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それに里は。多くの魔珠を持つ里はどうなる。
何をしようとしているんだ、この人は。
スイは言葉を失った。
「世界は終わる。私と共にな」
「ばかな。いったいどれだけの人が犠牲になると思っているんだ」
「それくらいのものが懸かっていないとやりがいがないだろう」
キリトの憤りをヌビスが踏みにじる。
「さあ、レヴィリン博士にこのからくりが解けるかな。楽しみだ。近くで見届けることができないのは残念だが、レヴィリン博士とこのような形で決着をつけることができて私は満足だ。答えは私の口からは聞き出せんよ」
はっと嫌な予感がしてスイは剣先を胸に引き寄せて刺されないように力を込めた。しかし、ヌビスは突きつけられていた剣には目もくれなかった。胸から赤い光がぱっと溢れた。まぶしさに一瞬目を閉じたが、開けたときにはもう光は消えていた。
そして、ヌビスは力なく床に倒れていた。
スイは驚いた表情のまま、慌ててヌビスの脈を調べる。
「まさか」
駆け寄っていたキリトにスイは首を横に振った。
周りにいた魔術師や兵士たちも何も知らされていなかったらしく、ただ驚きの表情を浮かべて立ち尽くしていた。
スイはヌビスの黒いローブを襟元から強く引っ張った。胸がはだけ、赤い血痕があらわになる。血痕は美しい魔法陣のような模様を描いていた。
「呪術か」
スイは呟いた。
「自身が最強の魔術師であることを証明するため、レヴィリン博士より優れた魔術師であることを証明するために多くの人の命を懸けた魔術を展開し、解を自白させられないように自ら命を絶った、か」
すると、魔術師の一人がふらふらと歩み寄ってきた。動かなくなったヌビスの横に崩れるように座り込むと、ヌビスの顔をのぞき込んだ。
「そんな」
今まで隠れていてよく見えていなかった顔がフードの下からわずかにうかがえた。顔面蒼白で唇が震えている若い男の顔だった。
「こんな形で死んでしまうなんて」
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何をしようとしているんだ、この人は。
スイは言葉を失った。
「世界は終わる。私と共にな」
「ばかな。いったいどれだけの人が犠牲になると思っているんだ」
「それくらいのものが懸かっていないとやりがいがないだろう」
キリトの憤りをヌビスが踏みにじる。
「さあ、レヴィリン博士にこのからくりが解けるかな。楽しみだ。近くで見届けることができないのは残念だが、レヴィリン博士とこのような形で決着をつけることができて私は満足だ。答えは私の口からは聞き出せんよ」
はっと嫌な予感がしてスイは剣先を胸に引き寄せて刺されないように力を込めた。しかし、ヌビスは突きつけられていた剣には目もくれなかった。胸から赤い光がぱっと溢れた。まぶしさに一瞬目を閉じたが、開けたときにはもう光は消えていた。
そして、ヌビスは力なく床に倒れていた。
スイは驚いた表情のまま、慌ててヌビスの脈を調べる。
「まさか」
駆け寄っていたキリトにスイは首を横に振った。
周りにいた魔術師や兵士たちも何も知らされていなかったらしく、ただ驚きの表情を浮かべて立ち尽くしていた。
スイはヌビスの黒いローブを襟元から強く引っ張った。胸がはだけ、赤い血痕があらわになる。血痕は美しい魔法陣のような模様を描いていた。
「呪術か」
スイは呟いた。
「自身が最強の魔術師であることを証明するため、レヴィリン博士より優れた魔術師であることを証明するために多くの人の命を懸けた魔術を展開し、解を自白させられないように自ら命を絶った、か」
すると、魔術師の一人がふらふらと歩み寄ってきた。動かなくなったヌビスの横に崩れるように座り込むと、ヌビスの顔をのぞき込んだ。
「そんな」
今まで隠れていてよく見えていなかった顔がフードの下からわずかにうかがえた。顔面蒼白で唇が震えている若い男の顔だった。
「こんな形で死んでしまうなんて」
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「ああ。なるほど。確かに……殺されている」
青竜は青白い光を帯びていた。
魔力が、吸収されている。
もう維持するだけの魔力が残っていないのだろう。結界が消え、辺りが明るくなった。元の船室に戻ったのだ。
ゆっくりとヌビスは左手を頭上に掲げた。指先から高速で光が放たれ、天井を貫いて真っ直ぐ空に上がった。数秒すると、今まで青く晴れ渡っていたはずの空に急に黒い雲が立ちこめた。
ヌビスは薄気味悪い笑いを浮かべた。
「これでもう私の魔力は尽きた。お前がその剣を離さない限り、新たに魔力を集めようとしてもすぐに吸収されてしまうのだろう。魔術師としての私は殺された。そして、魔術師ではない私は殺されたも同然だ」
くくっとヌビスは嘲笑する。
「まさかこのような形で殺されるとは。だがな」
ヌビスは不敵に微笑む。
「私は魔術の道を究めるために生まれたのだ。魔術の才能に恵まれ、マーラル王太子という魔術を探究するために理想的な地位を生まれながらにして与えられた。王になればマーラルにあるものは何でも意のままに動かせる。金、資源、人。私が魔術を究めるためにマーラル全土が動いてくれる。魔術を究めることこそ私に与えられた使命、そして私の喜び。だから最後に」
冷たい目でヌビスはスイを睨んだ。その目は狂気に満ち溢れていた。
「私が最強の魔術師であることを証明してみせる」
「いったい……何を」
手が震え出しそうになるのを、不安が表情に出そうになるのを堪えながら、スイは呟いた。
「魔術兵器を開発しているときに偶然大変興味深い現象を発見してな。特定の条件で魔珠のエネルギーは干渉し合う。魔術兵器を奪われた後もずっと研究を続けていた。使い方によっては、魔術兵器以上に面白いことが可能になるのではないかと思ってね」
おそらく何も聞かされていないのだろう。スイとキリトだけではなく、魔術師たちの間にも張りつめた空気が流れる。
「三時間後、術が解かれ、世界中の魔珠の粒子たちが干渉し合う。粒子たちは爆発を誘発する。空気中に漂っている粒子程度の密度なら一瞬小さな火花が散る程度の小爆発で住むだろう。だが、魔珠がある場所、さらには魔術兵器がある場所はどうなるかな」
スイは息を呑んだ。魔珠は日常生活にも不可欠なそのエネルギーを人々に供給するため、どの国でも地域ごとに設置塔を置いて、その場所に鎮座している。リザレスだけでも首都のクラークを始め国内十カ所に設置塔がある。さらに、魔珠担当官であるスイの私邸の部屋には二十数個の魔珠がある。そして何と言っても魔術兵器だ。クラークにあるのか、その近郊にあるのか、あるいは全く別の場所にある可能性もあるが、リザレスのどこかにある魔術兵器が爆発したら。クラークほどの規模の町でも跡形なく吹き飛ぶ可能性がある。
次回更新予定日:2020/12/12
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青竜は青白い光を帯びていた。
魔力が、吸収されている。
もう維持するだけの魔力が残っていないのだろう。結界が消え、辺りが明るくなった。元の船室に戻ったのだ。
ゆっくりとヌビスは左手を頭上に掲げた。指先から高速で光が放たれ、天井を貫いて真っ直ぐ空に上がった。数秒すると、今まで青く晴れ渡っていたはずの空に急に黒い雲が立ちこめた。
ヌビスは薄気味悪い笑いを浮かべた。
「これでもう私の魔力は尽きた。お前がその剣を離さない限り、新たに魔力を集めようとしてもすぐに吸収されてしまうのだろう。魔術師としての私は殺された。そして、魔術師ではない私は殺されたも同然だ」
くくっとヌビスは嘲笑する。
「まさかこのような形で殺されるとは。だがな」
ヌビスは不敵に微笑む。
「私は魔術の道を究めるために生まれたのだ。魔術の才能に恵まれ、マーラル王太子という魔術を探究するために理想的な地位を生まれながらにして与えられた。王になればマーラルにあるものは何でも意のままに動かせる。金、資源、人。私が魔術を究めるためにマーラル全土が動いてくれる。魔術を究めることこそ私に与えられた使命、そして私の喜び。だから最後に」
冷たい目でヌビスはスイを睨んだ。その目は狂気に満ち溢れていた。
「私が最強の魔術師であることを証明してみせる」
「いったい……何を」
手が震え出しそうになるのを、不安が表情に出そうになるのを堪えながら、スイは呟いた。
「魔術兵器を開発しているときに偶然大変興味深い現象を発見してな。特定の条件で魔珠のエネルギーは干渉し合う。魔術兵器を奪われた後もずっと研究を続けていた。使い方によっては、魔術兵器以上に面白いことが可能になるのではないかと思ってね」
おそらく何も聞かされていないのだろう。スイとキリトだけではなく、魔術師たちの間にも張りつめた空気が流れる。
「三時間後、術が解かれ、世界中の魔珠の粒子たちが干渉し合う。粒子たちは爆発を誘発する。空気中に漂っている粒子程度の密度なら一瞬小さな火花が散る程度の小爆発で住むだろう。だが、魔珠がある場所、さらには魔術兵器がある場所はどうなるかな」
スイは息を呑んだ。魔珠は日常生活にも不可欠なそのエネルギーを人々に供給するため、どの国でも地域ごとに設置塔を置いて、その場所に鎮座している。リザレスだけでも首都のクラークを始め国内十カ所に設置塔がある。さらに、魔珠担当官であるスイの私邸の部屋には二十数個の魔珠がある。そして何と言っても魔術兵器だ。クラークにあるのか、その近郊にあるのか、あるいは全く別の場所にある可能性もあるが、リザレスのどこかにある魔術兵器が爆発したら。クラークほどの規模の町でも跡形なく吹き飛ぶ可能性がある。
次回更新予定日:2020/12/12
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「行くぞ、スイ」
かなり楽になったはずだが、すぐに立ち上がれるだろうか。心配だったが、攻撃が始まった以上、選択肢はなかった。スイはキリトの意図を一瞬で理解し、毅然とした表情で頷いて素速く行動に移った。
起き上がって駆け出したスイに一直線に向かって撃たれてくる攻撃をキリトが盾になりながら守る。身体に当たって軽く痛みが走る。
キリト。
キリトが横で顔をしかめたのが見えたが、ここで止まればキリトの受ける攻撃の数が増えるだけだ。一刻も早く剣を拾わなければ。キリトを信じて走り続ける。
キリトが素速く身体に損傷がないか調べる。どこにも異状はない。
ちゃんと魔力を集められている。全身に満遍なく行き渡っている。
そのままスイをかばいながら横を走る。
「この程度の魔力では効かぬか」
ヌビスが大量の魔力をその手に集め始めた。
その魔力が放たれたのは、スイが青竜を拾い上げたその瞬間だった。スイはキリトの前に躍り出て剣を前に突き出して、その魔力を吸収していく。強大な魔力にも前傾姿勢を崩さずに粘ったが、その圧力で踏ん張っていた足がゆっくりと後方に滑り出した。
「大丈夫。いける」
キリトがスイの背中を支えた。
残りの魔力がすっと一気に青竜に入ってきてキリトがバランスを崩す。スイも大きく後ろにのけぞったが、すぐに剣を振り上げながら前のめりになり、そのままヌビスの方に駆けていく。スイが大量の魔力を吸収し青く輝く剣を斜め上から振り下ろすと、ヌビスの前に光の盾が現れて剣先と衝突し、火花が散った。
スイが指先に力を入れると、青竜は眩しいくらいに強く輝いた。
光の盾が砕け散った。
「何という魔力だ」
操っていた強い魔力に反動で突き飛ばされたヌビスが呆然とする。スイはヌビスの胸に青竜を突きつけて言った。
「あなたの魔力です。あなたが放った魔力を吸収して盾にぶつけただけです」
「そうか。そうだったか」
ヌビスが狂ったように笑い出した。スイは青竜を胸に突きつけたまま冷ややかな目でヌビスを見た。
笑いが止まると、ヌビスはスイをにらみつけた。
「殺さないのか?」
「陛下もお気づきでしょう。もう殺されています」
表情を変えずにスイは唇だけを動かした。
次回更新予定日:2020/12/05
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かなり楽になったはずだが、すぐに立ち上がれるだろうか。心配だったが、攻撃が始まった以上、選択肢はなかった。スイはキリトの意図を一瞬で理解し、毅然とした表情で頷いて素速く行動に移った。
起き上がって駆け出したスイに一直線に向かって撃たれてくる攻撃をキリトが盾になりながら守る。身体に当たって軽く痛みが走る。
キリト。
キリトが横で顔をしかめたのが見えたが、ここで止まればキリトの受ける攻撃の数が増えるだけだ。一刻も早く剣を拾わなければ。キリトを信じて走り続ける。
キリトが素速く身体に損傷がないか調べる。どこにも異状はない。
ちゃんと魔力を集められている。全身に満遍なく行き渡っている。
そのままスイをかばいながら横を走る。
「この程度の魔力では効かぬか」
ヌビスが大量の魔力をその手に集め始めた。
その魔力が放たれたのは、スイが青竜を拾い上げたその瞬間だった。スイはキリトの前に躍り出て剣を前に突き出して、その魔力を吸収していく。強大な魔力にも前傾姿勢を崩さずに粘ったが、その圧力で踏ん張っていた足がゆっくりと後方に滑り出した。
「大丈夫。いける」
キリトがスイの背中を支えた。
残りの魔力がすっと一気に青竜に入ってきてキリトがバランスを崩す。スイも大きく後ろにのけぞったが、すぐに剣を振り上げながら前のめりになり、そのままヌビスの方に駆けていく。スイが大量の魔力を吸収し青く輝く剣を斜め上から振り下ろすと、ヌビスの前に光の盾が現れて剣先と衝突し、火花が散った。
スイが指先に力を入れると、青竜は眩しいくらいに強く輝いた。
光の盾が砕け散った。
「何という魔力だ」
操っていた強い魔力に反動で突き飛ばされたヌビスが呆然とする。スイはヌビスの胸に青竜を突きつけて言った。
「あなたの魔力です。あなたが放った魔力を吸収して盾にぶつけただけです」
「そうか。そうだったか」
ヌビスが狂ったように笑い出した。スイは青竜を胸に突きつけたまま冷ややかな目でヌビスを見た。
笑いが止まると、ヌビスはスイをにらみつけた。
「殺さないのか?」
「陛下もお気づきでしょう。もう殺されています」
表情を変えずにスイは唇だけを動かした。
次回更新予定日:2020/12/05
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なぜかを考えるよりも先にキリトはスイに駆け寄った。意識があるのかないのか額に汗をにじませ、苦しそうに息をしていた。右胸の刻印が真っ黒なローブの上からでも分かるくらい強い光を放っている。
キリトが胸に手を当てると、少しだけ光が弱まった。
「お前、なぜ……まさか」
ヌビスが動揺する。顔が青ざめている。結界の向こうから見ていた室内にいた兵士や魔術師たちも初めて見る顔だ。
「そんな。ありえない」
そうか、そういうことか、と呟きながらキリトが意識を集中させると、スイの胸の光がみるみるうちに吸い取られていった。
「やめろ!」
狂ったように叫びながらヌビスは魔法をキリト目がけて放つ。だが、キリトはもうからくりを完全に理解していた。スイの胸に当てていた右手を開いて前にかざすと、ヌビスの攻撃を素手で受け止め、握りつぶした。攻撃は跡形もなく消えた。
「お前か。スイを呪術から解放したのはお前か。私の邪魔をしたのはお前か!」
そのとき、スイが目をうっすらと開いた。口元には弱々しいが安心しきったような笑顔を浮かべていた。
「キリト」
心地よい魔力。
スイはキリトの手首を握った。呪術の力が弱くなり、意識がしっかりしてきてスイはやっと気づく。
「どうやって結界を?」
ヌビスの魔力で張り巡らされた強力な結界。向こうから何度も叩いても反応しなかったはずだ。
「お前が倒れて助けなきゃって強く思った。そうしたら、結界の中に引きずり込まれて」
「私の魔力を相殺したからだ」
ヌビスが苦々しげに言った。
「キリト・クラウス。お前の魔力は私の魔力と相反する魔力。通常、相反する魔力を持つ者と遭遇することはない。同一の時代、同一の場所に存在する確率は極めて少なく、ゼロに等しいのだ」
ヌビスは自嘲するように笑った。
「お前に会った瞬間から嫌な魔力だとは思ったが、まさか相反する力だったとはな。だが、これはこれで貴重なものが見られたという考え方もできなくはない」
そう感じることで心に余裕ができてきた。ヌビスはいつもの冷徹な魔術師の表情に戻っていた。
「この出会いは私にとって大変有意義であった。面倒な状況にはなったが、これをどう解決するかを考えるのもまた一興。さあ、私を楽しませてみよ」
次回更新予定日:2020/11/28
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キリトが胸に手を当てると、少しだけ光が弱まった。
「お前、なぜ……まさか」
ヌビスが動揺する。顔が青ざめている。結界の向こうから見ていた室内にいた兵士や魔術師たちも初めて見る顔だ。
「そんな。ありえない」
そうか、そういうことか、と呟きながらキリトが意識を集中させると、スイの胸の光がみるみるうちに吸い取られていった。
「やめろ!」
狂ったように叫びながらヌビスは魔法をキリト目がけて放つ。だが、キリトはもうからくりを完全に理解していた。スイの胸に当てていた右手を開いて前にかざすと、ヌビスの攻撃を素手で受け止め、握りつぶした。攻撃は跡形もなく消えた。
「お前か。スイを呪術から解放したのはお前か。私の邪魔をしたのはお前か!」
そのとき、スイが目をうっすらと開いた。口元には弱々しいが安心しきったような笑顔を浮かべていた。
「キリト」
心地よい魔力。
スイはキリトの手首を握った。呪術の力が弱くなり、意識がしっかりしてきてスイはやっと気づく。
「どうやって結界を?」
ヌビスの魔力で張り巡らされた強力な結界。向こうから何度も叩いても反応しなかったはずだ。
「お前が倒れて助けなきゃって強く思った。そうしたら、結界の中に引きずり込まれて」
「私の魔力を相殺したからだ」
ヌビスが苦々しげに言った。
「キリト・クラウス。お前の魔力は私の魔力と相反する魔力。通常、相反する魔力を持つ者と遭遇することはない。同一の時代、同一の場所に存在する確率は極めて少なく、ゼロに等しいのだ」
ヌビスは自嘲するように笑った。
「お前に会った瞬間から嫌な魔力だとは思ったが、まさか相反する力だったとはな。だが、これはこれで貴重なものが見られたという考え方もできなくはない」
そう感じることで心に余裕ができてきた。ヌビスはいつもの冷徹な魔術師の表情に戻っていた。
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「ならば、これはどうだ」
流星のように攻撃が降ってくる。ヌビスが完璧な美を求めて計算し尽くし、描き出した映像。息を呑むくらい美しい光景だ。これがただの光景であるなら。だが、現実は違った。スイは大きく舞うように一振りして剣に魔力を吸収させていく。そのままくるりと回って振り切れなかった攻撃を交わしたつもりだったが、一撃だけ左上腕部をかすめ、傷口から血がにじみ出た。
「美しい。やはり美しい。お前には血の赤が似合う。私の研究を阻む者は皆、傷つき壊れればいい。そして、魔術の発展の糧となれ」
魔術にのめり込み、究めることだけを追求した結果、狂気に取り憑かれてしまった魔術師。スイは恐怖に飲み込まれそうになって慌てて首を振る。
大丈夫。青竜が、里の人たちが、コウが、そしてメノウがついている。リザレスの人たちも。後ろにいるキリトも。
そう言い聞かせて恐怖を振り払おうとした瞬間だった。一筋の光が目にも留まらぬ速さで一直線にスイを狙ってきた。スイは慌てて剣を振るい、光を弾こうとした。
そんな。
力がかかったのはほんの一瞬だった。分からないほどに。だが、その一瞬の力で剣が弾かれた。剣が大きな放物線を描き、取りに行かなければならない距離に落ちた。凄まじい力だった。剣を持っていた右手が軽く痺れている。
早く取りに行かなくては。
足を一歩踏み出した途端、右胸に激しい痛みを感じてその場にくずおれる。
「スイ!」
キリトが両手をぴたりと見えない壁につけて叫ぶ。青竜を奪われた今、スイに刻まれた呪いを防ぐすべはない。
「これが魔術の力だ。これほどの力を剣で受け止めたことはないだろう。魔力なくしては絶対になせない技。素晴らしいと思わないかね」
意識が現実に留まっていたのはここまでだった。初めてこの苦痛を刻まれたときの記憶がフラッシュバックして後は意識が朦朧としてきた。胸の激痛さえも分からなくなるほどに。
キリトはスイの名前を喉が嗄れそうなほど大声で何度も叫びながら、結界を叩いた。
俺は、俺は何もできないのか。
拳を握り締め、もどかしさをぶつけるように力任せに壁を叩く。
拳が壁をすり抜けた。
全身の力を拳に込めていたキリトは、身体ごと結界の内側に吸い込まれた。バランスを崩しかけて慌てて前に出す足に重心をかけた。
結界を、無効化した?
次回更新予定日:2020/11/21
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流星のように攻撃が降ってくる。ヌビスが完璧な美を求めて計算し尽くし、描き出した映像。息を呑むくらい美しい光景だ。これがただの光景であるなら。だが、現実は違った。スイは大きく舞うように一振りして剣に魔力を吸収させていく。そのままくるりと回って振り切れなかった攻撃を交わしたつもりだったが、一撃だけ左上腕部をかすめ、傷口から血がにじみ出た。
「美しい。やはり美しい。お前には血の赤が似合う。私の研究を阻む者は皆、傷つき壊れればいい。そして、魔術の発展の糧となれ」
魔術にのめり込み、究めることだけを追求した結果、狂気に取り憑かれてしまった魔術師。スイは恐怖に飲み込まれそうになって慌てて首を振る。
大丈夫。青竜が、里の人たちが、コウが、そしてメノウがついている。リザレスの人たちも。後ろにいるキリトも。
そう言い聞かせて恐怖を振り払おうとした瞬間だった。一筋の光が目にも留まらぬ速さで一直線にスイを狙ってきた。スイは慌てて剣を振るい、光を弾こうとした。
そんな。
力がかかったのはほんの一瞬だった。分からないほどに。だが、その一瞬の力で剣が弾かれた。剣が大きな放物線を描き、取りに行かなければならない距離に落ちた。凄まじい力だった。剣を持っていた右手が軽く痺れている。
早く取りに行かなくては。
足を一歩踏み出した途端、右胸に激しい痛みを感じてその場にくずおれる。
「スイ!」
キリトが両手をぴたりと見えない壁につけて叫ぶ。青竜を奪われた今、スイに刻まれた呪いを防ぐすべはない。
「これが魔術の力だ。これほどの力を剣で受け止めたことはないだろう。魔力なくしては絶対になせない技。素晴らしいと思わないかね」
意識が現実に留まっていたのはここまでだった。初めてこの苦痛を刻まれたときの記憶がフラッシュバックして後は意識が朦朧としてきた。胸の激痛さえも分からなくなるほどに。
キリトはスイの名前を喉が嗄れそうなほど大声で何度も叫びながら、結界を叩いた。
俺は、俺は何もできないのか。
拳を握り締め、もどかしさをぶつけるように力任せに壁を叩く。
拳が壁をすり抜けた。
全身の力を拳に込めていたキリトは、身体ごと結界の内側に吸い込まれた。バランスを崩しかけて慌てて前に出す足に重心をかけた。
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千月志保
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