魔珠 第15章 神殿(9) 盾 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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廊下を一気に駆け抜け、その勢いで集会室の扉を開けた。
「陛下の御前で荒々しい真似はやめて」
 集会室のいちばん奥の教壇にセレストは座っていた。周りよりも高いところに造られているので、少し距離はあったが、よく見える。そして、その隣には少女、〈告知者〉が立っていた。ロソー城で対峙したときと同じように。
「二度目だな。また空間転移で逃げるか?」
 エストルが〈告知者〉をキッとにらむ。冷静なエストルにしては結構な感情表現だ。すると、〈告知者〉はそれをあざ笑い、一蹴した。
「もう逃げないよ。私たちは守らなくちゃいけないから」
「守る?」
 グレンが半ば怒りに似た感情をむき出しにして、剣を構えた。
「そう。陛下に、守ってもらうの」
〈告知者〉の言葉とともにセレストは光に包まれた。青かったその瞳が赤に染まる。
「陛下?」
「エストル、下がって」
 ただならぬ敵意がセレストの中で煮えたぎっているのに危険を感じ、グレンはすぐにエストルに注意を促した。エストルは素直に従った。
 敵はヴァンパイアだ。
 グレンは目の前に立っているセレストを交わして〈告知者〉を狙った。しかし、振り下ろした剣は〈告知者〉に危害を加えることはなかった。代わりにグレンの剣は、間に入ったセレストの肩すれすれのところで止まっていた。
 そんなばかな。
 セレストは確かに先ほど〈告知者〉に強化魔法をかけられた。それでもこんなに素速く動けるはずがない。
「瞬間移動、させたのか?」
 あと一瞬剣を止めるのが遅れたら、セレストの肩を斬っていた。動揺している。セレストを自分の手で傷つけていたかもしれないと思うと、緊張で過呼吸になり、変な汗が出てくる。それを見て鈴の音のような声で〈告知者〉が笑う。
「陛下は私も守ってくれる。陛下を倒さない限り私は倒せない」
 いかに素速く動いても瞬間移動する人よりも先に動くのは無理だ。瞬間移動など空間を操る魔術は消費する魔力が多いので、術者を消耗させて速度を落としたり魔力を使い果たさせることも可能だが、上級ヴァンパイアなら元々持っている魔力が多いので、魔力を削っていくのに少し時間が必要になる。それに瞬間移動は術をかけられた方の体にも負担がかかる。何の訓練も受けていない普通の人間であるセレストの体に障るようなことはなるべく避けたい。ならば。
「こうだ!」
 グレンは素速く〈告知者〉の背後に回って剣を振り上げる。
「無駄だよ」

次回更新予定日:2018/02/24

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