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「ですが、私は今の私に満足しています。リザレスの魔珠担当官を継いでメノウと仕事することがずっと私の夢でした。今、過去の経緯を知ったところでそれは変わりません。これからもリザレスの魔珠担当官としてできることをするだけです」
きりっとしたスイの表情には意志の強さがあった。シンはゆっくり大きく頷いた。
「君はこの世界を我々よりも何かに捕らわれることなく自身の目で見ている。だから、君の判断を信じる。君は里や世界をきっと良い方向に導いてくれる。そのために里のことも魔珠のことも君自身のことも全て知っておいて欲しかった」
シンは先ほど背後に置いた剣をスイに差し出した。
「それと君にこれを贈ろう」
「拝見します」
優雅な手つきで剣を手元に引き寄せ、スイはゆっくり鞘から剣を抜いた。青みがかった金属の刃からどういうわけか魔力を感じる。まさかこの剣は。
「その剣は魔珠を含む合金からできている特殊な剣だ。我々は『青竜』と呼んでいる。使いこなせる者が使えば、魔力を吸収したり放出することができる。忍びの者たちが魔術師相手に使うために開発されたものだが、使える者は限られている。先天的に相当な魔術の素質がないと使いこなせない。君はコウから父親の話は聞いたかね?」
「忍びで、仲間たちに慕われているとだけ」
シンはにっこり笑った。
「君の父親は君がリザレスに行くまでは各地で活動していたが、その後はパウンディアの担当になった。今は忍びの者たちから情報を集める任務に就いている。メノウはもう誰のことか分かっただろう?」
「はい」
メノウは嬉しそうに答える。
「私の知る限り、君の父親は現在、青竜のいちばんの使い手だ。だが、〈器〉としての適性を持つ君なら父親以上にうまく使いこなせるはずだ」
スイは美しく輝く剣を見つめた。初めて手にする剣なのに驚くほどしっくりくる。
「マーラル王と戦うのならば、魔術兵器のない世界にするのならば、この剣が必要になるだろう。持っていきなさい」
スイは礼を言おうと口を開きかけたが、口をつぐんで少し考えて一度剣を置いた。
「私は里のためにもリザレスのためにも剣を振るうつもりはありません。ただ私が大切に思う人――メノウや家族、友人が今と同じように毎日を送れるようにできるだけのことをしたいだけです。そのためにこのような貴重な品を使わせていただいても構わないのでしょうか?」
偽らずに思いを打ち明けよう。何かに縛られながら未来を選択するのはごめんだ。
しかし、シンは優しく微笑んだ。
「それでいい。国のためとか組織のためとか大層なことを言っている者は、本当に大切なもの、本当に守るべきものを見失って判断を誤ることがある。だから、それでいいのだ」
「ありがとうございます」
スイは剣を鞘に収めてシンに頭を下げた。
「秩序のない世界にならないようにできるだけのことをします」
シンは頷いた。
「その剣は道具に過ぎん。だが、それを使うことによって君のできることが格段に増える。つまり」
シンはいたずらっぽく笑った。
「君の仕事が増えるということだよ」
スイは苦笑いで返すしかなかった。
次回更新予定日:2020/07/18
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きりっとしたスイの表情には意志の強さがあった。シンはゆっくり大きく頷いた。
「君はこの世界を我々よりも何かに捕らわれることなく自身の目で見ている。だから、君の判断を信じる。君は里や世界をきっと良い方向に導いてくれる。そのために里のことも魔珠のことも君自身のことも全て知っておいて欲しかった」
シンは先ほど背後に置いた剣をスイに差し出した。
「それと君にこれを贈ろう」
「拝見します」
優雅な手つきで剣を手元に引き寄せ、スイはゆっくり鞘から剣を抜いた。青みがかった金属の刃からどういうわけか魔力を感じる。まさかこの剣は。
「その剣は魔珠を含む合金からできている特殊な剣だ。我々は『青竜』と呼んでいる。使いこなせる者が使えば、魔力を吸収したり放出することができる。忍びの者たちが魔術師相手に使うために開発されたものだが、使える者は限られている。先天的に相当な魔術の素質がないと使いこなせない。君はコウから父親の話は聞いたかね?」
「忍びで、仲間たちに慕われているとだけ」
シンはにっこり笑った。
「君の父親は君がリザレスに行くまでは各地で活動していたが、その後はパウンディアの担当になった。今は忍びの者たちから情報を集める任務に就いている。メノウはもう誰のことか分かっただろう?」
「はい」
メノウは嬉しそうに答える。
「私の知る限り、君の父親は現在、青竜のいちばんの使い手だ。だが、〈器〉としての適性を持つ君なら父親以上にうまく使いこなせるはずだ」
スイは美しく輝く剣を見つめた。初めて手にする剣なのに驚くほどしっくりくる。
「マーラル王と戦うのならば、魔術兵器のない世界にするのならば、この剣が必要になるだろう。持っていきなさい」
スイは礼を言おうと口を開きかけたが、口をつぐんで少し考えて一度剣を置いた。
「私は里のためにもリザレスのためにも剣を振るうつもりはありません。ただ私が大切に思う人――メノウや家族、友人が今と同じように毎日を送れるようにできるだけのことをしたいだけです。そのためにこのような貴重な品を使わせていただいても構わないのでしょうか?」
偽らずに思いを打ち明けよう。何かに縛られながら未来を選択するのはごめんだ。
しかし、シンは優しく微笑んだ。
「それでいい。国のためとか組織のためとか大層なことを言っている者は、本当に大切なもの、本当に守るべきものを見失って判断を誤ることがある。だから、それでいいのだ」
「ありがとうございます」
スイは剣を鞘に収めてシンに頭を下げた。
「秩序のない世界にならないようにできるだけのことをします」
シンは頷いた。
「その剣は道具に過ぎん。だが、それを使うことによって君のできることが格段に増える。つまり」
シンはいたずらっぽく笑った。
「君の仕事が増えるということだよ」
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