魔珠 第9章 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「本当に……あったんだ」
 キリトはしばらく言葉を失っていたが、スイが兵器の描写をし出すと、注意深く耳を傾けた。
「つまり、リザレスはマーラル以上の性能の魔術兵器の開発に成功していたと?」
「そういうことだ」
「でも、どうやって? そんなに魔力を確保できるわけないだろう」
「できるんだ。そして、その方法を知るために研究所に今日まで泊めてもらっていた」
「そうだったのか」
 まずスイはレヴィリンと同じように魔法水の話をした。
「ああ。確かに。水よりも魔力をたくさん蓄えられるものがあったら、もっと効率よくエネルギーを抽出できるよな」
「博士はその役割を担うものを〈器〉と呼んでいた」
「へえ、なるほどなあ。で、どういうものなんだ、その〈器〉っていうのは?」
「……人間だよ」
 キリトは押し黙った。それはそうだろう。人間を〈器〉にしようなんて思いつくのはレヴィリンだけだろう。キリトは一生懸命頭の中を整理していた。
「確かに。人体は〈器〉の条件を満たしうる。でも」
 キリトも同じことを考えた。人体を〈器〉にしたとして、〈器〉にされた人に何らかの影響は出ないのかと。
「そう。あとどのようにして兵器を作れるほどのエネルギーを抽出したのか。博士に見せていただけることになったのだが」
〈器〉として指定されたエーベルの反応をキリトに伝えた。
「よほど苦しかったんだろうな。それが一週間、いやその後も引っ張るとか。いや、むしろそっちの方が苦しかったのかも」
 スイは険しい表情のまま頷いた。そして、スイが〈器〉になったことを話した。
「それで何日も研究所にいたのか。で、どうだった?」
 聞きたくなかった。スイが苦しい思いをする話なんて。だが、それはスイにとって必要な情報だったからこそ〈器〉になったのだ。スイはその話を聞いて欲しいとキリトに言っている。少しでもそれがスイの望みに添うのなら。キリトは覚悟を決めた。
「魔法陣でまずは魔珠を体内に埋め込むんだ。静かに胸に吸い込まれるように入っていくのに、それだけでもう胸が締めつけられるような、苦しいような、痛いような。それだけでももう二度とやりたくないとほとんどの人が答えると思う」
「そうか。みんなそんな苦痛に耐えて……」
 聞いているだけでも、スイの表情を見ているだけでも苦しい。
「そのあと魔法陣の円周から半球型のシールドのようなものを展開するんだ。そして、魔力を〈器〉に注ぎ込んで……」

次回更新予定日:2020/02/29

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取りあえずまずは私邸に戻る。今日は城に顔を出すつもりはなかった。
「お帰りなさいませ」
「留守の間、いろいろとありがとう。何かあったか?」
「はい。ハウル様が戻ってこられたと。アリサ様がまた改めてお礼を言いたいとおっしゃってました」
「アリサさんに会ったのか?」
「スイ様がしばらくご不在でいらっしゃることをキリト様にお伝えしに行った際に偶然」
「そうだったのか」
「キリト様にはスイ様のお手紙も読んでいただきました」
 さすがシェリスだ。やって欲しいと思っていたことは全部してくれている。
「夜、キリトに会いに行こうと思う。連絡はしなくていい」
「かしこまりました」
 それまでは伝えることを整理しながら体を休めるつもりでいた。一人で研究所で起こったことを思い出すのは怖かったが、これも必要なことだ。

 午後九時前だった。静かな夜で、いつものように自室で読書をしていると、来客を告げられた。
「お帰り、スイ。少しやつれてるぞ」
 指摘されてそうだろうなと思う。自分でも鏡を見てそう思った。
「ハウルさん、帰ってきたよ。ありがとな。アリサも感謝してるって」
 スイは穏やかに微笑んだ。
「で、あの手紙はどこまで本当なんだ?」
 ソファに腰かけながら、キリトは訊ねる。スイも同じように近くのソファに座らせてもらった。
「偽りはない。ただ伝え方が大雑把なだけで」
「では、詳しく話してもらおうか」
 スイは頷いて書庫でレヴィリンに会ったところから話し出した。
「何だかまるでお前をわざわざ迎えに来て誘い出したみたいだな」
 研究室に招かれたところまで聞いて、キリトが感想を述べる。
[お前もそう思うか?」
 キリトは首を縦に振った。
「お前が来たこと知らされて、博士はハウルのこと気づかれたのかもと思ったんじゃないかな。博士はお前の能力を割と正確に把握している。だから先手を打って」
「そうだな。そのとおりだ」
 スイは険しい顔をした。
 レヴィリンの研究室で情報交換をして兵器のある部屋に連れて行かれたことを話した。

次回更新予定日:2020/02/22

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