魔珠 第8章 魔結晶(4) 器4 忍者ブログ
オリジナルファンタジー小説『魔珠』を連載しています。 前作『ヴィリジアン』も公開しています。
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「矛盾するところがないか確認していただいてもよろしいでしょうか」
 スイは手紙をレヴィリンに渡した。
 研究所でレヴィリンに会ったこと。現在進行中の実験に立ち会わせてもらえることになったこと。最大で一週間ほど研究所から戻らないこと。その間、家のことをよろしく頼むと締めくくられていた。
「この手紙は魔結晶が完成した段階で渡すのがいいだろう。研究所の者が直接届けるように手配しよう」
「お願いします」
 一つやるべきことが終わって一息つく。まだこの情報は誰にも明かさない。自分でどう利用するか判断するまでは。
「では、始めようか」
 誰もいない広いスペースにレヴィリンは魔法陣を描いた。
「その中に仰向けに横たわりたまえ。楽にしてくれていて構わない」
 スイは言われたとおり、まだ魔力の注がれていない黒い魔法陣の中に入って横たわった。
「まずは魔珠を体内に埋め込む」
 レヴィリンは横に屈み、魔珠をスイの胸に押し当てた。魔珠が光を放ちながら胸に吸い込まれるようにして入っていく。スイは締めつけられるような違和感を覚えて小さくうめき声を上げた。苦しい。うめき声が抑えきれなくなっていく。これだけでも相当な苦痛だ。
「これで君は〈器〉になった」
 そう言われたときには、もう呼吸がおかしくなっていた。全身に変な汗をかいている。
 ちゃんと見なければ。
 無理やりうっすらと目を開いてレヴィリンが魔法陣の外に出るのを確認する。
 魔法陣が光を帯び、その外周から透明のドームのようなシールドが展開される。スイはシールドに閉じ込められるような形になった。
「今から君に魔力を注ぐ。君という〈器〉の中で魔珠を短時間で溶かし、そのエネルギーをこのシールドに集める。そして、それを結晶化する。いいね?」
 声が出なかったので、小さく頷く。一瞬レヴィリンが残酷な笑いを浮かべたのが見えたような気がしたが、もうそれどころではなかった。身体の中ですさまじい魔力が暴走し始め、全身が砕けそうな感覚に襲われた。魔術師たちはこんな苦しみを我慢して――そう飛び飛びの意識の中でぼんやり考えていたときだった。絶叫が室内にこだまして研究員たちが思わず耳をふさぐ。
 黒いローブの上からもくっきり見えるくらい明るく、マーラル王につけられた呪術の痕が浮かび上がった。刻まれた呪術が魔力に強く反応して発動している。胸が様々な方向にねじれてそのままちぎられていくような激痛がじわりと身体をむしばんでいく。苦痛が強すぎて魔珠のエネルギーの暴走による苦痛がどこに行ったのか分からない。

次回更新予定日:2020/01/04

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