魔珠 第10章 魔珠の里(1) 来客 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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夜九時過ぎ。スイは自宅の書庫にいた。ずらりと並んだ本は主に父セイラムが各地を回って集めたものだ。各国の組織の内部資料など通常の手段では手に入らないような書物も多い。裏ルートを使ったり強奪したものもあるのだろう。
 目当ての本を探す。わかりやすい分類の配置になっているので、目的の本を見つけるのは意外とたやすい。スイは三冊ほど本を手にして部屋に戻る。
 一冊目の本に手をつけたとき、玄関から小さくチャイムの音が聞こえた。こんな時間に誰だろう。心当たりはないので、取りあえずシェリスに任せることにして本を読み進める。来客ならシェリスが呼びに来てくれるだろう。
 しばらく経ってもシェリスは来なかった。何か急ぎの配達物でもあったのだろう。そう思ってページをめくったとき、ドアの向こうから声がした。
「スイ様、お客様です。玄関前の応接室にお通ししておりますので。私はお茶を淹れて参ります」
「分かった。すぐ行く」
 そう答えながら違和感を覚える。
 なぜシェリスは訪問者の名を告げなかったのか。
 シェリスのことだから何か理由があるのだろう。だが、シェリスが応接室に通したということはスイが会う必要のある人物だということだ。
 スイは階段を下りて応接室に向かった。
「失礼します」
 いちおう断っておいてドアを開ける。
「あなたは」
 ソファからすっと立ち上がったその人物を見てスイは息を呑む。前を向いたまま手を後ろに回しドアを閉める。旅人の服装をした男はにっこり笑った。
「やはり覚えておいででしたか。スフィア山脈ではお世話になりました」
 あのときのように黒装束は着ていなかったが、客人として訪れたのだから当然だ。間違いない。スフィア山脈でメノウを尾行していたマーラル兵リーシャを引き渡した忍びの者だ。今まで忍びの者がこのようにスイを訪ねてくることはなかった。何の用だろう。
「なぜあなたがここに?」
 そのとき、失礼いたします、とドアが開いた。シェリスがポットとカップをトレイに載せて持ってきた。
「お話があって参りました」
「話?」
「はい。長老会からスイ殿にお伝えするようにと」
 長老会というのは里の最高決定機関だ。長老を含む七人から成る。長老会という名称だが、長老以外の構成員の年齢はまちまちらしい。
「では、今夜はあなたは里からの使者として来たと考えて差し支えないだろうか」

次回更新予定日:2020/05/16

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