魔珠 第11章 迎撃準備(4) 手にした世界2 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「徹底しているな」
 魔珠の供給を独占し続けるためにだけは、いかなる手段も厭わない。今では何となく里の存続のためだけではないのだと理解できる。これ以上拠点を増やし、何の制御もしないまま各国で魔珠の製造が始まれば、〈器〉として犠牲になる人の数はどうなるのか。そんなことも考えているのだろう。
「だが、現在、工房にはオリジナルはいない」
「なぜだ?」
 スイはひと息ついてから先を続けた。
「工房の責任者のコウという魔術師に会った。当時クローンの作製を任された人物だ。〈器〉に選ばれたのは彼女の一歳にも満たない子どもだった」
「それは……つらかっただろうな」
 キリトが心を痛める。スイは頷いた。
「コウはクローンを一体多く作製し、オリジナルを国外と行き来できる売人で兄のヘキ様に託したんだ」
「じゃあコウさんはヘキさんの……妹?」
「そう。ヘキ様はその子をリザレスに連れて行き、信頼していた友人のセイラムに託した。つまり」
「お前が……オリジナル」
 驚いた顔をしている。無表情を装って淡々と語っていたスイだったが、ここでどうとも取れない笑いが洩れた。
「参ったよ。何の説明もなく製造室に入ったら自分と同じ顔をした人が何体もカプセルの中で眠っているんだ」
「それは、驚くよな」
 何となくキリトもつられて同じ笑いを浮かべる。
「しかもそこに私とよく似た顔の女性が入ってきて工房の責任者だとか言うんだ」
「へえ。スイは母親似だったんだ。美人なんだろうな」
 スイの表情をうかがいながら、少し冗談めかして言ってその場を和ませてみる。スイが予想どおり穏やかな笑顔になったのを見て、キリトはちゃんと親子で話し合えてスイの中で良い形で心の整理がついているのだろうと推測した。コウから聞いたいきさつや二人で話したことを終始穏やかな表情のまま話し、最後にスイは言った。
「今、ここにこうして私がいるのは、私を産んでくれた親がいて、私を育ててくれた親がいるからだ。産みの親にも育ての親にも感謝している。感謝すべき親が四人もいるなんて幸せなことだと思わないか?」
 すると、キリトが大きく頷いた。
「俺も感謝している。こんな素晴らしい友人に出会わせてくれて」

次回更新予定日:2020/08/15

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