魔珠 第13章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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てきぱきと船員たちが船を動かす。メノウの姿はもうなかった。きっとまたどこかに隠れたのだろう。
「あれはヌビスの仕業だろう」
 レヴィリンが当てに来る。
「やはりそう見えますか?」
「膨大な魔力を感じる。誰にでもできることではない」
「あれは、レヴィリン博士、マーラル王からあなたへの挑戦状です」
 険しい表情でスイが伝えると、レヴィリンの目が輝いた。
「ほう。それは楽しみだ。受けて立とう」
 不敵な笑みに狂気めいたものを感じてスイは警戒する。この顔、ヌビスと同じだ。

 スイとレヴィリンはカミッロの船に到着した。海上に出現した現象について話がしたいと伝えると、兵士が一人先に走って行った。もう一人の兵士にカミッロの部屋に案内してもらう。
 部屋の前に来ると、いちばん奥にあった書斎の椅子からカミッロが立ち上がり、部屋の中央にある大きな机に向かいながら、二人に席を勧めた。
「どんな話が聞けるのかな」
 自分も椅子にかけながら、カミッロは訊ねた。
「キリトの後をつけさせてもらいました」
「向こうの被害は?」
「五人ほど気を失っています」
「さすがだね」
 誰にも気づかれずにヌビスの部屋に辿り着くのが理想ではあったが、相手の警備も堅いので、現実には難しい。カミッロの目から見てもまあまあ及第点だったのだろう。
「カミッロ隊長も外をご覧になりましたか?」
「ああ。見たことのない光景だね。あれは魔術かな?」
「ヌビスの展開した術です。三時間後、世界中の魔珠の粒子たちが干渉し合うと言っていました」
「何だと」
 レヴィリンはすぐに事態を察したらしい。
「そんなことをすれば、魔珠のある場所で大爆発が起こる。魔術兵器も起動するだろう。そうなれば……いや、だが、しかし」
 そのままレヴィリンは口をつぐんだ。顎に手を当て、何かを必死に考えている。目を見るだけで脳がフル活動しているのが分かる。

次回更新予定日:2021/01/23

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スイはキリトが乗ってきた商船に戻った。キリトにも内緒で隠れて乗り込んできたのだ。
「おかえり」
 迎えたのはグラファドだ。
「レヴィリン博士の船に向かってくれ」
「キリトは置いていっていいのか?」
「キリトはまだ仕事中だ」
「分かった」
 グラファドは船員たちに船を出すよう指示しに行った。
 グラファドの姿が消えると、急に妙な気配を感じてスイは振り返る。
「メノウ。お前も乗っていたのか」
 驚いた顔で訊ねると、メノウは笑顔を返した。
「そうだよ。ばれないようにスイと逆側の部屋に隠してもらっていたんだ」
 こんな最前線に乗り込んでくるなんて。
「ところで、あれ何?」
 メノウが海域に現れた雲まで伸びる光の柱を指差して問う。
「俺も気になっていたんだ」
 戻ってきたグラファドが二人の横に並んで光の柱を見る。
「今はあまり詳しく話している時間はないのだが」
 どうしてこうなったのかのいきさつは飛ばして、これがヌビスの魔術であり、早く解除しなければアルト海周辺の魔珠が影響を受けることを伝えた。
「ヌビスはこの難問をレヴィリン博士に遺し、決して答えを口にできぬよう自ら命を絶った。マーラル軍も協力を約束してくれたが、博士に伝えないことには事態が動かない」
「お、博士だ」
 グラファドが近づいた船の甲板にレヴィリンの姿を見つけて再び船員たちに指示を出す。
「悪いな、メノウ」
「あとでたっぷり詳しい話聞かせてもらうんだからね。覚悟しておいてよ」
 スイは苦笑しながらグラファドの後を追った。
 船員たちが船を寄せてタラップをかけ始めようとすると、レヴィリンがこちらの方に歩いてきた。
「あの光のことかね?」
「そうです。そのことで博士とカミッロ隊長にお話が」
「助かる。分析を急いでいるのだが、どうも不明な点が多い。実に興味深い現象だ。乗せていってもらおう」
 レヴィリンはすぐにタラップを渡って船に乗り込んできた。
「ありがとうございます。行きましょう」

次回更新予定日:2021/01/16

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「あの村の光景が蘇ってきました。私から全てを奪ったヌビスを憎みました」
 行商人をしていた夫婦がアラバスを引き取った。村と最寄りの町を往復して商売をしていた。町に行ったある日、町に住んでいる魔術師が弟子を募集しているのを見つける。
「お前にも魔術の才能があるんじゃないかな」
 これだ、と思ってアラバスは名前を偽ってその魔術師に弟子入りした。町は遠かったが、才能があるとすぐに見抜いた魔術師は、アラバスを自宅に住まわせた。才能はすぐに開花した。養子であることは誰にも言わなかったし、言う必要もなかった。実の父母の名を明かすこともなかった。才能と努力だけが必要な場所だった。
 町に住み始めると、いろいろな情報が耳に入った。人々の話を聞くうちに、ヌビスに虐げられているのは自分だけではないということを知る。
「一人ではないということが分かると、ただの憎しみが使命感に変わりました。マーラルに住む私たちが幸せに暮らすには、王位継承権を持つ私がヌビスを殺して王位を手に入れるしかないと」
「それで、マーラル軍に?」
 アラバスは頷いた。
「信じろというのは無理でしょうか?」
 すると、いちばん年上の魔術師が言った。
「本当にお前が陛下のご子息であれば、城に記録が残っている。それで調べればすぐに分かることだ」
「だったら、嘘を言っても無駄ですよね」
「確かにそのとおりだ」
 あっさり論破されて魔術師は少し面白くなさそうに言った。長年ヌビスにおびえながらもうまくやりながら甘い汁も吸ってきた。アラバスが即位すれば、どうなるか分からない。だが、最年長の魔術師もこの何年かのつき合いでアラバスが信頼できる人間で、少なくとも今までのように保身に骨を折る必要はないことは分かっている。このままアラバスの即位を認めてみてもいいような気がしていた。
「取りあえず暫定的にジャン、いやアラバスをマーラル王としよう。この危機を前にして指揮に乱れが生じてはならない」
 最年長魔術師の言葉に他の三人も同意した。
「では、たった今から前王ヌビスの子アラバスが、正式に王が決まるまで王位を継承します」
 その場にいた全員が強く頷く。
「それでは、新王と改めて交渉をさせてください」
 キリトが切り出す。
「まずはヌビス前王の魔術が解除できるまでの無条件停戦の合意」
「そして、この危機を脱するために両国の軍が協力すること、ですね」
 アラバスは厳しい表情で言った。キリトも深刻な表情で頷いた。

次回更新予定日:2021/01/09

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「それでは、聞かせてもらいましょうか」
 アラバスは頷いた。ずっと壁際に立っていた兵士と魔術師たちも集まってきた。
「五歳のときでした。ヌビスの実験に呼び出されました。何をされたのかは分かりません。記憶が飛んでいるのです。とても怖かったということ以外何も覚えていないのです」
 実験から戻ってきたアラバスは震えが止まらず、やっとのことで寝かしつけても割れんばかりの叫び声を上げて跳び起きた。噂を聞いていた母は身の危険を感じ、アラバスを連れて逃げることを決意する。
 後宮に迎えられる前マーラル軍の魔術師だった母は、その経験を活かして城からの脱出に成功する。母は故郷の村に戻り、アラバスは母や祖父母、親戚や村の人たちと新しい生活を始めることになった。
 始めは実験のときの恐怖と精神的なショックから口も聞かず、引きこもりがちだったアラバスだったが、村が安全な場所であることが分かると、次第に家族や村の子どもたちとも自然に接することができるようになっていった。
 ところが、一年ほど経ったある日、隣町に出かけた村人たちから、マーラル軍の兵士が城から逃亡した王子を探していると聞かされる。祖父母や村人たちは二人を匿う方法を話し合い始めたが、母は、
「この村の人たちにご迷惑をおかけするわけにはいきません」
 と言って村を出ていった。
 二人は人があまり住んでいない北へ北へと向かった。最果ての村の村外れに居を構え、新天地での生活に少し慣れてきた頃、故郷の村の話を耳にする。
「大火災で廃墟になったらしい。夜中で逃げ遅れたのかねえ。誰も助からなかったらしい」
 噂を聞いて二人は故郷の村に戻った。
 村は噂で聞いたとおり、見るも無惨な廃墟と化していた。
「おじいちゃん……おばあちゃん……」
 そのあとも泣きながら友人や知り合いの名前を呼んだのをアラバスは思えている。
 あの光景だけは、絶対に忘れない。
「行きましょう」
 近くに咲いていた花を花束にしてたむけ、二人は最果ての村に戻った。
「僕のせいで……みんな……」
 そう言ったアラバスに母は首を振った。
「違う。あなたは何も悪くない。悪いのは村に火を放った兵士たち。いえ、そうするように命じた国王陛下なのよ。あなたは何も悪くない」
 しかし、二年後、母は病に倒れ、そのまま帰らぬ人となった。
「心労もあったのかもしれないね。時々村があんなことになったのは自分のせいだって泣いていた」
 そんな噂も耳にした。

次回更新予定日:2021/01/02

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スイは少し警戒して一度置いていた剣に手を当てた。キリトも表情が険しくなる。しかし、魔術師は二人の予想していたような言葉を口にしなかった。
「私が……私が殺すはずだったのに」
 その場にいた者は皆、驚きのあまり動けなくなった。言葉を発することさえできなかった。ただ若い魔術師だけが唇を噛んで涙を流していた。
「勝手に死ぬなんて」
 はっとキリトが何かに気づいて魔術師の横に屈む。そっと顔をのぞき込んでキリトは訊ねた。
「君、名前は?」
 すると、魔術師はすっと立ち上がってフードを取った。
「アラバス。ヌビスの子です」
 端正な顔立ちの青年だった。やはりそうだったか、とキリトはゆっくり立ち上がる。
「ジャン、お前、何を言って……」
「私は、アラバスです」
 戸惑う同僚たちに魔術師は強い調子で繰り返した。そして、ひと息つきながら肩の力を抜き、頭を下げた。
「今まで黙っていて申し訳ありませんでした。ただ、復讐を遂げるために正体を隠してヌビスに近づくしかなかったのです」
「復讐するつもりでここに?」
「はい」
 キリトはスイの方に振り向いた。
「スイ、俺はもう少しアラバスさんに詳しい話を聞きたい。お前がレヴィリンに術のことを伝えてくれないか」
「一人で敵陣に残って大丈夫なのか?」
 心配するスイにアラバスが毅然と言い放つ。
「私たちは同じ危機に直面する一人の人間です。マーラルにも魔珠があります。魔術兵器の試作品のようなものだっていくつか残っています。兵器としては使えませんが、充分な魔珠のエネルギーを蓄えています。この危機を乗り越えなければ、マーラルにも多くの犠牲が出ます」
 アラバスはなおも続けた。
「今、これから私の話を聞いてもらってここにいる人たち、そして全員は無理でしょうが海域にいる兵士や魔術師たちに納得してもらえたら、私が王位を継ぎます。私たちにもできることがあったら、協力させてください」
「信用しましょう」
 言い残してスイは部屋を出た。

次回更新予定日:2020/12/26

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