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もう一度やってくれないかと言われても、丁重にお断りだ。
だが、もし里からの魔珠の供給が止まってしまえば、選択の余地はない。魔術師たちは交替で〈器〉になり、魔結晶を生成していかなくてはならないのだ。
スイは心の中でため息をついた。まだ呼吸は荒れたままだ。
心が折れそうだ。士官学校にいたときのようにキリトが隣にいてくれたら。一人で呪術の苦痛と闘うことがこんなにつらいことだったなんて忘れていた。
大声を出したいのを我慢して髪をかき上げ、耳をふさぐ。不安な気持ちで押しつぶされそうになる。
不意に部屋の扉が開いた。気配に気づけなかった。よほど体が鈍っているのだろう。スイはなるべく冷静を装って顔を上げた。成功したかどうかは自信がない。
「目を覚ましていたか。食事を持ってきてみたのだが、どうだね?」
レヴィリンの持っていたトレイには、パンとスープと呪術の効果を和らげる青バラの薬の入った小瓶が置いてあった。
「いただきます」
食欲などまるでなかった。喉を通るかどうかも分からなかったが、無理やりスープを一口飲み込む。なるべくここで得た情報をどうするか決断しなければならない瞬間が遅くなって欲しいと願っている。だが、同時に行動は早く起こさないといけないということも分かっている。少しでも栄養を取って早く回復しなくては。
「大したものだ。他の者は三日経っても薄いスープを口にするのがやっとだったのに」
パンに手を伸ばして少しずつちぎって口に入れ、噛み砕き、スープと一緒に喉に流し込む。
「だいぶ減っているな」
レヴィリンはベッドの横に置いてあった小瓶を見て言った。抑揚のない口振りで、客観的事実を述べただけといった印象だ。運んできた小瓶を横に置いたのをスイはパンと格闘しながら何となく確認した。
五日目の夕方、レヴィリンが現れた。
立って部屋に置いてあった本棚の前で本を手に取って読んでいたスイがゆっくりと振り向く。
「朝と昼、君の様子を見に来た者から、もういいんじゃないかと言われてね。そこにかけたまえ」
レヴィリンは近くにあった椅子にスイを座らせ、顔色や体の状態を見た。
「ゆうべはもうちゃんと眠れたかね?」
「何度か夢にうなされて目が覚めましたが、昼間起きていられる程度には。今日は朝目覚めてから休んでいません」
「それでこの状態なら問題ないな。素晴らしい回復力だ」
レヴィリンは歯をむき出してにやりと笑った。
「帰宅を許可しよう。ところで」
スイは形だけでも礼を述べておこうと思い、口を開きかけたが、先にレヴィリンに遮られた。
「どうするか決めたかね?」
もちろんここで得た情報を、だ。
「ええ。決めました」
スイは凜とした表情になり、どこか不敵な笑みを浮かべた。
「この情報で世界が一変するかもしれません。情報を里に明かすか偽るか。そんな単純な問題ではないのです。必要に応じて適宜利用させてもらうことにしますよ」
「なるほど我が国の魔珠担当官は聡明な方だ。では、私はしばらく成り行きを見守らせてもらうとするかな」
目に鋭い光を残したまま、レヴィリンは扉を開けた。
「せいぜい楽しませてもらおうじゃないか」
「ええ。期待していてください」
強気に振る舞う。そうしないと、崩れてしまいそうだった。
次回更新予定日:2020/02/15
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だが、もし里からの魔珠の供給が止まってしまえば、選択の余地はない。魔術師たちは交替で〈器〉になり、魔結晶を生成していかなくてはならないのだ。
スイは心の中でため息をついた。まだ呼吸は荒れたままだ。
心が折れそうだ。士官学校にいたときのようにキリトが隣にいてくれたら。一人で呪術の苦痛と闘うことがこんなにつらいことだったなんて忘れていた。
大声を出したいのを我慢して髪をかき上げ、耳をふさぐ。不安な気持ちで押しつぶされそうになる。
不意に部屋の扉が開いた。気配に気づけなかった。よほど体が鈍っているのだろう。スイはなるべく冷静を装って顔を上げた。成功したかどうかは自信がない。
「目を覚ましていたか。食事を持ってきてみたのだが、どうだね?」
レヴィリンの持っていたトレイには、パンとスープと呪術の効果を和らげる青バラの薬の入った小瓶が置いてあった。
「いただきます」
食欲などまるでなかった。喉を通るかどうかも分からなかったが、無理やりスープを一口飲み込む。なるべくここで得た情報をどうするか決断しなければならない瞬間が遅くなって欲しいと願っている。だが、同時に行動は早く起こさないといけないということも分かっている。少しでも栄養を取って早く回復しなくては。
「大したものだ。他の者は三日経っても薄いスープを口にするのがやっとだったのに」
パンに手を伸ばして少しずつちぎって口に入れ、噛み砕き、スープと一緒に喉に流し込む。
「だいぶ減っているな」
レヴィリンはベッドの横に置いてあった小瓶を見て言った。抑揚のない口振りで、客観的事実を述べただけといった印象だ。運んできた小瓶を横に置いたのをスイはパンと格闘しながら何となく確認した。
五日目の夕方、レヴィリンが現れた。
立って部屋に置いてあった本棚の前で本を手に取って読んでいたスイがゆっくりと振り向く。
「朝と昼、君の様子を見に来た者から、もういいんじゃないかと言われてね。そこにかけたまえ」
レヴィリンは近くにあった椅子にスイを座らせ、顔色や体の状態を見た。
「ゆうべはもうちゃんと眠れたかね?」
「何度か夢にうなされて目が覚めましたが、昼間起きていられる程度には。今日は朝目覚めてから休んでいません」
「それでこの状態なら問題ないな。素晴らしい回復力だ」
レヴィリンは歯をむき出してにやりと笑った。
「帰宅を許可しよう。ところで」
スイは形だけでも礼を述べておこうと思い、口を開きかけたが、先にレヴィリンに遮られた。
「どうするか決めたかね?」
もちろんここで得た情報を、だ。
「ええ。決めました」
スイは凜とした表情になり、どこか不敵な笑みを浮かべた。
「この情報で世界が一変するかもしれません。情報を里に明かすか偽るか。そんな単純な問題ではないのです。必要に応じて適宜利用させてもらうことにしますよ」
「なるほど我が国の魔珠担当官は聡明な方だ。では、私はしばらく成り行きを見守らせてもらうとするかな」
目に鋭い光を残したまま、レヴィリンは扉を開けた。
「せいぜい楽しませてもらおうじゃないか」
「ええ。期待していてください」
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