より古参のソフィアに気を遣っているつもりなのかもしれない。ソフィアも年上のソードにはそれなりに気を遣っているようだが。
「私の部屋でいいわね」
さばさばとした口調でソフィアが言う。
「どうぞ」
扉を開けると、ソフィアは客を招き入れた。テーブルには簡素だが白いテーブルクロスがかけられていて、すでにグラスが三つ、そして真ん中に美しい緑の瓶が置いてある。
次回更新予定日:2015/06/13
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「あなた……いったい何を知っているというのですか?」
「あまり多くを明かせない。少なくとも今は。だが、上級ヴァンパイアを追い、これ以上人間がヴァンパイアになるのを阻止したいと考えている」
素性はよく分からない。しかし、ウィンターがヴァンパイアに関する情報をかなり持っていることは確かだ。ヴァンパイアにランクがあることを知っている人はそう多くないはずだからだ。
「お前と協力したい。私だけでは限界なのだ」
「なぜ、僕なのですか?」
「それはお前が王騎士だからだ。他にも理由はあるが、まあいずれ話すことができると思う。これで信用しろというのも気が引けるが、こちらからも情報を提供できる。どうだろう?」
グレンは答えなかった。
「きれいな色の瞳をしているな」
グレンの表情を伺っていたウィンターが不意に話を逸らす。グレンの瞳の緑色は確かに少し特徴のある緑だ。深みがあり暗くも見えるが、それでいて鮮やかで、青みがかっているような感じもする。かなり複雑な色だ。
ウィンターは席を立ってドアの方に歩き出した。
「考えておいてくれ」
グレンも頷いて戸口に向かった。すると、ウィンターが耳元で呟いた。
「また会おう」
グレンはもう一度頷いた。
三人の王騎士が久々に謁見室に集結した。
「お前から聞こうか、ソフィア」
「はい。ミルルの森に現れたモンスターというのは、大型の獅子のような姿をした魔獣でした。さして強くもなかったので、すぐに片づけて参りました。住民には犠牲は出なかった模様です」
「そうか。ご苦労だった。ソード」
「はい。シルクールに参りましたが、やはり村がヴァンパイア化しておりましたので、ご命令通り一掃して参りました」
「ご苦労。グレン」
「はい」
グレンは呼吸を整えた。
「ルナリアのヴァンパイア、討伐して参りました。村はすでに壊滅的な状況で……生存者は、
いませんでした」
「村人は全てヴァンパイア化していたということかね?」
「はい。全滅です……」
次回更新予定日:2015/06/06
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