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「博士は魔術兵器がマーラルに対する抑止力となるとお考えですか?」
レヴィリンは皮肉っぽい笑いを浮かべて答えた。
「君はヌビスをよく知っているようだね。私も魔術師として何回か宮廷に招かれて直接お話をしたから陛下と違ってヌビスがどういう人間かということはよく知っている」
「では、やはり」
「陛下が魔術兵器を保有していることを公表しても、ヌビスは陛下が魔術兵器を抑止力として見ていて、簡単には使わない方だということは分かっている。そして、リザレスの魔術を一流と認めてくれている。であれば、リザレスの魔術兵器と技術を手中に収めるべくリザレスに攻めるというのは自然な考え方ではないかね?」
スイは重い表情で頷いた。
「それにヌビスは何よりも魔術師なのだよ。どうせ戦わなければならないのであれば、研究の成果を存分に試すことのできる舞台に立ちたい。自分が魔術師としてどれほどの力を身につけることができたのか。それを知るために自分と同等かそれより優れた魔術師と戦いたいと願う。それがヌビスという人間だ」
スイの達した結論と同じだった。リザレスが魔術兵器を保有していようがいまいが関係ない。いずれかの国に侵攻して魔珠を確保しなければならないのであれば、ヌビスはリザレスを選ぶ。レヴィリンという大魔術師とレヴィリンが築き上げた魔術部隊と戦い、自分の魔術師としての実力を示したいのだ。
「博士も」
スイが口を開いた。
「魔術師としてヌビスと戦ってみたいとお考えですか?」
すると、レヴィリンはにやりと笑った。
「望むところだ」
「博士もそう考えてるんだ」
「陛下は兵器を過信せずにマーラルの攻撃に備えて準備をされるだろうし、博士も当然そう進言するはずだ。戦闘部隊のほうにも私から働きかけてみる」
「やっぱり……戦争は避けられないんだね」
メノウはぽつりと言った。スイはうつむいたまま頷いた。
「マーラル王を失脚させない限り、魔術兵器は作り続けられる。リザレスも魔術兵器を手放さない」
だが、マーラルの国民はがんじがらめにされている。王の力におびえ、手を伸ばすことさえできない。
「今、他国の者がマーラル王の首を取りに行ったら、仮に成功したとしても、その後の周辺地域の外交関係は混乱するだろう。里だってマーラル王を自らの手で暗殺したりはしないだろう」
「そこまではできないよ。暗殺しようとする国内勢力があれば、支援することはできるけど」
「だが、戦争になればできる」
メノウははっとなってスイの目をのぞき込む。苦悩がにじんだ瞳。それでも、スイの心は決まっていた。
「戦争になれば犠牲が出るのは分かっている。だが、他に方法を思いつかなかった。戦場で誰かが首を取ってもいい。私が狙いに行ってもいい。とにかく一刻も早く、犠牲がなるべく出ないうちにマーラル王の身柄を確保して降伏を求める」
スイは顔を上げて鋭い視線でメノウを真っ直ぐ見つめた。
「マーラルが魔珠を求めて他国を占領したら、里はどうする?」
「それは……その国もマーラルになってしまうわけだから、その国にも魔珠は売れなくなるね」
「加えて魔術兵器を持つリザレスにも魔珠が輸出できなくなる。それでは、さすがに里も経済的に苦しくなっていくのではないか?」
そのとおりだ。いや。マーラルが他国を占領しなくても、マーラルとリザレスという二大国に魔珠を輸出できなくなるだけで、すでに苦しくなる。
「それに里は戦争をできるだけの兵力を持っていない。ヌビス政権を転覆させ、その後速やかに魔術兵器を放棄することを条件に協力してもらうことはできないだろうか」
「確かに」
メノウは真剣な顔をして一瞬考えた。だが、すぐに口元がにやつく。
「いい交渉材料だね。分かった。里に持ち帰ってみるよ」
「感謝する」
スイは魔珠担当官としての職務を果たし、ほっと息をついた。目の前でメノウがせわしなく立ち上がる。
「急いで里に戻らなきゃ。明日朝一の船で帰るよ」
スイは落ち着きのないメノウを見て優しく笑った。
「何をそんなに慌てているんだ。明日にならないと船はないんだろう」
「そうだけど」
スイが訊ねる。
「泊まっていくだろう?」
メノウがいつもの無邪気な笑顔で頷いた。
次回更新予定日:2020/05/09
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レヴィリンは皮肉っぽい笑いを浮かべて答えた。
「君はヌビスをよく知っているようだね。私も魔術師として何回か宮廷に招かれて直接お話をしたから陛下と違ってヌビスがどういう人間かということはよく知っている」
「では、やはり」
「陛下が魔術兵器を保有していることを公表しても、ヌビスは陛下が魔術兵器を抑止力として見ていて、簡単には使わない方だということは分かっている。そして、リザレスの魔術を一流と認めてくれている。であれば、リザレスの魔術兵器と技術を手中に収めるべくリザレスに攻めるというのは自然な考え方ではないかね?」
スイは重い表情で頷いた。
「それにヌビスは何よりも魔術師なのだよ。どうせ戦わなければならないのであれば、研究の成果を存分に試すことのできる舞台に立ちたい。自分が魔術師としてどれほどの力を身につけることができたのか。それを知るために自分と同等かそれより優れた魔術師と戦いたいと願う。それがヌビスという人間だ」
スイの達した結論と同じだった。リザレスが魔術兵器を保有していようがいまいが関係ない。いずれかの国に侵攻して魔珠を確保しなければならないのであれば、ヌビスはリザレスを選ぶ。レヴィリンという大魔術師とレヴィリンが築き上げた魔術部隊と戦い、自分の魔術師としての実力を示したいのだ。
「博士も」
スイが口を開いた。
「魔術師としてヌビスと戦ってみたいとお考えですか?」
すると、レヴィリンはにやりと笑った。
「望むところだ」
「博士もそう考えてるんだ」
「陛下は兵器を過信せずにマーラルの攻撃に備えて準備をされるだろうし、博士も当然そう進言するはずだ。戦闘部隊のほうにも私から働きかけてみる」
「やっぱり……戦争は避けられないんだね」
メノウはぽつりと言った。スイはうつむいたまま頷いた。
「マーラル王を失脚させない限り、魔術兵器は作り続けられる。リザレスも魔術兵器を手放さない」
だが、マーラルの国民はがんじがらめにされている。王の力におびえ、手を伸ばすことさえできない。
「今、他国の者がマーラル王の首を取りに行ったら、仮に成功したとしても、その後の周辺地域の外交関係は混乱するだろう。里だってマーラル王を自らの手で暗殺したりはしないだろう」
「そこまではできないよ。暗殺しようとする国内勢力があれば、支援することはできるけど」
「だが、戦争になればできる」
メノウははっとなってスイの目をのぞき込む。苦悩がにじんだ瞳。それでも、スイの心は決まっていた。
「戦争になれば犠牲が出るのは分かっている。だが、他に方法を思いつかなかった。戦場で誰かが首を取ってもいい。私が狙いに行ってもいい。とにかく一刻も早く、犠牲がなるべく出ないうちにマーラル王の身柄を確保して降伏を求める」
スイは顔を上げて鋭い視線でメノウを真っ直ぐ見つめた。
「マーラルが魔珠を求めて他国を占領したら、里はどうする?」
「それは……その国もマーラルになってしまうわけだから、その国にも魔珠は売れなくなるね」
「加えて魔術兵器を持つリザレスにも魔珠が輸出できなくなる。それでは、さすがに里も経済的に苦しくなっていくのではないか?」
そのとおりだ。いや。マーラルが他国を占領しなくても、マーラルとリザレスという二大国に魔珠を輸出できなくなるだけで、すでに苦しくなる。
「それに里は戦争をできるだけの兵力を持っていない。ヌビス政権を転覆させ、その後速やかに魔術兵器を放棄することを条件に協力してもらうことはできないだろうか」
「確かに」
メノウは真剣な顔をして一瞬考えた。だが、すぐに口元がにやつく。
「いい交渉材料だね。分かった。里に持ち帰ってみるよ」
「感謝する」
スイは魔珠担当官としての職務を果たし、ほっと息をついた。目の前でメノウがせわしなく立ち上がる。
「急いで里に戻らなきゃ。明日朝一の船で帰るよ」
スイは落ち着きのないメノウを見て優しく笑った。
「何をそんなに慌てているんだ。明日にならないと船はないんだろう」
「そうだけど」
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「じゃあ、マーラルを何とかしたら、リザレス王は兵器をこちらに引き渡してくれるかなあ」
スイはメノウの瞳をのぞき込んだ。
「お前はどう思う?」
「僕はね」
メノウはにっこり微笑んだ。
「リザレス王は現実主義者なんじゃないかと思っているんだ。だからこそマーラルが兵器を開発していると聞いて兵器を作らせた。だから、兵器を引き渡すことで里から魔珠が供給されるのであれば、兵器を手元に置いておくことにこだわらないと思うんだ」
メノウの読みは正しい。リザレス王エトはそういう人だ。
「ただね、陛下の周りにはせっかく作った兵器を手放したくないって思う人もいるんじゃないかって思うんだ」
「そういう勢力が現れたら、そのときにつぶせばいい」
スイの頭にあったのはレヴィリン。だが、他にもエトの周りにそのように考えている人間がいる可能性は大いにある。魔術兵器の開発などという思い切ったことが実現できたのは、兵器の保有に肯定的なものが少なからず王の取り巻きにいたからに違いないからだ。
「そうか。そこまで考えてくれていたんだね。でもね」
メノウは意地の悪い笑いを浮かべた。
「本当にリザレスの魔術兵器はマーラル侵攻の抑止力として働くと思う?」
すると、スイも苦笑する。
「思わないな」
言い切って続ける。
「里がマーラルへの魔珠の輸出停止を発表する。周辺国のいずれかを攻めて魔珠を確保する。いずれかの国と戦わなければならないのなら、魔術師としての己の力を試してみたいと願ってやまないマーラル王は、ためらうことなく自分に匹敵する大魔術師であるレヴィリンを相手として選ぶ。そのタイミングでリザレスが兵器の保有を宣言したとしてもそれは何の意味もない。魔術兵器も奪えるなら好都合と思うだけだろう。マーラル王はそういうお方だ」
「そうだよね。でも」
メノウの目が意地悪く笑う。
「陛下には教えてあげなかったんだ」
「陛下も兵器に絶対的な信頼を置いているわけではない。戦争を回避するために使える可能性のあるカードの一つに過ぎない。それに」
スイはため息をついた。
「実は、レヴィリン博士とも話をしたのだが」
エトに魔術兵器のことを確認しに行った後のことだ。談話室でレヴィリンにメノウと同じ質問をした。
次回更新予定日:2020/05/02
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スイはメノウの瞳をのぞき込んだ。
「お前はどう思う?」
「僕はね」
メノウはにっこり微笑んだ。
「リザレス王は現実主義者なんじゃないかと思っているんだ。だからこそマーラルが兵器を開発していると聞いて兵器を作らせた。だから、兵器を引き渡すことで里から魔珠が供給されるのであれば、兵器を手元に置いておくことにこだわらないと思うんだ」
メノウの読みは正しい。リザレス王エトはそういう人だ。
「ただね、陛下の周りにはせっかく作った兵器を手放したくないって思う人もいるんじゃないかって思うんだ」
「そういう勢力が現れたら、そのときにつぶせばいい」
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「そうか。そこまで考えてくれていたんだね。でもね」
メノウは意地の悪い笑いを浮かべた。
「本当にリザレスの魔術兵器はマーラル侵攻の抑止力として働くと思う?」
すると、スイも苦笑する。
「思わないな」
言い切って続ける。
「里がマーラルへの魔珠の輸出停止を発表する。周辺国のいずれかを攻めて魔珠を確保する。いずれかの国と戦わなければならないのなら、魔術師としての己の力を試してみたいと願ってやまないマーラル王は、ためらうことなく自分に匹敵する大魔術師であるレヴィリンを相手として選ぶ。そのタイミングでリザレスが兵器の保有を宣言したとしてもそれは何の意味もない。魔術兵器も奪えるなら好都合と思うだけだろう。マーラル王はそういうお方だ」
「そうだよね。でも」
メノウの目が意地悪く笑う。
「陛下には教えてあげなかったんだ」
「陛下も兵器に絶対的な信頼を置いているわけではない。戦争を回避するために使える可能性のあるカードの一つに過ぎない。それに」
スイはため息をついた。
「実は、レヴィリン博士とも話をしたのだが」
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次回更新予定日:2020/05/02
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「そうだね。スイだったらちゃんと交わせていたね」
短剣に付いた血を拭き取ろうとハンカチを出した。
「私を殺すのではなかったのか?」
訊かれてメノウは力なく笑った。
「無理だよ。殺されるかもしれないと警戒するスイが僕の短剣を交わせないはずないもん」
スイはくすっと笑って手を出した。
「洗おう」
メノウの素直に差し出した短剣を受け取り、短剣と傷口を水で洗った。
「どうしようかな」
メノウが深いため息をつく。
「魔珠の秘密を知ってしまったスイたちを消さなかった僕は里の裏切り者だ。僕は消される」
スイはきれいに拭いて水気を取った短剣をメノウに手渡した。
「メノウ、魔珠の問題は里とリザレスだけの問題じゃない。世界は常に動いている。売人と担当官。交渉して里もリザレスも納得できるような条件を探し出すのが私たちの仕事だろう」
「そうだね。そうだったね」
メノウはスイから返された短剣を鞘に収めた。
「大丈夫だ。交渉の余地はある」
「分かったよ。話をしよう」
二人は笑顔で頷いて元の席に着いた。メノウが初めて茶に手をつける。スイもそれを確認して笑顔になる。
「それでは、まず国王陛下のお考えを聞いてもらおうか」
「ちゃんと話を訊きに行ってくれたんだね。聞かせて」
スイは頷いて話を始めた。
「そもそも兵器の開発は、マーラルが兵器を手にしたとき、容易には侵攻してこないようにするために始まったらしい」
「やっぱりマーラルの兵器開発の情報を受けて始めたんだね」
「そう。そして、陛下は、マーラルの兵器は押収されたが、里が開発を断念させるために魔珠の輸出を停止するのではないかと考えておられる」
「おそらく近日中にね」
「そうなったとき、マーラルは他国に侵攻して魔珠を確保するのではないかと陛下は見ている」
「自然な考え方だね。そのときに兵器を持っていれば、標的がリザレス以外の国になってくれるんじゃないか、ってことかなあ」
「だから、まだ兵器を手放すわけにはいかないのだと」
次回更新予定日:2020/04/25
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短剣に付いた血を拭き取ろうとハンカチを出した。
「私を殺すのではなかったのか?」
訊かれてメノウは力なく笑った。
「無理だよ。殺されるかもしれないと警戒するスイが僕の短剣を交わせないはずないもん」
スイはくすっと笑って手を出した。
「洗おう」
メノウの素直に差し出した短剣を受け取り、短剣と傷口を水で洗った。
「どうしようかな」
メノウが深いため息をつく。
「魔珠の秘密を知ってしまったスイたちを消さなかった僕は里の裏切り者だ。僕は消される」
スイはきれいに拭いて水気を取った短剣をメノウに手渡した。
「メノウ、魔珠の問題は里とリザレスだけの問題じゃない。世界は常に動いている。売人と担当官。交渉して里もリザレスも納得できるような条件を探し出すのが私たちの仕事だろう」
「そうだね。そうだったね」
メノウはスイから返された短剣を鞘に収めた。
「大丈夫だ。交渉の余地はある」
「分かったよ。話をしよう」
二人は笑顔で頷いて元の席に着いた。メノウが初めて茶に手をつける。スイもそれを確認して笑顔になる。
「それでは、まず国王陛下のお考えを聞いてもらおうか」
「ちゃんと話を訊きに行ってくれたんだね。聞かせて」
スイは頷いて話を始めた。
「そもそも兵器の開発は、マーラルが兵器を手にしたとき、容易には侵攻してこないようにするために始まったらしい」
「やっぱりマーラルの兵器開発の情報を受けて始めたんだね」
「そう。そして、陛下は、マーラルの兵器は押収されたが、里が開発を断念させるために魔珠の輸出を停止するのではないかと考えておられる」
「おそらく近日中にね」
「そうなったとき、マーラルは他国に侵攻して魔珠を確保するのではないかと陛下は見ている」
「自然な考え方だね。そのときに兵器を持っていれば、標的がリザレス以外の国になってくれるんじゃないか、ってことかなあ」
「だから、まだ兵器を手放すわけにはいかないのだと」
次回更新予定日:2020/04/25
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「どういうことだ?」
何となく嫌な予感がよぎってスイは眉をひそめた。すると、メノウは皮肉っぽい笑いを浮かべて言った。
「昔は採掘して加工していたんだ。でも、もう百年以上も前に魔珠は取り尽くされてしまった」
「そんな。では、今は……」
「君たちと一緒だよ」
少年のような顔立ちのメノウが悪魔のように口元を吊り上げる。
「人間を〈器〉にして生成するんだよ」
スイは愕然とした。今、世界でエネルギー源として使用されている魔珠が全て人間の犠牲によって得られたものだったなんて。誰かを犠牲にすることでしかこの世界を維持できないなんて。
「つまり君たちは里と同じ方法で魔珠を手に入れることができりょうになってしまった。厳密に言うと〈器〉になる人の確保の仕方がちょっと違うんだけど、そんなことはどうでもいい。問題はそんなことをされたら、里の存続に関わるってことだよ」
確かに魔珠の売買はこれまで里が独占してきた。魔珠の売買を独占できたからこそ大国と台頭に渡り合えた。しかし、リザレスにもその技術が知られてしまったとなると。
「見過ごすわけにはいかないんだよ。分かるよね?」
スイは静かに頷いた。
「僕たちは魔珠の生成方法を知った全ての人たちと関係施設をこの世界から消さないといけない。魔術研究所、リザレス王とその側近、政務室の関係者。マーラルから没収した魔術兵器をクラークで使えば手っ取り早いかな。そうしたら、どうする?」
「そんなことは許さない。全力で阻止する」
魔術兵器を使えば、おそらくクラークのほぼ全域が被害を受ける。関係のない人たちが巻き込まれ命を落とす。キリトやクラウス家の人々、シェリス、外務室の仲間、他にも生まれ育ったクラークには友人や知人が多く住んでいる。そうでなくても、自ら志願して兵士となったわけでもない一般の民衆が無差別に犠牲になる事態は何としてでも阻止すべきだ。
「そうだよね」
きらりと光ったものを目が捉え、反射的に右に避けた。痛みを感じて左腕を押さえる。
「避けるとは思わなかった。意外と、信用されていなかったんだね」
顔を上げると、メノウが血のついた短剣を握っていた。悪い顔をするときの冷酷な笑みを浮かべたままだったが、澄んだその瞳からは涙が一粒こぼれ落ちた。メノウも信じていて欲しかったのだと涙を見て理解し、スイはほっと胸を撫で下ろす。もやもやが晴れた心から穏やかな微笑みがこぼれる。
「信用していなかったら、避け切れていた」
メノウは一瞬呆然となって、どこか影のある笑顔になる。
次回更新予定日:2020/04/18
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何となく嫌な予感がよぎってスイは眉をひそめた。すると、メノウは皮肉っぽい笑いを浮かべて言った。
「昔は採掘して加工していたんだ。でも、もう百年以上も前に魔珠は取り尽くされてしまった」
「そんな。では、今は……」
「君たちと一緒だよ」
少年のような顔立ちのメノウが悪魔のように口元を吊り上げる。
「人間を〈器〉にして生成するんだよ」
スイは愕然とした。今、世界でエネルギー源として使用されている魔珠が全て人間の犠牲によって得られたものだったなんて。誰かを犠牲にすることでしかこの世界を維持できないなんて。
「つまり君たちは里と同じ方法で魔珠を手に入れることができりょうになってしまった。厳密に言うと〈器〉になる人の確保の仕方がちょっと違うんだけど、そんなことはどうでもいい。問題はそんなことをされたら、里の存続に関わるってことだよ」
確かに魔珠の売買はこれまで里が独占してきた。魔珠の売買を独占できたからこそ大国と台頭に渡り合えた。しかし、リザレスにもその技術が知られてしまったとなると。
「見過ごすわけにはいかないんだよ。分かるよね?」
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「僕たちは魔珠の生成方法を知った全ての人たちと関係施設をこの世界から消さないといけない。魔術研究所、リザレス王とその側近、政務室の関係者。マーラルから没収した魔術兵器をクラークで使えば手っ取り早いかな。そうしたら、どうする?」
「そんなことは許さない。全力で阻止する」
魔術兵器を使えば、おそらくクラークのほぼ全域が被害を受ける。関係のない人たちが巻き込まれ命を落とす。キリトやクラウス家の人々、シェリス、外務室の仲間、他にも生まれ育ったクラークには友人や知人が多く住んでいる。そうでなくても、自ら志願して兵士となったわけでもない一般の民衆が無差別に犠牲になる事態は何としてでも阻止すべきだ。
「そうだよね」
きらりと光ったものを目が捉え、反射的に右に避けた。痛みを感じて左腕を押さえる。
「避けるとは思わなかった。意外と、信用されていなかったんだね」
顔を上げると、メノウが血のついた短剣を握っていた。悪い顔をするときの冷酷な笑みを浮かべたままだったが、澄んだその瞳からは涙が一粒こぼれ落ちた。メノウも信じていて欲しかったのだと涙を見て理解し、スイはほっと胸を撫で下ろす。もやもやが晴れた心から穏やかな微笑みがこぼれる。
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次回更新予定日:2020/04/18
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「一通り博士がエネルギーの抽出方法の話をして、最新技術を見せてくれると魔法陣から見たことのない施設に案内してくれた」
「見たことのない施設? どこにあるか見当つかない?」
メノウが食いついてきた。
「残念だが、さっぱり。マーラルのように研究所の地下の空間かもしれないし、別の場所かもしれない」
「で、あったの?」
「ああ。あった。マーラルよりも高性能と思われる魔術兵器が」
「やっぱり……」
メノウは目をそらした。スイも目をそらしたかったが、そうしたい気持ちを抑えてメノウの反応をそっと観察する。何も言葉が出てこないようなので、スイから口を開く。
「こんなことになって申し訳ない。私の目が行き届かなかったばかりに」
「ううん。スイは悪くないよ」
慌ててメノウは首を振った。
「あの輸入量で兵器を作れるなんて考えられない。博士が……うまくやったんだよ」
そう考えるのは妥当かもしれない。だが、何の慰めにもならない。
「それで、博士はどうやってそれだけのエネルギーを確保したの?」
「人間を……〈器〉にするんだ」
スイは別の実験室に案内されて魔結晶を生成する工程を見せてもらうことになったことを話した。指名された魔術師の反応、そして。
「スイは〈器〉になったの?」
メノウの顔が青ざめた。だが、その後の反応は冷静だった。魔結晶ができあがるまでの過程、その後〈器〉に襲いかかる真の恐怖。一通り話を聞き終わったメノウは薄気味悪い笑いを口元に浮かべた。
「そう……リザレスはそんなところまで辿り着いてしまったんだ」
見たことのない笑い。スイは全ての思考が凍り付いたようになった。だが、すぐにメノウに質問されて無理やり思考を再開するはめになる。
「ねえ、スイ。魔珠ってどうやってできるものだと思う?」
ずっと里だけの秘密にされてきたこと。だからスイには分からない。それでもこういうものなのではないかとずっと考えていることはあった。
「魔珠は鉱物で、採掘されて宝石のように加工された状態のものなのではないかと創造していたのだが」
「そう。そのとおりだよ。いや。そのとおりだった、という方が正しいかな」
次回更新予定日:2020/04/11
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慌ててメノウは首を振った。
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「そう……リザレスはそんなところまで辿り着いてしまったんだ」
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