「だったら」
レヴィリンはにやりと気味の悪い笑いを口元に浮かべてスイの瞳をのぞき込んだ。
「君が〈器〉になるかね?」
スイは驚いた表情でレヴィリンを見返した。
「私が、なれるのですか?」
食いついてきたスイにレヴィリンは目を輝かせる。
「君なら魔力を蓄積するのに充分な容量がある。初めて君を見たとき、なぜ魔術師にならなかったのかと思ったよ」
父にも魔術師の素質があると言われた。母方の家系からは宮廷魔術師が何人か出ている。おそらく遺伝的な要素も関係しているのだろう。魔力に対する耐性を剣術などと平行して鍛錬してきたが、それも関係あるのだろうか。魔術師になろうとは一度も考えたことはなかったので、魔力がどの程度体内に蓄積できるのかということは今まで考えたことはなかった。だが、〈器〉になれるということであれば、なってみる価値はある。
「どこまで意識を維持していられるかが問題だが、君ほどの精神力があれば心配ないだろう」
周りの魔術師たちは一斉に驚いた顔をしてこちらを見た。魔術師たちが〈器〉になったとき、魔結晶ができあがるまで意識を維持するのは困難だったということなのだろう。できるだろうか。最後まで見られなくてもできるところまでこの目で見る。どれほどの苦痛を伴うのか、どれほどの犠牲を払えば魔結晶を手にできるのか知るだけでも、今後の判断材料になる。
「意識の回復には時間がかかるのでしょうか?」
必要と思われることをあぶり出して訊いていく。
「個人差はあるが、だいたい二十四時間以内には一度回復する。ただ魔力と体力の回復には一週間ほどかかる。あと精神をやられる。一週間ほど悪夢と闘いながら寝たり覚めたりを繰り返す」
「では、その間は研究所からは出られませんね」
「そうだな。しばらく所内のベッドに横たわって休んでもらうことになる」
キリトには今日は書庫に調べ物をしに行くとしか言っていない。午後には外務室に戻るつもりだった。シェリスにも同じように伝えた。いつも通り夜には帰ってくると思っているだろう。
「執事に一筆書いておこうと思うのですが」
レヴィリンもスイの意図をすぐに理解し、ペンと紙を用意させた。スイはさらさらと流れるような手つきで手紙を書いた。
次回更新予定日:2019/12/28
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