魔珠 第14章 パイヤン(10) できること、なすべきこと 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「グレン」
 エストルの腕の中で苦しそうに息をしているグレンを見つけて、ソフィアは心配そうに声をかけた。
「グレンが〈執行者〉を倒してくれた」
 ウィンターが報告すると、ソフィアはグレンの手を握った。
「よくやったわ、グレン」
 グレンは力なくうなずいた。
「回復しましょうか?」
 ルイが心配そうな顔をして聞く。グレンに回復できるだけの魔力が残っているようには思えなかった。しかし、エストルがグレンの代わりに答えた。
「いや。時間がない。それにお前も魔力は温存しておいた方がいい」
 いずれにしてもグレンの魔力を回復しなければならなかった。自然に回復するのを待っている時間はない。ここは敵地で、いつ敵が襲ってくるか分からない。この場所に長く留まっているのは得策ではない。できるだけ迅速に行動することを考えなければならない。
「それにもっと手っ取り早い方法がある」
「エストル?」
 グレンは不敵な笑みを浮かべるエストルが何となく何を考えているのかが分かって、確認するように聞き返す。エストルは何も言わず、ぐいっとグレンの頭を引き寄せて首筋を噛ませた。噛まれて痛みがないはずはないのだが、エストルは眉一つ動かさず、穏やかな表情をしていた。
 これが今できること。
 グレンも少しとまどった。吸血するのはどうしても我慢できないときだけだった。我慢できない状態でもないのに吸血するなんて。だが、これがエストルの言うとおり体の傷と魔力をいちばん効率よく回復できる方法であることは間違いない。グレンはエストルの首筋に噛みついた。
 これが今なすべきこと。
 静かに時間が経過していく。ソフィアは気遣うような表情で見守っていたが、グレンが唇を離すと、気持ちを切り替えてさばさばと言った。
「私たちちょっと待ちを偵察してくるわ。グレンは少し休んでいて」
 すると、ウィンターが振り返って背後に広がる町を見渡しながら言った。
「私は東側から回ろう。ソフィアたちは西側から行ってくれ。神殿の前で合流しよう」
「分かったわ。エストル様」
 ソフィアはグレンを腕に抱いたままのエストルの方に向き直った。
「グレンについていてくださいますか?」
 すると、エストルは軽くうなずいた。
「もちろんだ」
 ソフィアはそれを聞いてにっこり微笑んだ。

次回更新予定日:2017/12/09

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